2012年1月29日日曜日

15th Breast Cancer UP-TO-DATE Meeting


昨日、パシフィコ横浜で日本化薬主催の第15回 Breast Cancer UP-TO-DATE Meetingが行なわれました(14:00-18:00)。このMeetingは年1回行われており、今までも何度か参加させていただいています。昨日9:30千歳発の便で東京に向かい、今朝9:30羽田発の便で札幌に戻ってきました。

内容の概略は以下の通りですがちょっと専門的な話になります。

SessionⅠ: 「pCRを検証する」

①乳癌術前化学療法におけるpCRの判定の重要性と問題点(黒住昌史先生)
pCR(病理学的完全寛解)の定義から術前化学療法の臨床試験(NSABP B-18、B-27)におけるpCRと予後との関連などの基礎と臨床についてわかりやすく解説して下さいました。near pCR(組織学的効果がgrade2b)でもpCRに近い予後が得られること、MD Anderson Cancer CenterのHPに残存腫瘍量から予後を推定できるツールがあることなどについてもお話しして下さいました。
②pCRは予後を予測できるのか?〜intrinsic subtype別のpCRと予後の関連のエビデンス(高橋将人先生)
subtype別のpCRと予後についてのお話でした。個人的にはpCRの予測計算をするNomogram(ER、PgR、Ki-67、化学療法のサイクル数からpCR率を予測計算する)が興味深かったです。

SessionⅡ: 「分子標的治療〜時空を越えて〜」

3人のパネリストによるミニレクチャーを交えたパネルディスカッションでした。
遠山達也先生からは、原発巣と再発巣のHER2の変化が何故起きるのかということに関してのレクチャーでした。HER2の判定は病理医の経験によってかなり変わってしまうこと(各施設のローカル判定と中央判定では免疫染色法で20%、FISH法でも12%の不一致が生じる)や同じ腫瘍内で性質が違う腫瘍細胞が不均一に混在している場合にはサンプリングエラーが起きうること、仮に中央判定で95%の精度で診断したとしても、計算上は原発巣と再発巣で9.5%の不一致が生じるという非常に興味深いお話が聞けました。またそれを踏まえて再発巣を切除してホルモンレセプターやHER2を確認する意義があるのかというと討論では、検索することによって患者さんにメリットがあると考えられる場合には組織検査をするべきであるという意見でした。その際に、患者さんから分子標的治療の機会を奪わないことが大切だという意見でパネリストは共通していました。つまり原発巣、再発巣のどちらかがHER2陽性なら抗HER2療法は継続すべきということです。ホルモンレセプターの場合もそうですが、この辺りは効果と経済的負担を考えると微妙なところですが、他の隠れた転移部位の性質はわからないのでやはり継続した方が望ましいのでしょうね。HER2の検査を行なうに当たっては、①再発巣だけでなく原発巣も同時に再度判定する(同じ病理医による同じ判定基準で) ②可能であれば免疫染色法とFISH法の両方で判定する、というお話が勉強になりました。
佐治重衝先生からは新しい分子標的薬と今後の見通しについて、臨床試験の結果を踏まえて解説していただきました。時間が短かったため、かなり駆け足での説明でしたからメモも十分に取れなくて残念でした。今度もっとゆっくり解説していただきたいです。
徳永えり子先生からはHER2のsignal pathwayと薬剤耐性についての解説でした。最近では”oncogene addiction(遺伝子中毒…ある特定の遺伝子にがんの増殖が大きく依存している)”という考え方から”network addiction(特定の遺伝子だけでなくそれに関わる様々なnetworkにがんの増殖が依存している)”という考え方にシフトしてきているということでした。つまりハーセプチンが効果を発揮しても別の経路を介して増殖を促してしまうから、周囲の経路ごとブロックしてやろうという考え方です。とりあえず近いうちに使用可能になりそうな薬剤としては、ハーセプチンとは作用機序が違うHER二量体化阻害剤のPertuzumabがあります。ハーセプチンとのdual blockageに期待が持てそうですが、がんの耐性化というのはかなり複雑ですので新薬が開発されてもいたちごっこのようになりつつあって研究者の頭を悩ませているようです。

SessionⅢ: 「骨転移治療:問題点から今後を探る」

4人の先生による様々な角度からの骨転移診断と治療に関するお話でした。ストロンチウムについては、約7割に有効という全田貞幹先生の報告と5割以上が無効という菰池佳史先生の報告が少し対症的でした。このような差が出たのは、対象症例の背景の違い(治療歴など)やゾメタなどの他の治療の併用の有無の影響なのかもしれません。


昨日の朝、羽田に向かう途中から咳が出てきました。このMeetingが終わる頃には喉の痛みと倦怠感、関節痛、寒気が出てきて徐々に体調が悪化しています(泣)明日の仕事がちょっと心配です。もうそろそろ体力の限界なので今日は早く休みます!

2012年1月26日木曜日

ピンクリボン in SAPPORO「ワーキングサバイバーズフォーラム」

先日ピンクリボン in SAPPOROから「ワーキングサバイバーズフォーラム」についての内容説明と参加集約のFAXが届きました。ざっと文面を見ただけでしたが、ちょうど今日乳腺センター運営会議があるので慌ててコピーして配布しました。内容の説明をしようとしたら、「??」…。肝心の日程と場所が書いていません(泣)
結局内容の説明をして、近日中に日程などを知らせるということにしましたが、院長からは積極的参加を勧められました。

さっそく帰ってからHPをチェックしたらきちんと書いてありました(http://pinkribbonsapporo.web.fc2.com/)。簡単に内容をご紹介します。



開催主旨:”がん患者の4人に1人は50歳未満の働き盛りだと言われ、がんを経験した方の就労や雇用問題は大きな注目を集めている。がんになっても働き続けるための環境づくりには何が必要か、がん経験者、家族、医療従事者、企業、それぞれの立場で一緒に考える。”

日時:2012年2月26日(日) 13:30-16:30

場所:京王プラザホテル札幌 B1 プラザホール

総合司会:堺 なおこさん(フリーアナウンサー)

参加資格:企業人事担当者、社会保険労務士、患者・家族、医療従事者、行政関係者など 北海道で生き生きと活動する女性たち
(→ということは私には参加資格はないのかも…??)

参加費: 2500円(懇親パーティー付き)

主催:ピンクリボンin SAPPORO実行委員会
共催:一般社団法人CSRプロジェクト、財団法人北海道対がん協会
特別協力: 株式会社セシール、京王プラザホテル札幌
後援: 札幌市 北海道

問い合わせ/申し込み:「ピンクリボンinSAPPORO」実行委員会事務局
〒063-0841 札幌市西区八軒1条西1丁目1-26-402
電話:011-621-8150  FAX:011-621-9458

内容:
①第一部13:30~14:20
基調講演「CSRプロジェクト紹介・日本におけるがん体験者の就労の現状」
講師:桜井なおみさん

②第二部14:20~15:10
パネルディスカッション「がんと仕事の実情~働き続けるための環境づくり~」

③第三部 15:10~16:30
①KIKI&ピンクリボンクワイヤーによるゴスペルステージ
②懇親パーティー



参加費はかかるようですが、懇親会つきですし、なかなか興味深い内容です。私たちの病院からも職員、患者さんに是非参加してもらいたいと思っています(男性医師に参加資格があるのか明日にでも確認してみます)。

2012年1月25日水曜日

乳腺術後症例検討会 15 ”印環細胞がん”

今日は2ヶ月ぶりの症例検討会でした。2ヶ月分から症例を選んだため、診断がなかなか難しいケースばかりでした。

症例1 細胞診でも針生検でも診断が困難だった非浸潤がん主体のアポクリンがん
症例2 超音波検査では乳腺症のムラのように見えた印環細胞を伴った硬がん
症例3 初回の超音波検査では病変を指摘できなかったマンモグラフィ上、微細石灰化と構築の乱れで発見された非浸潤がん主体の微小な硬がん
症例4 拡張乳管を伴い、広い乳管内進展が疑われたが限局していた非浸潤がん

いずれも典型的とは言えない画像所見だったため、活発な議論が交わされました。こういうタイプのがんもあるんだということを理解するということがこの会の一番の意義だと思いますので良かったのではないかと思います。

症例2の印環細胞がんについてはミニレクチャーも行なわれました。一般的に乳がんにおいて印環細胞様のがん細胞がみられるのは浸潤性小葉がんのことが多いと言われていますが、硬がんなどでも見られることがあります。印環細胞がんというのはがん細胞の細胞質内に粘液を貯留して核が偏在するためにあたかも印環(指輪)のように見えるがん細胞のことを言います。代表的なのは胃がんで悪性度の高いタイプのがん細胞です。乳がんにおいても時にみられることがありますが、通常は小葉がんや硬がんなどの一部としてみられます。ほとんどが印環細胞からなる乳がんもあるようですが、非常に稀で私は経験がありません。

今日は院外からの参加者が少なくて残念でした。やはり冬の参加は厳しいのかもしれません。
来月も興味深い症例を提示する予定です。私たちのような中規模の病院でも勉強になる症例はけっこうあるものです。そういう意識で患者さんを診ていくことが大切なのだといつも考えさせられます。

2012年1月22日日曜日

緩和ケア研修会 2日目終了!


やっと2日間の緩和ケア研修会が終わりました。連日朝早くに回診をしてから参加したので寝不足も加わって疲労困憊です(泣)
でもとても実りのある研修会でした。

今日の講義では、個人的には知識が乏しかった「緩和ケアにおける精神症状のマネジメント」がとても勉強になりました。がんの進行に伴って患者さんには様々な精神症状が伴ってきます。それは本人にとっても苦痛なことです。適切な診断とケア、薬剤の選択が重要であるということを教わりました。また、日常診療でうつなのかなと思う症状の多くは病状の悪化に伴う低活動型せん妄という病態であるというお話は、思い当たる患者さんがいたこともあってとても興味深く聞いていました。

そのあとまたロールプレイがありました。今日は、医師役の時は医療用麻薬を処方したら嘔気の副作用が出てしまったというシナリオでした。これはいつも診療で行なっていることなのでわりとスムーズにできたと思います。患者の家族役のシナリオのときは、「麻薬は命を縮める、麻薬を使うとすぐに死んでしまう、麻薬でがんが進行してしまう」という間違った知識をインターネットで得たという設定でしたので、医師役のDrにしつこくごねてみたりしました(笑)でも医師役のDrはベテランだったのでさすがにうまく対処してくれました。

午後からの「呼吸困難」のセッションでは、呼吸困難は主観的な症状であり、呼吸困難と呼吸不全とは一致しないこと、早い段階でモルヒネを投与し、段階的に治療を考えること、薬物療法だけではなく環境の整備も重要であるということを教えていただきました。

もう一つ自分として弱いと思っていたのはがん患者さんの在宅ターミナルケアと地域連携についてです。これは道内でがん患者さんの在宅治療の先駆けとして活躍されているM先生がわかりやすく解説して下さいました。終末期がん患者さんには時間が限られているのでできるだけ早い段階で準備に取りかからなければならないこと、在宅で往診してもらう診療所の医師と顔が見える関係を築き、入院中に患者さんとの顔合わせをしておくとスムーズに受け入れができること、終末期を在宅で過ごしたいと考える患者さんは多いけれど最後まで在宅でと考えている患者さんはそれほど多くないので、入院を希望した時にはきちんと受け入れることができる体制を整えておくことなど、などが大切だということを教わりました。

最後にケーススタディをグループごとで行なって全てのプログラムが終了しました。そのあと修了証(写真)をいただき、ようやく帰ることができました。かなりハードな日程でしたが、充実感を得られた良い研修会だったと思います。さっそく明日からの診療に活かしたいと思ったこともいくつかありました。今回の研修会で学んだことを少しでも患者さんに還元できたらと思っています。

2012年1月21日土曜日

緩和ケア研修会 1日目終了!


今日、明日と日本緩和医療学会が主催、私たちの病院が共催となって「緩和ケア研修会」が開催されます。この研修会は「がん対策基本計画(2007年)」に基づいて2008年に出された「がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会の開催指針」に沿って行なわれる研修会で、「痛みをはじめとした、がんによる苦痛に対する緩和ケアの知識、技術、態度を習得し、実践できる」ようになることを目的にしています。

「緩和ケア」と聞くと、「がんの末期の痛みに行なう治療」「ホスピスに入院している患者さんが受けるケア」だと思う方が多いと思います。もちろんそのようなことも緩和ケアの一つではありますが、今のがんに対する緩和ケアという概念はもっと広い意味で用います。がんの診断から初期治療、治療後の経過観察期間、再発と治療、そして終末期にいたるまでの全ての時期におけるがん患者さん(と家族)の苦痛(痛みなどの身体的苦痛だけではなく、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルな苦痛→これらを合わせて”全人的苦痛”と呼びます)を予防、軽減することが「緩和ケア」の定義になっています。

私たちは乳がん患者さんたちと長いおつきあいになります。それこそ診断から治療、終末期までずっと主治医として診させていただくことは少なくありません。私の20数年の経験の中でも残念ながら患者さんとの関係がうまく行かなかったことがあります。きっと自分では十分に患者さんのことを理解して配慮していたつもりでいても、実はその患者さんの苦痛を完全にはわかってあげれていなかったことがその原因の一つだったのではないかと思います。今回の研修会に参加したのは、病院の要請もありましたが、そんな苦い経験もあったからです。

スケジュールは非常にハードです。今日は8:45-17:20、明日も8:45-16:25までびっちりです。内容は、緩和ケアの講義(概論、疼痛評価とケア、輸液治療、消化器症状、精神症状マネジメント、オピオイドの開始、呼吸困難、地域連携と療養の場の選択など)、コミュニケーションロールプレイ(3人1組で患者役、医師役を交互に行なって進行がんの病状告知をしたりします)、疼痛をもつ患者さんの治療・療養の場に関する事例検討など盛りだくさんです。

私はこの中で「ロールプレイ」というものに非常に抵抗がありました。これさえなければびっちり講義でも全然苦痛ではなかったのですが、偽物の患者さんの前で演技するのは実際に日常診療でできていることもできなくなってしまうのではないかという不安というか疑念があったのです。実際やってみると医師役はやっぱり少しぎこちなくなってしまいましたが、患者役になってみるとなんだか本当の患者になったような感覚で患者目線というものが少しわかったような気がします。自分(がん患者)の驚きや不安、混乱ぶりに対して医師が取る対応や会話で受け取り方が変わってしまうということを感じ取れたのは収穫でした。

写真は今日もらった参考資料です。ゆっくり読んでみたいと思っています。
明日もう1日頑張れば終了です。修了証をもらえるそうなので頑張ります!

2012年1月19日木曜日

ラジオ波焼灼療法(RFA)に対する考え方

ラジオ波焼灼療法(RFA)などのNon-surgical ablation(メスを入れないでがんを焼く方法)は、乳がん患者さんにとってとても魅力的です。誰しも大切な乳房にはメスを入れたくないはずですから。しかし、これはまだ研究段階の治療法であるということを十分に説明しない医師がいまだに残念ながらいるようです…。

将来的には、”限局した早期乳がん”に対する診断・治療は以下のような流れになるのではないかと個人的には思っています。

①MRなどによって病変が限局していることを確認する
②病理組織診断(マンモトームなどによる)でがんの性質(ホルモンレセプターやHER2、Ki-67など)を調べる
③センチネルリンパ節生検を行なってリンパ節転移の有無を調べる
④ablation(臨床試験で有用性が確立された方法)を行なう
⑤全乳房照射を併用する
⑥②③の結果を踏まえて必要な補助療法(ホルモン療法や化学療法)を行なう

しかし残念ながら今の段階では④の「有用性が確立されたablation」というものがありません。以前ここで書いたように、2001年にFDAで臨床試験が最初に認可されたのは、MRガイド下集束超音波治療(MRgFUS)のみでした(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2009/11/mr.html)。現在FUS後に放射線治療を加えて非切除とする臨床試験中(BC004)で非常に期待している治療法ではありますが、最終結果はもう少しかかるのかもしれません。ましてや日本国内で多く行なわれているRFAはまだ臨床試験が不十分な段階です。にもかかわらず、臨床試験以外のRFAがなし崩し的に行なわれていた時期があり(今もまだあるようです)、適応を守らないRFAによって局所再発や合併症などの不利益を受けた患者さんが他の施設に流れているということが問題になり、2010年に日本乳癌学会が「対象患者を限定し、臨床試験として実施するように」と会員に通知する事態になりました。

2011年版の乳癌診療ガイドラインにも
CQ「Non-surgical ablationは早期乳癌の標準的な局所療法として勧められるか」に対して、
<推奨グレードC2> Non-surgical ablationが乳房温存術と同等の局所療法効果を有するとの根拠はなく、基本的に勧められない
となっています。


このような状況ですので、「切らずに乳がんを治せる」と宣伝することは正しい行為ではありません。たとえRFAの経験が豊富な施設であったとしても、きちんと臨床試験段階の治療であること、それに伴う利益と不利益を正しく説明するべきだと考えます。症例を増やしたいがために、都合の悪い情報を隠してこの治療を勧めるなどということは、起こりうる最悪な状況を想定せずにプラス面のみ強調してリスクに対する十分な説明と備えを怠った結果、大きな事故につながった某電力会社と同じです。

臨床試験に参加しているほとんどの医師はきちんとした説明をしているはずです(臨床試験ですので)。この治療が正しく発展、普及するためにも患者さんに正確な情報提供を行なうということをablationを勧める全ての医師は是非守って欲しいと思います。

2012年1月14日土曜日

研修病院の視察

昨日、15年前に私が研修した東京のG病院に久しぶりに行ってきました。

今回はこの春からここの乳腺センターで研修するN先生と旭川の系列病院のSI先生(SI先生もこの病院で研修を受けた先輩でTI先生に直接指導を受けていた関係で同行してくれました)、そして私の3人で部長のTI先生にご挨拶をするという目的で、そのついでと言ってはなんですが病院の見学もさせていただこうということで訪れたのです。

朝7:50にTI先生と待ち合わせをしてご挨拶したあとで、まず乳腺センター(乳腺外科、化学療法科、病理科)のCancer Boardに参加させていただきました。臨床研究テーマについての討論や再発症例の治療方針の検討などが行なわれていました。すごい参加人数なのと女性が非常に多いことに驚きました。

そのあと手術室に入り、2件の手術を見学しました。1件は乳房全摘術+センチネルリンパ節生検+ティッシュー・エキスパンダー挿入の手術でN先生は手洗いをして助手として参加させていただきました。非常に確実かつ丁寧な手術でした。さすがに数多くの手術をこなしておられる先生です。全摘後に手を替わって執刀した形成外科の先生にはいろいろ質問させていただきましたが親切に教えて下さいました。細かいコツの習得は必要ですが、短期間の研修でティッシュー・エキスパンダーを入れるところまではできるようになるとおっしゃって下さいました。N先生が研修で学んできてくれれば、病院、そして患者さんにとって大きなメリットになりそうです。閉創は特殊な縫い方をしていて驚きましたが、創はとてもきれいでした。私とSI先生は手洗いをしなかったのでもう一つの乳房全摘術+腋窩リンパ節郭清の手術も少し見させていただきました。かなりのリンパ節転移のある症例のようで大変そうでした。

昼ご飯を食べてからはまず乳腺センターの部長回診に同行させていただきました。やはり私たちの病院に比べると患者さんの年齢層が若い印象でした。TI先生からは、G病院での創部やドレーンの管理について教えていただきました。15年前とはやはりかなり変化していますが、基本的には私たちの病院での管理と大きな違いはなさそうです。ただ患者さん向けの教育(リハビリや手術・化学療法の定期的な学習会、脱毛時の帽子の作り方の講習など)がとても行き届いていることは参考になりました。

そのあとTI先生直々に病院内の様々な部署を案内していただきました。特別室(最高1日○十万円!)や緩和ケア病棟、いくつも診察室がある乳腺外来、外来化学療法室(60床!!)、超音波検査室、放射線診療部、検診センター、病理検査室、図書室や医局などゆっくり時間をかけて見せて下さいました。

私やG先生、SI先生が研修した時はまだ都内の別な場所に病院がありました。とても古い建物で趣はありましたが、患者さんにとっては快適とは言えない病院でした。G病院が今の場所に移転してからは、一度中に入ったことがあるだけで、病棟や手術室などを見るのは初めてでした。実際あちこち見学させていただくとあのころの病院と比べるとまったく別の病院になっていました。特別室のある12階から見た景色は最高でしたし、中庭にはベンチもあり、コーヒーショップやレストラン、コンビニなど患者さんにとって非常に快適な病院だと感じました。私たちの新病院とは規模がまったく異なるのですが、参考になることがいくつもありました。

前日の夜中23時くらいにホテルに着いて、今日の10時の便で戻ってきましたのでちょっと疲れましたが充実した時間を過ごすことができ、大変勉強にもなりました。出向研修に少し不安を感じていたN先生も実際に自分の目で施設を見学でき、TI先生を始めスタッフの皆さんにとても親切にしていただいたので安心して研修に出ることができそうです。

TI先生には大変ご多忙の中、長い時間を割いていただき、感謝の気持ちでいっぱいです。またいつか短期間でも良いので研修させていただきたいと思っています。

2012年1月10日火曜日

超音波検査併用検診の落とし穴

現在、J-START(http://j-start.org/index.html)という、マンモグラフィ検診に超音波検査を上乗せする意義を調べる臨床試験が40歳代の女性を対象に行なわれています。

私たちの施設はこの臨床試験には参加していませんが、乳腺症などでフォローしている患者さんには定期的にマンモグラフィと超音波検査を行なっています。通常、例えば次回1年後にマンモグラフィと超音波検査を予定している患者さんは、自覚症状がなければ予約した検査を受けてから診察にまわります。つまり、検査をする側、特に超音波技師は視触診とマンモグラフィの情報なしに検査を行なうのです。この場合、時に判断に非常に迷う場合があります。

私が経験しただけでも何回かひやっとしたことがあります。

超音波検査で異常なし(または不変)なのに、マンモグラフィでちょっと気になる所見があった場合、どの程度超音波検査を信用するかは難しい判断です。なぜなら、超音波検査は本来、視触診よりは間違いなく小さな腫瘤を描出できますし、高濃度乳腺であればマンモグラフィよりも検出能は優れています。これは私の施設で何度か報告していますが乳腺疾患に対する超音波検査経験が豊富な施設ではおそらく同じだと思います。ですから、その超音波検査で異常を指摘していなければ、多少気になる所見があっても乳腺の重なりだろう、とか孤立性乳腺だろうと判断するのが普通なのです。

しかし、超音波検査にもいくつか落とし穴がありますので私の経験も踏まえていくつか挙げてみます。

①乳腺のはずれにできた乳がん
超音波検査では乳腺組織を描出しながらその端まで観察します。しかし、超音波検査で描出される乳腺の先まで脂肪化した乳腺組織が筋状に残っていることが多いのです。この筋状に残った乳腺から発生したがんは、一見、乳腺組織がなくなったと思われる先にあるため、観察し損なうことがあるのです。ですから画像で描出される乳腺組織にとらわれず、乳腺組織が存在していた可能性のある範囲(上下方向は鎖骨下から乳房下縁まで、横方向は正中から腋窩まで)をきちんと走査する必要があります。私自身も触診でとても気になったり(得てしてこのような部位は触診しやすいのです)、マンモグラフィで描出されていて比較読影で変化が確認されたりということで超音波検査の再検査(second look)で描出できたというケースを経験したことがあります。

②脂肪化した乳腺内に発生した粘液がん
粘液がんは脂肪と似たような内部エコーを呈することも多く、脂肪化した乳腺では脂肪と誤認してしまう可能性があります。このような場合は、マンモグラフィが非常に有効で、明瞭な腫瘤として描出されます。マンモグラフィで明瞭な腫瘤なのに超音波検査で確認しづらい場合は、過誤種や粘液がんであることが多いと思います(比較的若い場合は線維腺腫も時にわかりにくい場合があります)。

③腋窩に発生した腫瘍
腋窩に発生する腫瘍には、乳がんの腋窩リンパ節転移(原発巣がはっきりしない場合はoccult cancerと言います)、悪性リンパ腫などのリンパ節発生の腫瘍、異所性乳がんなどがあります。
乳がんのスクリーニングの場合、通常は腋窩の観察を目的として超音波検査はしません(乳腺の観察で腋窩まで見てしまうことはありますが)。マンモグラフィでも腋窩の深部の腫瘍までは写ってきません(乳腺に近いリンパ節は写りますが)。ごく稀ではありますが、触診で腋窩に腫瘤を発見することがあります。私が経験したケースでは、初回の超音波検査は異常なし、マンモグラフィでも腫瘤は認めませんでしたので、前回と変わりないかなと思いながら触診をしたところ、腋窩にごろっとした腫瘤がありました。わりと深い位置にあったため、マンモグラフィでも超音波検査でも描出されませんでしたが、きちんと腋窩まで触診しておいて良かったと思った症例でした。もし触らなければ大変なことになるところでした(汗)。このようなことがありますので私は乳がん検診の触診では必ず腋窩はきちんと触診するようにしています。

超音波検査は非常に有用な検査だと私は思っています。しかし、このような落とし穴があることを自覚して初めて有効な手段になることを忘れてはいけません。また、超音波検査をマンモグラフィと同時に行なう場合には、できればマンモグラフィを先に撮影して、それを超音波技師が見た上で検査を行なうのが理想的だと考えています。そのためには最低限のマンモグラフィの読影力が超音波技師にも求められるということになります。毎月多職種で行なっている症例カンファレンスはそういう意味でも非常に重要ではないかと私は考えています。

2012年1月6日金曜日

乳房再建術の効果

今日の外来に乳房再建術を受けた患者さんが2人受診されました。

一人は30歳代の女性で近々乳頭・乳輪の再建を受けて終了予定です。この際に乳房の形の微調整も行なうそうです。自家組織を用いた再建で触感は柔らかく、完成が楽しみです。リュープリンも今回で終了し、とてもうれしそうにしていらっしゃいました。

もう一人は60歳代の方ですが、最後の乳頭・乳輪の再建も終了して受診されました。この方も自家組織を用いた再建でしたが形も非常にきれいで触感も良好でした。ご本人も大変満足されているようで表情もとても明るくなっていました。この患者さんは、一時期精神的に不安定になって体重も落ちていましたが、今日受診されたときにはふっくらとされていてびっくりしました。

乳房再建は見かけ上、乳房を取り戻すということだけではなく、精神的にも大きなプラス効果を与えるのだとあらためて実感させられました。お二人ともD病院のE先生に手術していただいた患者さんですが、他にお願いした患者さんたちも皆さん経過は良好のようです。近くに安心して乳房再建をお願いできる先生がいるということは本当に心強いです。また患者さんの心の負担を少しでも軽くしてあげる治療をお願いしたいと思っています。

2012年1月5日木曜日

線維腺腫の自然経過

線維腺腫は主に若い女性に発生するごくありふれた良性腫瘍です。

線維腺腫は女性ホルモンの影響を受けると言われています。ですから閉経後に 退縮して小さくなったり粗大な石灰化をきたしたりします。また、授乳後に消えてしまった症例も経験したことがあります。まれに5cm以上の大きな線維腺腫も経験しますが(このような中には葉状腫瘍が含まれている可能性があります)、多くは3cm以下くらいで増大が落ち着くと言われています。3cm以上に増大したり、40歳代で増大傾向を示す場合、急速に増大する場合などは葉状腫瘍の可能性がありますので摘出の適応になります(細胞診、時には組織診でも線維腺腫と葉状腫瘍の区別が難しい場合があります)。

中学生や高校生くらいの若年期に自分でしこりを発見して受診する患者さんのほとんどはこの線維腺腫です。臨床的に線維腺腫と診断され、大きさが3cm以下で著明な増大傾向がなければ経過観察で良いと思います。私の外来で経過を見た患者さん中には一時的に増大してもまた小さくなってしまったケースもありました。

そのうちの一人にこんな経過の患者さんがいらっしゃいます。初診時はたしか中学生の頃だったと思います。細胞診で診断がついて経過を見たのですが、3cm近くまで増大して切除も検討しましたがぎりぎりまで粘ったところ、2年後くらいから急に縮小を始めたのです。そして結局半分くらいの大きさまで縮小しました。ちょっと驚いたのは、最近受診された時の超音波画像で、粗大な石灰化をきたしていたことです。実際はもっといるのかもしれませんが、経過を追って10代で粗大石灰化をきたしたのを自分の目で確認できたのは初めてでした。

他にも高校時代からずっとそのままという多発性の線維腺腫の患者さんがいますが、この方の線維腺腫はものすごく数が多く、しかも一番大きなものは6cmくらいあります。大多数は粗大な石灰化を伴っていますが、いまだに石灰化をきたしていないフレッシュなものもあります。10年ほど前から私の外来にかかっていて、いま60才代ですが、ずっと変わりません。両側とも乳房のほとんどを線維腺腫が占めています。もし切除すると乳腺がなくなってしまうような多さです。ご本人も何十年も前からあるのでこのままでいいとおっしゃるので経過を見ていますが、腫瘤の大きさを計測する超音波技師さんたちは毎回大変です(汗)。最近は計測するのは石灰化していない線維腺腫だけでいいと指示を出しています。

今日も7つほど線維腺腫がある患者さんがいらっしゃいました。一つ一つ大きさを比べるのはなかなか大変ですが根気よく調べたところ、そのうちの一つだけ徐々に増大していることがわかりました。葉状腫瘍の可能性は否定できないため、精査にまわしました。

多発性線維腺腫がある場合、全てのしこりを細胞診や組織診しているわけではありませんので、経過を見て比較することが大切です。できれば同じ施設で定期的に検査を受けて大きさが変化していないことを確認してもらうようにお勧めします。


*追記(2014.10.12)
ご質問などでコメントされる場合は、過去のコメントで似たような質問がないかどうかをご確認願います。また、トップページの注意事項をご一読下さい(ネット上で診断を求められてもお答えすることはできません)。

2012年1月4日水曜日

仕事始め

今日から2012年の仕事が始まりました。さっそくN先生執刀の乳がんの手術があり、順調にスタートを切れました。ただここ2日の休みの間に外来の乳がん患者さんが臨時入院になったり、入院中の患者さんの容態が悪化したりで、少し病棟がばたばたしていました。

今月はN先生の出向研修前のご挨拶&見学のために東京のG病院に訪問したり、緩和ケア研修会があったり、製薬会社の講演会で東京に行ったりでほとんど週末の予定が埋まっています。手術予定も今月いっぱいくらいの症例はすでに入っていて今年もなかなか忙しくなりそうです。今日もまた1人、乳がんの診断で入院予約になりました。

最近目立つのは職員の乳がんです。まあこれだけ女性の多い職場ですし、いまや16人に1人が乳がんになる時代ですので当たり前なのかもしれませんね。職員に対するさらなる啓蒙が必要ではないかと強く感じています。N先生が中心となってこれから頑張ってくれるものと期待しています(1年の出向研修があるので来春以降になるかもしれませんが…)。

春からはG先生と2人体制になります。N先生が戻ってくる来春の新病院オープンまでの間、現状を維持していかなければなりません。健康には十分注意してなんとか頑張って行きたいと思います!

2012年1月3日火曜日

抗癌剤の副作用17 浮腫(むくみ)

命には関わりませんがタキサン系(ドセタキセル、パクリタキセル)のやっかいな副作用の一つに浮腫があります。一般的にはドセタキセルのほうが起きやすいと言われていますが、パクリタキセルでも起きます。以下、ドセタキセルによる浮腫についてご説明します。

1.概要
ドセタキセルが使用可能となった当初の国内での適応は進行再発乳がんで、投与量も60(-70)mg/㎡と少ない量(欧米では100mg/㎡)でしたので欧米で言われていたほどの浮腫の発生はないとされていました。実際、私たちの病院では60mg/㎡を基本としていましたのでかなり回数を重ねない限り、浮腫で悩まされることは多くありませんでした。しかし術後補助療法として投与されるようになってからは70mg/㎡が基本量となり、さらにTC療法で75mg/㎡のドセタキセルを投与するようになってからは浮腫の頻度が増加してきた印象があります。

2.用量と発生頻度
ドセタキセルによる浮腫は,毛細血管透過性の亢進が主な原因と考えられています。発生頻度は用量依存性であり、特に総投与量が300-400mg/㎡以上になると間質へのうっ血とリンパ管への還流障害が起こり,浮腫の発生頻度が増加します。ただし、これ以下の量でも発生することがあります。

3.予防法
ステロイドの予防投与が浮腫の発生を抑制することがわかっています。施設によって若干違いはありますが、代表的な方法は以下の通りです。
①ドセタキセル投与前にリン酸デキサメタゾン8-16mg点滴静注(または投与12時間前、3時間前にデキサメタゾン4mg内服)
②投与翌日(または当日夕)から2日間、デキサメタゾン8mg/日(1日2回に分ける)内服

4.投与中の留意点
体重測定、起床時の顔のむくみ、夕方にかけて悪化する下肢のむくみ(靴下の跡や圧痕の有無)などをチェックしておき、次回投与時に主治医に報告します。むくみがあるときには怪我に気をつけましょう(治りにくくなりますので…)。

5.浮腫発生時の対処
①できるだけ早めに利尿剤を投与…フロセミド20-40mg/日→血清カリウム値と浮腫の状態を見てスピロノラクトン25-50mg追加
②改善がなければ治療の延期、他剤への検討を検討する


浮腫や関節痛・筋肉痛・しびれなどのタキサン系の副作用は命に関わるようなものではありませんが、患者さんにとっては非常に不快な症状です。先日も一人、浮腫を発生した患者さんがいらっしゃいましたが、幸い利尿剤に反応してくれたため浮腫は軽快し、治療を継続できています。治療が奏効している場合は、なんとかうまく副作用をコントロールしながら継続したいものです。しかしいつもうまくコントロールできるわけではありません。その場合は、患者さんに我慢してもらいながら継続するか、治療を変更するかを検討しなければなりません。

2012年1月1日日曜日

新年あけましておめでとうございます!

今朝の札幌は穏やかな良い天気でした。昨日はお酒も控え、7時に起床して回診に行ってきました。

現在、乳腺外科で受け持っている患者さんは、本来の呼吸器・乳腺センター病棟以外に、消化器センターと回復期リハビリセンターにも入院していらっしゃいます。これは呼吸器・乳腺センター病棟は常にベッド状況が厳しいために乳がんの再発治療患者さんを他の病棟にお願いせざるを得ない状況があるためです。

ただ、年末は手術も少なく、状態の落ち着いている患者さんは外泊されていたため、病院で年越しをされた乳腺外科担当の患者さんは3病棟合わせて5人だけでした。いずれの患者さんも状態は安定していて一安心です。好中球が減少していたり、体調が悪化しそうで心配していた外来患者さんも幸い今のところ臨時入院はしていませんでした。みなさん無事に年越しできたようで良かったです。

元旦以外はG先生とN先生が回診をしてくれるので私は自宅でのんびりしています。1/4の仕事始めまで落ち着いていて欲しいものです。
今月はすでに乳がん患者さんの手術予定がけっこう入っています。昨年からのハイペースがまだしばらく続きそうです。忙しい日々が続きそうですが今年も事故やトラブルがないように気を引き締めて仕事をしたいと思っています。

2012年がすべての乳がん患者さんにとって良い1年でありますように、そして昨年被災されたすべての皆さんにとって希望が持てる良い年になりますように心からお祈り申し上げます。