2012年9月29日土曜日

「第3回 Cancer Board」

「Cancer Board」というのは、Wikipediaによると、「集学的治療や標準的治療等を提供する際に、手術、放射線療法および化学療法に携わる専門的な知識および技能を有する医師、画像診断、病理診断等を担当する医師やがん医療に携わる専門職等が職種を越えて集まり、がん患者の症状、状態および治療方針等を意見交換・共有・検討・確認等するためのカンファレンスのこと」と書いてあります。

私たちの病院は、将来的にがん拠点病院を目指していることもあり、今年の夏から院内のCancer Boardを定期的に開催するようになりました。ただ、今のところはこの馴染みのないカンファレンスを院内の多職種の人たちに浸透させることが目的ですので、各センターごとに持ち回りで担当してテストケース的に行なっています。来週はついに乳腺センターが担当になりました。

私たちの病院の症例で治療方針を決める場合は、センター内でも毎朝打ち合わせをしていますし、時間がないときは院内のメールで情報交換をしたりしています。また、病理科、緩和ケア科、精神科、整形外科などの科とも直接連絡を取り合って方針を立てていますので、実際に判断に困って大勢の中で治療方針を決めなければならないような症例はあまりありません。ですから今回の提示は、乳がんの患者さんの治療経過は他のがんの患者さんとは少し違うので、さまざまな判断が異なっているということを紹介することを目的にしようかと思っています。

いま考えている症例は、治療経過がとても長い患者さんです。乳がんの手術は今から25年以上前。再発したのは今から10年以上前です。その後、化学療法、内分泌療法をいろいろと繰り返して今までほとんどの時間を自宅で過ごしてきました。私は再発後からのおつきあいですが、自宅が遠いこともあって、治療方針の決定にはずいぶんと苦労しました。

今年に入ってからは、ちょっと深刻な状態になってきていて、治療はさらに複雑になってきました。でも時々入院はしますが、まだほとんど外来で治療を行なっています。普通なら、もう緩和治療にシフトしても良い時期なのかもしれませんが、患者さんは闘う意欲を見せていますし、毎回毎回治療を変更するたびに一定の効果を見せてくれますので、患者さんが望めばもう少し治療を頑張ってみようかと考えています。来週のCancer Boardでは、そんなお話をしようかと思っています。

2012年9月26日水曜日

完全予約制外来と待ち時間

最近頭を悩ませているのが、関連病院の外来の待ち時間の問題です。

以前は乳腺の専門外来ではなく、一般外来で予約制ではなかったため、かなり待ち時間が長くなってしまうこともありました。そこで数年前から予約制の乳腺専門外来(乳がん検診の患者さんと、完全予約制とは知らずに受診してしまった患者さんは別です)にしたおかげで待ち時間の問題はかなり改善されました。

ところが最近ではこのシステムがうまくいかなくなっています。本来は、30分単位で3人、9時から12時までで18人が基本ですが(検診の患者さんは別です)、この枠では最初からおさまらず、だいたい1日25人から30人程度の予約患者さんを診ていました。ただ、ほとんどの患者さんは、超音波検査やマンモグラフィを行なってから診察に入りますので9時に検査開始だと診察に戻って来られるのはどうしても遅くなってしまいます。結果的に診療時間の前半の診察予約は少なくて後半に集中してしまうことになっているのです。

現行の予約システムはトータルでの人数制限はありますが、時間単位(30分)あたりの人数制限はありません。ですから、最後の11時半から12時の時間枠に7人とか8人とかの予約が入ってしまうことになっています。30分でこれだけの人数はかなり厳しいですし、その前も遅れ遅れになっていますので、結局最後の予約患者さんを診察できるのは13時半とかになってしまっています。この予約患者さん以外に、あらかじめ時間がかかりそうな細胞診や病理結果をお話しする患者さんは別枠で12時からの予約枠を作っているのですが、これらの患者さんたちは1時間半以上、お待たせすることになってしまいます。これでは完全予約制の意味がありません。

原因は、
①電子カルテを7月から導入したばかりで、データの書き写しなどに時間を要しているために、以前より1人当たりに時間がかかっている。
②超音波検査の検査開始時間を早めることを以前から非公式に何度か打診しているが実現には至っていない。
③マンモグラフィの撮影機が1台しかないために検診の増加によって戻りが遅くなっている?
③H先生が診療所の助勤に行かされてしまったために、今までお願いしていた2診体制での検診の援助が得られなくなっている、H先生が検査オーダーした検査結果を聞きに来る(時間を要する)患者さんたちが私の外来に流れてきている。
などが考えられます。

最近あまりにも状況がひどいために私の機嫌は日に日に悪化しています(もちろん患者さんには遅くなったことをお詫びして、機嫌の悪さを見せないようにしていますが…)。私に予約の組み方の文句を言われる外来看護師には悪いと思っていますが、完全予約制だから待ち時間が少ないと思って来て下さっている患者さんたちを長時間お待たせしてしまうのは非常に申し訳ないと思いますし、自分自身もそれが大きなストレスなのです。

国内の有名病院ではもっと待ち時間の長いところもあると思います。大病院ほど患者さんが集中しますので、そういう病院のDrはもっと大変だと思います。中には、患者数が多いのだから待ち時間が長くなるのは当然だ、と思うDrもいるかもしれません。そういうDrはあまりストレスを感じないのかもしれませんが、私はどうしてもそういう心境にはなれません。なんとか良い解決方法を見つけ出さなければならないと感じています。


2012年9月24日月曜日

10/21はJ.M.S! 今年も日曜検診やります!

毎年、J.POSHの活動として行なっている、J.M.S(ジャパン・マンモグラフィ・サンデー)が今年は10/21(日)に全国のJ.M.S賛同医療機関で行なわれます。今回も私たちの施設でも参加していますが、できるだけ多くの方に受けていただきたいと思っています。

この活動は、J.POSHの主導で2009年に行なわれてから今回で4回目になります。今年の賛同医療機関は現時点で全国334施設にのぼっています。平日は仕事や子育てでなかなか受診できない女性が乳がん検診を受けれるようにと始まったこの活動ですが、受診希望者の感想は好評のようです。2010年の乳がん検診受診率は全国で24.3%と目標の50%の半分にも満たない状況ですが、このJ.M.Sを通じて少しでも検診受診者が増えてくれればと願っています。

今のところの問題は、10/21にG先生が不在だということです。実は今日、そのことに気づいたのですが、関連病院でも日曜検診があるために私一人では掛け持ちは当然無理ですので誰かに手伝ってもらわなければなりません。乳腺センターを手伝ってもらっているH先生にお願いしようかなと考えていますが…(汗)

このJ.M.Sに賛同している医療機関は、J.POSHのHPから見ることができますのでご参照下さい(http://jms-pinkribbon.com/)。今まで乳がん検診を受けたことがない方は、是非お友達も誘ってこの機会に検診を受けてみて下さいね!

2012年9月21日金曜日

季節の変わり目

食欲の秋、芸術の秋、スポーツの秋、そして天気が変わりやすい秋がやってきました。

今朝、Tシャツで外に出たら久しぶりにひんやりしました。夕方も6時にはかなり暗くなっていて、つい先日まで真夏日が続いて暑かったのが嘘のように急激に秋の気配を感じました…。私は夏が大好きです。汗だくになっても全然平気です。秋になるとすぐにあの嫌な冬がやってきます。吹雪の通勤を考えると憂鬱になります(泣)。

季節の変わり目は体調を崩しやすいとよく言われます。ネットで調べると季節の変わり目は気温が急激に変化するので自律神経の調子が悪くなるからだと書かれているものが多いようです。ふむふむ…。

それとは別に、低気圧などが近づくと関節痛などの痛みが悪化することは昔から知られています。気圧が下がることによって関節周囲の組織がむくむこと、それによって関節液がしみ出す量が増えることが原因である、と書いている情報もありますが、どの程度根拠があるのかは不明です。しかし、理屈は抜きにしてもアンケート結果などからは自覚症状的には間違いなく低気圧が近づくと痛みは悪化する人が多いようです。

こうやって考えてみると乳がん患者さんへの影響もありそうですね。乳がんの手術を受けた、再発を宣告された、抗がん剤治療で副作用に苦しんでいる、ホルモン療法で更年期症状が出ている、など、自律神経に悪影響を与える状況が起きやすい中で、季節の変わり目による影響が加わると体調は悪化しやすいかもしれません。また、アロマターゼ阻害剤を内服中の患者さんやタキサン系抗がん剤使用中の患者さんは関節痛を伴いやすいのでこの時期は要注意ですね。痛みが悪化するようなら鎮痛剤を少しの間でも併用するのが良いかもしれません。そのうち気候が落ち着いたら症状は軽快するかもしれませんから。

さて、秋が近づくとともに野球もいよいよ大詰めです。巨人ファンのみなさん、優勝おめでとうございます。でも個人的にはセリーグはどうでも良いです(笑)。ファイターズは今日は絶対勝って欲しかったのですが残念ながら吉川投手で勝ちを落としてしまいました(泣)。まあずっと頑張ってくれていた吉川投手ですから、たまにはしかたないですよね。明日からは総力戦でなんとか西武に勝ち越して優勝に近づいて欲しいものです(他チームのファンのみなさん、千葉ロッテファンのG先生、すみません…笑)。

今日はあまり乳がんと直接関係ない話が多くなってしまいました。いずれにしてもこれからの季節、体調管理には十分に気をつけましょう(”食欲の秋”にも要注意!)!

2012年9月18日火曜日

乳癌の治療最新情報33 エベロリムス2〜日本人のサブ解析結果

以前もここでエベロリムス(アフィニトール®)の臨床試験結果(BOLERO-2試験)について述べましたが(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2011/10/27.html)、このたび日本臨床腫瘍学会において、日本人についてのサブ解析結果が報告されたそうです。BOLERO-2試験は、レトロゾールやアナストロゾールに抵抗または不応となったER陽性、HER2陰性の局所進行性または転移性の閉経後乳がん患者を対象にした二重盲検無作為化フェーズ3試験で、24カ国の189施設から日本人を含む724人の患者が登録されています。


結果の概要は以下の通りです。

対象:日本人患者106人(エベロリムス併用群(エベロリムス10mg/日+エキセメスタン25mg/日を併用する群)が71人、プラセボ群(プラセボとエキセメスタン25mg/日を投与する群)が35人。

追跡期間中央値: 11.1カ月。

結果:PFS(無増悪生存期間)中央値は、エベロリムス併用群が8.4カ月、プラセボ群4.1カ月(ハザード比0.59、95%信頼区間:0.35-1.01、p=0.0253)。客観的奏効率(ORR)はエベロリムス併用群が16.9%、プラセボ群が0%。臨床有用率(CBR)はエベロリムス併用群が43.7%、プラセボ群が25.7%。

副作用:主な有害事象は、口内炎(89%)、発疹(55%)、味覚異常(31%)。試験全体のデータと傾向が異なっていた有害事象は非感染性肺炎(間質性肺炎)の発生率で、日本人患者における非感染性肺炎の発生率は31.0%で、試験全体の15.6%よりも高値だった。しかし、グレード3、4に限ると、日本人患者は4.2%、試験全体は3.7%となり、大きな差は見られなかった。有害事象は治療の中断または投薬量の減少で管理可能だった。

結論:エベロリムス+エキセメスタン併用群では有意に無増悪生存期間が延長し、有害事象は管理可能だった。


この治療法が、ER陽性、HER2陰性(いわゆるLuminal type)の進行再発乳がんに対して有効な治療法の一つであることを日本人のデータとして示せたのは意義のあることです。ただ、エベロリムスの場合は、上に書いたように間質性肺炎が心配される有害事象です。腎細胞がんに対してすでに適応が通っていますが、発売後の調査において、間質性肺炎は17.4%の患者さんで見られたと報告されています(死亡率は0.7%)(http://product.novartis.co.jp/afi/ts/pms_kanshitsusei_20120116.pdf#search='%E3%82%A2%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%8B%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%AB %E9%96%93%E8%B3%AA%E6%80%A7%E8%82%BA%E7%82%8E')。今のところ、イレッサのように喫煙者が非常に高リスクとも言えないようですので、だれでも起きる可能性があるといことが懸念されるところです。

効果が大きくて副作用が少ない治療薬の開発はなかなか難しいものですね…。



2012年9月16日日曜日

乳癌学会地方会etc

昨日は乳癌学会の地方会でした。朝9:30から夕方18:00くらいまでびっちり発表と講演が入っていてほとんど休憩のない密度の濃い学会でした。

発表の方は、朝のセッションでしたが、なんとか無事終了しました。G先生もつつがなく発表を終えました。あとは他の先生方の発表を聞きながら時々質問したり(G先生はいつものように質問しまくり…笑)、参加人数は多くはなかったのですが、アットホームな雰囲気で進みました。

ランチョンセミナーは、出向研修中のN先生がお世話になっているG病院のI先生の「特殊型」についての講演でした。普通の病院では年間1例いるかいないかの珍しい組織型もG病院には多くの患者さんがいます。それらを集積して非常にわかりやすく特徴を話して下さいました。なかなか普段わからないような特殊型の画像の特徴や治療法についてとても勉強になりました。講演後には直接「浸潤性小葉癌の2つの画像タイプ(腫瘤を作るタイプとびまん性に這うタイプ)でリンパ節転移率が異なる」のは、自覚症状が出づらいためなのか、もともと生物学的悪性度が異なるためなのか、ということについて質問してみました。I先生の考えとしては後者なのではないかということでした。興味深いテーマなので私の施設の症例で確認してみようかと思います。

今回の学会の合間では、がんセンターのT先生から、先日手伝いを依頼されたJCOG関連の作業についてのレクチャー(というか一方的に質問しましたが…)を受けました。勘違いしていた部分もあったので、今日1日かけてなんとか第1弾の回答を完成してメールで送ったところです。今回の作業は手始めですのでこれからが大変みたいです。11月末の締め切りまで、いったいどんな仕事になるのか検討もつきませんが、かなり大変なのは確かです。英語の論文をかなり検索しなければならないようですので英語が苦手な私としては、時間もかかりますしものすごいストレスです(泣)。でもなかなかない機会ですので、できる限り頑張ってみようかと思います。

今年の札幌はなかなか暑さがおさまりません。私は暑い方が好きですので大歓迎ですが、ちょっと不思議な感じです。でもそろそろ暑さも終わりだと思います。こういう年は、暑さが終わった途端、急激に寒くなってあっという間に秋が来るような気がします。みなさん、体調を崩さないように気をつけましょう。

2012年9月12日水曜日

デノスマブ(ランマーク®)で国内2例目の死亡例

今年の4月に発売されてから、現在推定7300人に投与されているランマークですが、やはり以前書いたように(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2012/05/30.html)心配されていたような状況になりつつあるようです。

ランマークは非常に強い骨転移に対する効果がある一方で、低カルシウム血症の副作用がゾメタに比べて強いことは臨床試験からもわかっていました。しかし、4月の発売当時はその詳細は報告されていませんでした。ところが発売後に海外で3例の低カルシウム血症による死亡例が発生していたことが判明し、まず最初の注意喚起「適正使用のお願い」がメーカーから出されました。その後最近になって国内でも死亡例が1例発生したことが報告され、さらについ先日2例目が発生したことでようやく正式な注意喚起「安全性速報(ブルーレター)」の指示が厚生労働省からメーカーに出されたのです。

化学療法剤には副作用は残念ながらある程度は避けられません。しかし早い段階で正確な情報をつかむことによって、その影響は最小限で留められる可能性があります。逆に迅速なメーカーと国の対応がなされなければ、被害を拡大させてしまうことになります。せっかくの良い薬なのに、その情報が正しく迅速に伝達されなければ単なる怖い薬になってしまいます。それがとても心配です。

今までに私が知り得た、ランマークによる重篤な低カルシウム血症発生例に関する情報について以下に記します。

①低カルシウム血症の発生日は、初回投与後5-7日目くらいがもっとも多いが、数クール経過してから初めて発症した症例も複数ある。
②ビタミンD、カルシウム剤を予防的に内服していても発生した症例は複数ある。
③今までわかっている経過からは、重篤な症状(けいれん、心停止など)を生じる前にテタニー(口唇や指先のしびれなど)を必ずしも伴っていないようである。これは血液検査をしていなければ突然急変する可能性があることを示唆している。
④重篤な低カルシウム血症をきたしてから、カルシウム剤の静脈投与を行なってもなかなか回復できなかった症例がある。


現在ランマークを使用中の患者さんは上記の通り多いですし、重篤な低カルシウム血症の発生は、頻度からすると決して高いわけではないかもしれません(まだ報告されていない症例があるかもしれませんので正確な発生頻度は不明ですが)。実際問題としては、現在投与を受けている方のほとんどは今後も何も問題なく投与できるのだと思います。ランマークによる治療効果が現れていて今まで問題なく投与できている患者さんは、このような情報が出たからと言って直ちに治療を中止する必要はありません。詳しくは主治医の先生によくお聞きになった上でご判断下さい。

もしかしたらこのような情報をここに書くのは、不適切なのかもしれないと思い、国内1例目の発生例が報告された時には記事にしませんでした。しかし、正式に厚生労働省から注意喚起(メーカーに対して安全性速報を出すようにという指示)が出されましたので、この事実を広く周知すべきであると考えてアップすることにしました。もし現在ランマークを投与中で、私の記事が不安を煽るような結果になってしまった患者さんがいらっしゃいましたら大変申し訳ありません。しかし、この事実を知らずに万が一のことがこれからさらに増えてしまう方が大きな問題になると考えて書いたたということをどうかご了解下さい。

取り急ぎの対応策は、今回の安全性速報に書かれているように、カルシウム剤とビタミンDは高カルシウム血症がない限り内服すること、頻回の血中カルシウム濃度の検査を受けること(”頻回”がどのくらいなのかの記載はありませんが私は当面は週1回はチェックすべきだと思っています)、腎機能障害がある患者さんは、低カルシウム血症をきたしやすいので特に注意が必要なこと(最初のふれこみはゾメタと違って腎機能に影響を与えないから腎機能障害の患者さんにも使えるということでしたが…)などでしょうか。

以下に参考となる資料のURLを示します。

<参考URL>

①海外3例の死亡例報告を受けて、2012.5にメーカーから出された「適正使用のお願い」
http://www.info.pmda.go.jp/iyaku_info/file/kigyo_oshirase_201205_2.pdf#search='%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%AF %E5%9B%BD%E5%86%85 %E6%AD%BB%E4%BA%A1%E4%BE%8B'

②今回の国内死亡例2例を受けて厚生労働省からの指示で2012.9にメーカーから出された「安全性速報(ブルーレター)」
http://www.info.pmda.go.jp/kinkyu_anzen/file/kinkyu20120911_1.pdf#search='%E5%AE%89%E5%85%A8%E6%80%A7%E9%80%9F%E5%A0%B1 %E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%AF'

2012年9月10日月曜日

近況報告…

最近は時間の確保が難しく、なかなかブログも更新できません…。

今週末は乳癌学会の地方会があります。とりあえずなんとかスライドはほぼ出来上がったのですが、もう少し考察を熟成させようと思っています。

それに加えて副作用報告書が2件…。これがけっこう大変な作業なのです。内服していた薬剤が多いと、その服薬期間を調べるだけでかなり時間を要します。薬剤と副作用の因果関係も考察しなければなりません。今日、ようやく薬剤部に届けて製薬会社に提出する手はずが整いました。

そして外来で診ている患者さんたちの状態もいろいろ変化があったり、新たな乳がん患者さんへのご説明が続いたりで日中もかなり忙しいです。関連病院の外来から戻ってくるのも午後3時過ぎになったりして、あっという間に夕方になってしまいます。

さらにがんセンターのT先生から、ある研究作業のお手伝いを頼まれてしまいました。不慣れな作業のためお受けするかどうか迷っていますが、せっかくのご指名ですし、微力ながら乳がん診療のお役に立てればと思っています。ただ、諸事情で本当に協力可能なのかどうかもう少し検討してみたいと思います(すでに資料は送られてきてしまいましたが…)。

というわけでしばらくはブログもあまり更新できないかもしれませんが、とりあえず元気出して頑張ります!

2012年9月5日水曜日

抗癌剤の副作用20 口腔粘膜障害

口腔内の粘膜障害(口腔内アフタが代表的)は、抗がん剤の副作用としてはよく見られる症状です。投与のたびに繰り返すことはありますが、一般的には軟膏やうがいなどで対処可能です。

ただ時には非常に重篤になり、摂食はおろか、口を開けるのもままならなくなり、会話やうがいさえも困難になってしまうことがあります。白血球が減少する時期と重なれば、カンジダ(真菌)感染を併発してさらに症状が悪化したり、傷ついた粘膜から容易に細菌が侵入して敗血症の原因になったりしやすくなり、危険な状態になってしまうこともあります。

口腔内の粘膜障害に用いられる治療の基本は、
1.口腔内を清潔に保つ
2.口腔内を乾燥させない
3.薬物治療
の3つです。以下に主な治療法を書きます。

①軟膏…ステロイド系の軟膏(デキサルチン軟膏®、ケナログ軟膏®)が代表的です。通常のアフタ性口内炎(パンチ状に粘膜が白くなる状態)にはよく効きますが、なんとなくべとっとした感じが嫌な方も多いと思います。

②貼付剤…口腔内に貼るタイプです。抗炎症作用をもつトリアムシノロンアセトニドを主成分にしたアフタッチA®などが代表的です。最近はスプレー式のものやフィルム状の製剤もあるようです。

③徐放性口腔内崩壊錠…アズノールST錠®などがあります。口腔内に留めておくと、徐々に薬剤がしみ出して効果を発揮する製剤です。

③うがい薬…口腔内を清潔にする目的と、アズノールなどの抗炎症作用を期待して用いる場合がありますが、アズノールの場合は、さっぱりする場合もありますが逆にしみるように感じてしまう場合もあります。

④民間療法…昔からハチミツを塗ると口内炎によく効くと言われていました。科学的にもハチミツは殺菌作用と粘膜の保護作用があるので一定の効果はあるようです。ただ、かなりしみて激痛が走るとも言われていますので使用するには覚悟が必要かもしれません(私はまだ使用したことがないので詳細はわかりません)。

⑤口腔内の痛みが強い場合は、対症的に表面麻酔剤の塗布を行なったり、アセトアミノフェンなどの鎮痛剤の内服を併用する場合があります。

いま入院患者さんで口腔粘膜障害が強い患者さんがいらっしゃいます。痛みが強くて口も開けられないので薬を含むこともできず、うがいもうまくできない状態です。表面麻酔剤の併用が必要かもしれません。早く回復して食事が摂れるようになれば良いのですが…。

2012年9月3日月曜日

副作用情報

発売後の薬剤の使用で重大な副作用が発生した場合、緊急情報として製薬会社からレターが届きます。本来、安全性に関しては臨床試験で十分に確認されていなければならないのですが、実際問題としては発売後に数多くの症例に投与して初めて判明する重篤な副作用もあります。ですからそういう場合にこのような情報が私たちに届くのです。

以前もある肺がん治療薬(分子標的薬)で間質性肺炎の死亡例が多数発生して問題になりました。製薬会社側としては、長い年月と開発費をかけて発売までこぎつけた薬剤をできるだけ多く売りたいと考えるのは自然なことです。そして私たち医療者側としてもできるだけ効果のある薬剤を患者さんに使用してあげたいと考えます。もちろん、進行・再発がんで苦しんでいる患者さんにとっても効果の高い新薬を待ち望んでいるのは当然です。しかし、それは安全性が担保されている、または副作用のリスクが判明しているというのが前提です。

最近はネットの情報が満ちあふれています。医療情報についても同様です。ここに書く内容も医療関係の情報を元にしているケースがよくあります。その中には副作用情報も含まれています。ただ、このような情報は、当然ですがネット配信される前に製薬会社側としては把握しているはずです(そもそも情報元は製薬会社ですので)。

最近、ある薬剤の重篤な副作用情報が出されました。しかし、私が得た情報は、①ネットからの定期配信される情報②病院の薬剤師からの情報③製薬会社のMR(医薬情報担当者)からのメール(詳細は面談で報告)という順番でした。これはおかしな話です。一番最初に情報を把握している製薬会社側から直接薬剤を使用している医療関係者に情報を提供すべきではないかと私は思います(配信されるネット情報は全ての関係医師が見ているわけではありませんし、そのために私個人のメールアドレスもMRに教えています)。今日、そのMRが見えたのでその旨を伝えました。

一般的に良い情報(○○に対する効果が認められた、××よりも効果があったなど)は、論文になる前からでも提供されますが、悪い情報に関しては提供に時間がかかる傾向があるのかもしれません(十分に因果関係を確認するためかもしれませんが、良い情報に関しては十分なエビデンスのない学会発表レベルのものまで提供されることがあります)。特に新薬の場合は、患者さんの安全性を第一に考えて出来るだけ迅速な副作用に関する情報提供をお願いしたいものです。