2011年12月28日水曜日

仕事納め〜年末年始、インフルエンザにご注意を!

私たちの病院は明日が仕事納めです。手術は今日で終わりでした。

ようやくここ数日、外来患者さんの数も少なくなってきています。明日の午後は外科で1年の総括会議をするのですが、乳腺外来を止め忘れていたために、私一人だけ午後も外来です(泣)。でも細胞診の結果を聞きに来る患者さんが多く、うち2人は悪性の結果でしたので、外来を開けておいて良かったです。患者数も少ないのでゆっくり時間を取ってお話しすることができそうです。

ここのところ風邪症状を訴えて受診される乳腺患者さんが多くなってきました。今年はマイコプラズマ肺炎が大流行のようですが、今日のネットのニュースでは、ついにインフルエンザが増加の兆しを見せているようです。インフルエンザ定点医療機関(全国約5000か所)当たりの患者報告数が、12-18日の週は1.98で、前週(1.11)の約1.8倍に増えたということです。

インフルエンザはこれからさらに増えることが予測されますので、外出から帰宅したら手洗い、うがいをきちんとするようにしましょう。また咳や痰が続く場合や胸痛を伴う場合、咽頭痛で飲み込むのが困難な場合、そして高熱が出た場合は早めに医療機関に受診することをお勧めします。特に化学療法中で免疫力が低下している方は、なるべく人ごみには出ない方が良いと思います。初詣などは慎重な判断が必要です。どうしても外出を避けられない場合にはマスク着用(効果は不十分ですが…)で短時間の外出で済ませることをお勧めします。

私も今日からちょっと咳が出てきて怪しい感じです(汗)。それではみなさんも体調の悪化に注意して良いお年をお迎え下さい。

2011年12月23日金曜日

大雪の記憶

昨日の朝は吹雪でした。除雪してから出勤しようとしたのですが、あまりの視界の悪さで一度引き返しました。その後少し改善しましたのでなんとか出勤できました(汗)。札幌だけではなく、東日本と北日本では数日前からかなりの大雪と風だったようですね。

今年の年明けも大雪が続きましたが、私にとって一番記憶に残っているのは1996年1月の大雪です。

この時私は札幌の西区にある病院にいました。ちょうど上司のS先生がハワイ旅行に行っていたために病棟の患者さんはほとんど私一人で診ていたのですが、ちょうどこの大雪の日の夜中にS先生の患者さんの容態が悪化したのです。

車でマンションを出てみると道路はまったく除雪されていません。なんとか石狩街道という片道3車線の道路までたどりついたのですが、いつも真っ先に除雪されるはずのこの道路もまったく除雪が入っていなくて雪はボンネットの高さ近くまで積もっていました。あちこちに車が埋まっていて、その中にはタクシーまでありました。1時くらいだったため、私以外にはほとんど走っている車はありません。もし車を停車させたら二度と動けないと思い、信号を見て微妙に速度を調整しながら家から病院までの約15kmを一度も止まらずに運転してなんとか埋まらずにたどり着くことができました。

その後その患者さんの容態は落ち着かず天候もずっと荒れたままだったので、1週間以上病院に泊まり込みました。真っ黒に日焼けして帰ってきたS先生に引き継ぎを済ませて間もなく、その患者さんは亡くなりました。役目を果たしてようやく帰れると思ったのですが、今度は自分の患者さんの容態が悪化…。この患者さんも残念ながら亡くなってしまいましたが、結局2週間近くほとんど病院で過ごしました。

今ではそんな体力はありませんが、その頃はまだ元気だったのでなんとか頑張れました。当時はとにかく状態の悪い自分の患者さんを当直医に任せて帰るということが嫌でした。ですからよく当直でもないのに病院に泊まっていたものです。その考え方はその後も基本的には変わりません。乳がん患者さんとのおつきあいは長いです。自分を信頼してくれていた患者さんが末期になって最後の時を迎えなければならないとき、やっぱり自分が看取ってあげたいと思うのです。それはG先生やN先生も同じ考え方だと思います。ただ雪は怖いです。私が長く関わってきた患者さんの状態が急に悪化したときに雪で駆けつけられないのではないかということが今の一番の心配事です。早く春になって欲しいものです。

2011年12月22日木曜日

乳癌の治療最新情報28 ペルツズマブ1

以前に「乳癌の治療最新情報23 HER2陽性乳がんに対する新たな補助療法」(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2010/12/23her2.html)(第33回サンアントニオ乳癌シンポジウムで発表された術前化学療法の成績)でも少し触れましたが、乳がんに対する新たな分子標的薬が近い将来、使用可能になりそうです。

今回の第34回サンアントニオ乳癌シンポジウムで発表されたのは、新規分子標的薬ペルツズマブ(pertuzumab)の再発乳がんに対する第3相臨床試験(国際共同試験)の結果です。

ペルツズマブはHER二量体化阻害ヒト化モノクローナル抗体と言われる分子標的薬です。ペルツズマブはトラスツズマブとは異なる部位に結合して異なる機序でHER2からの増殖シグナルを抑えますのでトラスツズマブの作用を補足・増強すると予測されています。この臨床試験はCLEOPATRA (CLinical Evaluation Of Pertuzumab And TRAstuzumab)と呼ばれ、日本を含む世界19カ国で、未治療のHER2陽性転移性乳がん患者808人が登録されていました。

この結果によるとトラスツズマブ(商品名 ハーセプチン)+ドセタキセル+ペルツズマブ群は、ハーセプチン+トラスツズマブ+プラセボ群に比べると主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)を約6カ月(中間値 18.5ヶ月 vs 12.4ヶ月)延長したそうです。全生存期間(OS)の最終解析はまだですがペルツズマブ群で今のところ良好な傾向があります。有害事象では、下痢、ほてり、粘膜炎症、発熱性好中球減少、ドライスキンがペルツズマブ群でやや多い傾向を認めました。ペルツズマブ併用群での心毒性の増加はみられませんでした。

この結果をもって欧米ではHER2陽性転移性乳がんの適応症でペルツズマブを承認申請しました。日本も参加した臨床試験ということですので、近いうちに国内でも中外製薬が承認申請をするのではないかと思われます。問題はやはり高額な医療費にあります。分子標的薬を2つも使用しますので自己負担額は相当高額になると思いますが、それに見合った効果が得られるのではないかと期待しています。

2011年12月21日水曜日

乳がん患者さんの在宅医療

私の病院では一般患者さんの往診と訪問看護は往診担当の医師と訪問看護ステーションの看護師が定期的に行なっています。また、終末期患者さんの往診は緩和ケア科の医師と看護師が行なっています。いずれも訪問可能地域が決まっていますので、患者さんの自宅が範囲外の場合には、近くの病院や診療所と連携して往診と訪問看護をお願いしています。しかし、再発で抗がん治療を行なっているがん患者さんは、これらのシステムに簡単に組み込むことはできません。しかもこういう再発患者さんで往診や訪問看護を行なうケースはそう多くはありませんから、個別の対応が必要になることが多いのです。

近々また往診で再発患者さんを診ることになりそうです。私自身が関わった再発乳がん患者さんの往診はこれで3人目です。

1人目は、10年くらい前の方で私の自宅の近くに住んでいる患者さんでした。私の病院の訪問看護と往診の範囲外の住所でしたが、どうしても自宅がいいとおっしゃったので、薬はご家族に取りに来ていただいて、私が個人的に往診する形式をとりました。ぎりぎりまで自宅で過ごされてご本人もご家族も満足していただきました。

2人目は前にここで書いた高齢のおばあちゃんでした。やはり自宅で過ごしたいということで麻薬を使いながらホスピスに入院するまでの数ヶ月を自宅でご家族と過ごされました。このときは訪問看護の範囲内だったので訪問看護の看護師と私で定期的に往診をしました。

そして今回の患者さんは病院からすぐの場所に住んでいらっしゃいます。しかし多発骨転移で治療中ですので病院まで来るのが大変なのです。以前はそれでもなんとか受診していたのですが今回の悪化でそれも困難になってしまいました。いまどうやって往診と訪問看護、治療、検査を行なっていくか検討中です。往診は私が行くつもりですが、看護師を訪問看護師にするか、化学療法室の看護師にするか、治療をどうするかなどについてはもう少し詰める必要があります。

いずれにしても自宅で過ごしたいという患者さんの思いに何とか応えてあげるためにはどうするのが一番良いのか知恵を出し合って考えていきたいと思っています。これからは同じようなケースが増えてくるかもしれません。私もいつかそういう方面の仕事を中心にしていくのも良いかもしれないと思っています。

2011年12月19日月曜日

フェソロデックス始めました

先月も書きましたが、フェソロデックス(一般名 フルベストラント)が発売になり、この薬剤を待っていた患者さんへの投与が開始しました。

今のところ4人に投与していますが、特に問題は起きていません。両側臀部へ5mlずつの筋肉注射ということで投与時の疼痛が心配でしたが思いのほか痛みの訴えもなく順調です。硬結はもう少し経過をみなければわかりませんが、今のところ患者さんからの連絡はありません。

一番注目している効果についてはまだしばらく経過を見なければわかりません。3ヶ月後くらいの検査で明らかになると思いますが、効いてくれることを祈っています。ただ、今回投与した患者さんたちは、今までにかなり長い治療歴のある方が多いのでなかなか難しいかもしれません。こういう患者さんたちにも効果が見られたら、これからの治療に自信を持ってこの薬剤を使用できます。高価な治療費を払うわけですのでそれに見合う効果を期待したいものです。

2011年12月18日日曜日

憂鬱な季節…

また憂鬱な季節がやってきました。今日は朝早い時間からすっと雪が降っています。朝から2回雪かきをしましたがまた積もってきています。明日も早起きして雪かきをしなければなりません…(泣)

今日は回診当番ではありませんでしたが、ちょっと気になる患者さんがいたので早起きして病院に向かうつもりでした。雪かきをして家を出た時には吹雪で視界が悪くなってきていて、しかも昨日からの雪で道路の幅がよくわからない状態でした。

視界不良の中で交差点を左折しようとしましたが、すべて真っ白のために遠近感がまったくなく、中央分離帯も見えないのでどこで曲がれば良いのかわからない状態でした。ここかなと思って左折すると向かい側から対向車が…。中央分離帯を超えて反対車線に入りかけていたのです(汗)。慌ててハンドルを切って正しい車線になんとか戻ることができましたが冷や汗ものでした。結局無理するのは危険と判断して病院に向かうのはやめました。病棟に電話したところG先生もN先生も回診に来ていたので2人にお任せすることにしましたが、幸い患者さんたちは落ち着いていたようです。

先週の金曜日の日中、札幌はだいたい晴れていましたが周辺の自治体はかなりの吹雪だったようです。私の外来に岩見沢と当別から来ていた患者さんたちは時間がかかって大変だったようです。天候が悪いときは無理しないほうが良いです。病院に受診するために事故で怪我をしてしまっては大変です。

これから3ヶ月は通勤がストレスです(泣)雪国に住んでいるみなさんは運転にはくれぐれも気をつけて下さいね。

2011年12月13日火曜日

アロマシンのジェネリック製剤

アロマターゼ阻害薬の1つであるアロマシン錠25mg(一般名:エキセメスタン 1錠590円 ファイザー製薬)のジェネリック製剤が11/28に薬価収載になりました。アロマターゼ阻害剤の中では最初のジェネリック製剤です。

発売元は、日本化薬(エキセメスタン錠25mg「NK」)とマイラン(エキセメスタン錠25mg「マイラン」) です。薬価はともに1錠393円と200円近く安くなっています。

この薬剤の服用は1日1錠ですので、アロマシンなら30日で17700円(3割負担で5310円)ですが、ジェネリック製剤なら30日で11790円(3割負担で3537円)と1800円近く安くなります!

今日も外来にアロマシンを処方する患者さんがいらっしゃいました。私の病院ではジェネリックを含めた新規薬剤は薬事委員会を通さなければ処方できません。薬剤部に確認したところ、まだ2ヶ月くらい承認までには時間がかかるとのこと…。ちょっと時間がかかり過ぎだとは思いますが(関連病院全体で採用を判断するためいくつかの会議を通す必要があります)、先発薬との差異についてきちんと評価した上で採用を決めるという関係上やむを得ません。患者さんにもその旨をお話しし、了承していただきました。

来年にはアリミデックスのジェネリック製剤も薬価収載されるようです(アストラゼネカには未確認ですが)。患者さんにとっては朗報ですね!

2011年12月12日月曜日

骨転移3 骨転移の併発症

骨転移の初期は無症状です。しかし時に骨折による突然の激痛や麻痺で発症する場合があります。

今回は骨転移がある場合に起こりうる併発症についてお話しします。

①病的骨折
転倒したり、激しい外力が加わったわけではないのに骨折することを「病的骨折」と言います。歩いていただけで大腿骨を骨折したり、腕で体を支えただけで上腕骨を骨折したり、などです。転移巣によって骨がもろくなっていることが原因です。乳がんの骨転移は、溶骨性転移(骨が溶けるタイプの転移)と造骨性転移(骨を作るタイプの転移)が混在していることが多いと言われていますが、溶骨性転移が優位な場合に特に病的骨折のリスクが高いので注意が必要です。溶骨性転移の程度を見るためにはCTが有用です。
正常な骨ではないので自然治癒はなかなか期待できませんから、特に四肢の骨折や麻痺のある脊椎骨折の治療は手術(固定術)が必要になることが多いです。麻痺のない脊椎の圧迫骨折には放射線治療を行なう場合もあります。また未使用であればビスフォスフォネート製剤(ゾメタなど)を併用します。

②麻痺
病的骨折が脊椎に起こり、骨折した部分が脊髄や神経根を圧迫すると麻痺が生じることがあります。症状は骨折した部位によって異なります。上位の脊椎ほど麻痺の範囲は広くなります。病的骨折による麻痺が生じた場合は、できるだけ早くに手術に踏み切ることが大切です。骨片による脊髄圧迫の解除が遅くなるほど麻痺の回復が困難になるからです。
私たちが最近経験した頸椎の病的骨折で四肢麻痺になった患者さんは、早期手術とリハビリによってかなり回復しています。もう一日手術が遅れたら回復は難しかったかもしれません。

③高カルシウム血症
転移したがん細胞によって破骨細胞という骨を溶かす細胞が刺激され、骨から溶け出すカルシウムの量が増え、血液中のカルシウム濃度が上がることによって起こります(骨転移がなくてもがん細胞自体が破骨細胞の働きを促すホルモン様の物質を産生して高カルシウム血症をきたすこともあります)。
症状は、のどの渇き、多尿、食欲不振、吐き気、頭痛、骨の痛み、脱力感(体のだるさ)、意識障害などがありますが、初期症状は他の原因でも起こるものなのでなかなか発見できない場合もあります。治療は脱水を補正するための生理食塩水の点滴と脱水が補正されてからの利尿剤投与によるカルシウム排泄、そして骨吸収を抑制するビスフォスフォネート製剤(ゾメタやアレディア)の投与を行ないます。

これらの骨関連イベント(SRE)を減少させるのにはビスフォスフォネート(ゾメタ)が有用であることが報告されています。乳癌診療ガイドライン(2011年版)においても推奨グレードA「ビスフォスフォネートは、骨転移を有する乳癌において、骨転移に伴う合併症の頻度を減らし、その発症を遅らせるので強く勧められる」となっています。ただし、下額骨の壊死をきたす可能性がありますので特に歯周病がある患者さんや歯科治療をしなければならない患者さんなどは注意が必要です(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2009/05/blog-post_06.html、http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2011/02/blog-post_10.html)。

2011年12月11日日曜日

大望年会!

私たちの病院の忘年会は、「年を忘れる」忘年会ではなく「年を望む」望年会として毎年市内のホテルを借りて行なっています。

今年も昨日、市内某ホテルにて「大望年会」が開催されました。総勢200人くらい?の職員が集まり、各セクションから出される出し物(大演芸会)で盛り上がりました。ワインの飲み過ぎからようやく復活してこのブログを書いています(回診にも行ってきました!)。

私たちの病棟ではG先生が中心となって春から企画を練り、忙しい仕事の合間を縫って練習をしてきました。進行係?はマツコデラックスに扮した呼吸器センター長のM毛先生(M毛デラックス)、前半はG先生と研修医のM先生、看護師さんたち、怪物くんに扮した呼吸器外科のK先生が嵐の「Monster」を踊りました。後半はN先生が中心となって少女時代の踊りを披露しました。どちらも非常に完成度が高く、素晴らしかったです(笑)
ちなみに私は外来化学療法室と乳腺センターの掛け持ちなのでどっちにも参加せず応援だけでした(残念…笑)。

結果はみごと準優勝!商品は19型のDVDプレーヤー(だったかな?)でした。昨年も準優勝だったので「今年こそは優勝を!」と意気込んで頑張ってきたG先生は悔しそうでしたが、限られた練習時間でみんなよく頑張ってくれたと思います。このパワーはきっと来年の仕事につながっていくと思います。

来年の望年会の出し物は私も参加するようにG先生に言われました。物覚えが悪くなってしまったので早めにとりかからないと踊りは無理です…(泣)

2011年12月9日金曜日

高齢者の乳がん治療

今日、外来に92歳の乳がん術後の患者さんが1年ぶりに見えました。

車椅子生活ではありますが、見た目は昨年と変わりありません。一応、「一年ぶりですが私のことは覚えていらっしゃいますか?」とお聞きすると、「もちろん覚えていますよ!」とのこと。お年をお聞きすると「94歳です!」とおっしゃいます。娘さんは「いつも数えで年を言うんです」とのことでしたので変わらずしっかりされているようでした。

最初の両側乳がんの乳房温存手術をしたのは今から10年ほど前です。その3年後くらいに残存乳房内に新たながんができ、再手術で乳房全摘をしました。

高齢者の手術の判断は難しいです。平均余命を考えて治療を手控えると、再発して結局また治療することになるかもしれません。この方も最初の手術のあとで放射線治療をしておけば2回目の手術は必要なかったかもしれません。結果論ではありますが…。

ただきちんとフォローはしていたので再発を早期に発見でき、2回目の手術後は再発なく経過し、90歳以上までお元気に過ごされています。もし経過観察は不要と判断して2回目のがんの発見が遅れたら治癒はできなかったかもしれません。

「○○歳まで生きたからもういい」ということはありません。その方の生活状態や全身状態にもよりますが、「高齢者」とひとくくりにするのは間違っています。お元気な高齢者はたくさんいらっしゃいます。私の外来には他にも90歳以上の乳がん術後の患者さんが5人以上いらっしゃいます。みなさん外来にきちんと通って来られます。どうしても通院が大変になったらそこでフォローは終了しますが、私自身も患者さんがお元気に過ごされているのか知りたいので、通える方は年1回でも来ていただくようにしています。

今日の患者さんはいつも娘さんといらっしゃいます。娘さんもそれなりのお年のはずですが、お元気に介助されており、おばあちゃんをとても大切にしていらっしゃるのがよくわかります。そういうご様子を拝見すると、やはり2回目のがんに対してきちんと治療をして良かったと心から思うのです。

2011年12月5日月曜日

特殊型(b7) アポクリンがん

乳がんの特殊型の一つにアポクリンがんがあります。特殊型の中でも稀な組織型でしたが最近は増加傾向にあるという意見もあります。

アポクリンがんの頻度は、坂元吾偉先生の名著「乳腺腫瘍病理アトラス」(1987年初版)によると、0.05-0.1%とされています。しかし、最近の全国乳がん患者登録調査報告(日本乳癌学会)では、1%前後を推移していますのでやはり増加傾向なのかもしれません。私の病院では、約0.6%でした。

「アポクリン」というのは、もともと汗腺の1つのアポクリン腺に由来しています。アポクリン腺は腋窩や乳頭、下腹部や肛門周囲にある汗腺で、体臭の元になるものです。乳腺組織の細胞がアポクリン腺の細胞のように変化することを「アポクリン化生」と言い、乳腺症でよく見られる変化の一つです。アポクリン化生は一般的には良性の変化ですが、がん細胞にもアポクリン化生を起こすことがあり、これを「アポクリンがん」と呼ぶのです(昔はアポクリン化生細胞ががん化したと考えられていた時期もありましたが、今はがん細胞がアポクリン化生したものという考え方が一般的です)。WHO 分類ではアポクリン化生成分が 90%以上のものをアポクリンがんと定義しています。

アポクリンがんの画像所見に特徴的なものはないと言われていますので画像のみでこの組織型を推定するのは困難です。病理組織所見で特徴的なのは、細胞は大型で立方状または円柱状を呈し、核小体は大型で明瞭、細胞質にはHE染色でエオジンという色素に陽性に(赤く)染まるアポクリン顆粒を有し、分泌傾向を示すということです。ホルモンレセプターは陰性であることがほとんどです。なお、最近、早期乳がんの増加により、非浸潤がんにもアポクリンがんの特徴を備えたものがあることがわかってきました。

一般的にはアポクリンがんは予後が良好と言われています。St.Gallen2009では、アポクリンがんや腺様嚢胞がん、髄様がんなどの予後の良い特殊型は、リンパ節転移がなく、小さなものであればトリプルネガティブでも化学療法を省略できる、とされています。しかし私の病院で経験したアポクリンがんの6例中3例はリンパ節転移が陽性でそのうち2例は10個以上のリンパ節転移を有していました。ですからアポクリンがんのすべてが予後良好ということではなく、やはり放置すれば転移、再発のリスクは生じてきます(注:St.Gallen 2011ではアポクリンがんのみ上記の化学療法を省略できる特殊型から除外されています)。

最近、非常に診断に苦慮した非浸潤がん主体のアポクリンがんの1例を経験しました。乳がんの診断は本当に奥が深いです。

乳がんの切除断端を正確に診断する新技術??

Tornado Medical Systemsというベンチャー企業が、乳房温存術中の切除断端のがんの有無を迅速に調べる装置を開発、実用化すると先日発表しました(http://www.longwoods.com/newsdetail/2241)。2013年度中にでもFDA(米食品医薬品局)の承認取得を目指しているそうです。

この装置は、”Margin Assessment Machine (MAM) ”と呼ばれるもので、詳細なシステムについては不明ですが、配信されたニュースによると、「乳がんで切除した標本の断端にレーザー光を当てると、石灰化して硬くなったがん組織だけ強い光の散乱が起こる。それをラマン分光法という方法を応用して解析することで、腫瘍組織と正常組織の境界を見分けることができる。」と書いてありました。

これが本当だとすると、その有効性は限局的なような気がします。その理由は、全てのがんが石灰化を伴っているわけではないからです(”石灰化”という記述が間違っているのではないかとも思うのですが確認できません)。乳房温存術の際に切除断端が陽性(つまりがんが残ってしまうこと)になる一番の要因はがんの乳管内進展によるものです。今はMRで乳管内進展範囲がある程度予測でき、特に壊死型の石灰化を伴うがんの代表である「面疱型(comedo type)」の場合はMRでよく染まってきます。一方、「低乳頭型」などの乳管内進展はMRでも染まりにくいことがあり、これらは石灰化を伴わないですのでこの装置では描出できないのではないかと思います。ですからMRでわからないような進展範囲がわかるような装置でなければ有用性が大きいとは言えません。実際、術中迅速組織診断でさえ、乳管内の乳頭状病変の診断はかなり困難なのです。病理医の目以上の診断力をこの装置に期待するのは少し無理があるような気がします。私たちは石灰化を伴うがんの場合は、摘出標本のマンモグラフィで石灰化がきちんと切除されているかどうかを確認します。この装置はこのレントゲン検査と術中迅速診断にどのくらい上乗せした情報を私たちに提供してくれるのでしょうか?まだ詳細な情報がありませんので、実際はここに書いた内容とは少し違うのかもしれませんが、乳管内病変の診断の難しさをたくさん経験している私としてはあまり過大な期待はしないようにしています。

2011年12月4日日曜日

師走

1年はあっという間ですね。もう師走に入ってしまいました。

さっそく先週は月曜が診療管理会議、火曜が術前検討会、水曜が乳腺術後症例検討会、金曜ががん診療プロジェクト会議、土曜が外科部会とほとんど毎日会議が続きました。来週の土曜は病院の忘年会です。病棟では恒例の出し物の準備に入っており、G先生が中心となって企画しています。私は乳腺センター長と外来化学療法室長を兼務しているので外来所属ということにして病棟の出し物のメンバーからはなんとか逃れようと思っています(笑)

12/13には乳癌学会の演題申し込み締め切りがあり、そうこうしているうちに仕事納めの12/29を迎えます。この日は外科の中で各領域の1年間の活動を報告し合うことになっています。乳腺センターは今年はかなり頑張ったと思います。乳がん手術件数は、昨年の1.3倍に増加しましたし、良性疾患(乳管内乳頭腫、葉状腫瘍、増大傾向のある線維腺腫、乳腺症関連疾患など)の手術件数も今年はなぜか非常に多かったと思います。術前を含めた化学療法の件数も増加しています。

これは乳腺センターを春から開設したこと、N先生が加わって3人体制になったこと、関連病院での手術がなくなって紹介患者さんが増えたことなど、様々な要因があると思います。問題は来年、N先生が研修に出てしまったあとで同じ件数をどうやってこなしていくかということです。これから3ヶ月の間でG先生と検討していこうと思っていますが、乳がんはまだまだ増えていくかもしれません。なんとかN先生が1年後にパワーアップして戻ってくるまではG先生と一緒に頑張ろうと思っています。

年末まで手術予定はほとんど埋まっています。最後まで気を抜かずに無事に1年を終えれるように気を引き締めて頑張ります。