2011年12月28日水曜日

仕事納め〜年末年始、インフルエンザにご注意を!

私たちの病院は明日が仕事納めです。手術は今日で終わりでした。

ようやくここ数日、外来患者さんの数も少なくなってきています。明日の午後は外科で1年の総括会議をするのですが、乳腺外来を止め忘れていたために、私一人だけ午後も外来です(泣)。でも細胞診の結果を聞きに来る患者さんが多く、うち2人は悪性の結果でしたので、外来を開けておいて良かったです。患者数も少ないのでゆっくり時間を取ってお話しすることができそうです。

ここのところ風邪症状を訴えて受診される乳腺患者さんが多くなってきました。今年はマイコプラズマ肺炎が大流行のようですが、今日のネットのニュースでは、ついにインフルエンザが増加の兆しを見せているようです。インフルエンザ定点医療機関(全国約5000か所)当たりの患者報告数が、12-18日の週は1.98で、前週(1.11)の約1.8倍に増えたということです。

インフルエンザはこれからさらに増えることが予測されますので、外出から帰宅したら手洗い、うがいをきちんとするようにしましょう。また咳や痰が続く場合や胸痛を伴う場合、咽頭痛で飲み込むのが困難な場合、そして高熱が出た場合は早めに医療機関に受診することをお勧めします。特に化学療法中で免疫力が低下している方は、なるべく人ごみには出ない方が良いと思います。初詣などは慎重な判断が必要です。どうしても外出を避けられない場合にはマスク着用(効果は不十分ですが…)で短時間の外出で済ませることをお勧めします。

私も今日からちょっと咳が出てきて怪しい感じです(汗)。それではみなさんも体調の悪化に注意して良いお年をお迎え下さい。

2011年12月23日金曜日

大雪の記憶

昨日の朝は吹雪でした。除雪してから出勤しようとしたのですが、あまりの視界の悪さで一度引き返しました。その後少し改善しましたのでなんとか出勤できました(汗)。札幌だけではなく、東日本と北日本では数日前からかなりの大雪と風だったようですね。

今年の年明けも大雪が続きましたが、私にとって一番記憶に残っているのは1996年1月の大雪です。

この時私は札幌の西区にある病院にいました。ちょうど上司のS先生がハワイ旅行に行っていたために病棟の患者さんはほとんど私一人で診ていたのですが、ちょうどこの大雪の日の夜中にS先生の患者さんの容態が悪化したのです。

車でマンションを出てみると道路はまったく除雪されていません。なんとか石狩街道という片道3車線の道路までたどりついたのですが、いつも真っ先に除雪されるはずのこの道路もまったく除雪が入っていなくて雪はボンネットの高さ近くまで積もっていました。あちこちに車が埋まっていて、その中にはタクシーまでありました。1時くらいだったため、私以外にはほとんど走っている車はありません。もし車を停車させたら二度と動けないと思い、信号を見て微妙に速度を調整しながら家から病院までの約15kmを一度も止まらずに運転してなんとか埋まらずにたどり着くことができました。

その後その患者さんの容態は落ち着かず天候もずっと荒れたままだったので、1週間以上病院に泊まり込みました。真っ黒に日焼けして帰ってきたS先生に引き継ぎを済ませて間もなく、その患者さんは亡くなりました。役目を果たしてようやく帰れると思ったのですが、今度は自分の患者さんの容態が悪化…。この患者さんも残念ながら亡くなってしまいましたが、結局2週間近くほとんど病院で過ごしました。

今ではそんな体力はありませんが、その頃はまだ元気だったのでなんとか頑張れました。当時はとにかく状態の悪い自分の患者さんを当直医に任せて帰るということが嫌でした。ですからよく当直でもないのに病院に泊まっていたものです。その考え方はその後も基本的には変わりません。乳がん患者さんとのおつきあいは長いです。自分を信頼してくれていた患者さんが末期になって最後の時を迎えなければならないとき、やっぱり自分が看取ってあげたいと思うのです。それはG先生やN先生も同じ考え方だと思います。ただ雪は怖いです。私が長く関わってきた患者さんの状態が急に悪化したときに雪で駆けつけられないのではないかということが今の一番の心配事です。早く春になって欲しいものです。

2011年12月22日木曜日

乳癌の治療最新情報28 ペルツズマブ1

以前に「乳癌の治療最新情報23 HER2陽性乳がんに対する新たな補助療法」(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2010/12/23her2.html)(第33回サンアントニオ乳癌シンポジウムで発表された術前化学療法の成績)でも少し触れましたが、乳がんに対する新たな分子標的薬が近い将来、使用可能になりそうです。

今回の第34回サンアントニオ乳癌シンポジウムで発表されたのは、新規分子標的薬ペルツズマブ(pertuzumab)の再発乳がんに対する第3相臨床試験(国際共同試験)の結果です。

ペルツズマブはHER二量体化阻害ヒト化モノクローナル抗体と言われる分子標的薬です。ペルツズマブはトラスツズマブとは異なる部位に結合して異なる機序でHER2からの増殖シグナルを抑えますのでトラスツズマブの作用を補足・増強すると予測されています。この臨床試験はCLEOPATRA (CLinical Evaluation Of Pertuzumab And TRAstuzumab)と呼ばれ、日本を含む世界19カ国で、未治療のHER2陽性転移性乳がん患者808人が登録されていました。

この結果によるとトラスツズマブ(商品名 ハーセプチン)+ドセタキセル+ペルツズマブ群は、ハーセプチン+トラスツズマブ+プラセボ群に比べると主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)を約6カ月(中間値 18.5ヶ月 vs 12.4ヶ月)延長したそうです。全生存期間(OS)の最終解析はまだですがペルツズマブ群で今のところ良好な傾向があります。有害事象では、下痢、ほてり、粘膜炎症、発熱性好中球減少、ドライスキンがペルツズマブ群でやや多い傾向を認めました。ペルツズマブ併用群での心毒性の増加はみられませんでした。

この結果をもって欧米ではHER2陽性転移性乳がんの適応症でペルツズマブを承認申請しました。日本も参加した臨床試験ということですので、近いうちに国内でも中外製薬が承認申請をするのではないかと思われます。問題はやはり高額な医療費にあります。分子標的薬を2つも使用しますので自己負担額は相当高額になると思いますが、それに見合った効果が得られるのではないかと期待しています。

2011年12月21日水曜日

乳がん患者さんの在宅医療

私の病院では一般患者さんの往診と訪問看護は往診担当の医師と訪問看護ステーションの看護師が定期的に行なっています。また、終末期患者さんの往診は緩和ケア科の医師と看護師が行なっています。いずれも訪問可能地域が決まっていますので、患者さんの自宅が範囲外の場合には、近くの病院や診療所と連携して往診と訪問看護をお願いしています。しかし、再発で抗がん治療を行なっているがん患者さんは、これらのシステムに簡単に組み込むことはできません。しかもこういう再発患者さんで往診や訪問看護を行なうケースはそう多くはありませんから、個別の対応が必要になることが多いのです。

近々また往診で再発患者さんを診ることになりそうです。私自身が関わった再発乳がん患者さんの往診はこれで3人目です。

1人目は、10年くらい前の方で私の自宅の近くに住んでいる患者さんでした。私の病院の訪問看護と往診の範囲外の住所でしたが、どうしても自宅がいいとおっしゃったので、薬はご家族に取りに来ていただいて、私が個人的に往診する形式をとりました。ぎりぎりまで自宅で過ごされてご本人もご家族も満足していただきました。

2人目は前にここで書いた高齢のおばあちゃんでした。やはり自宅で過ごしたいということで麻薬を使いながらホスピスに入院するまでの数ヶ月を自宅でご家族と過ごされました。このときは訪問看護の範囲内だったので訪問看護の看護師と私で定期的に往診をしました。

そして今回の患者さんは病院からすぐの場所に住んでいらっしゃいます。しかし多発骨転移で治療中ですので病院まで来るのが大変なのです。以前はそれでもなんとか受診していたのですが今回の悪化でそれも困難になってしまいました。いまどうやって往診と訪問看護、治療、検査を行なっていくか検討中です。往診は私が行くつもりですが、看護師を訪問看護師にするか、化学療法室の看護師にするか、治療をどうするかなどについてはもう少し詰める必要があります。

いずれにしても自宅で過ごしたいという患者さんの思いに何とか応えてあげるためにはどうするのが一番良いのか知恵を出し合って考えていきたいと思っています。これからは同じようなケースが増えてくるかもしれません。私もいつかそういう方面の仕事を中心にしていくのも良いかもしれないと思っています。

2011年12月19日月曜日

フェソロデックス始めました

先月も書きましたが、フェソロデックス(一般名 フルベストラント)が発売になり、この薬剤を待っていた患者さんへの投与が開始しました。

今のところ4人に投与していますが、特に問題は起きていません。両側臀部へ5mlずつの筋肉注射ということで投与時の疼痛が心配でしたが思いのほか痛みの訴えもなく順調です。硬結はもう少し経過をみなければわかりませんが、今のところ患者さんからの連絡はありません。

一番注目している効果についてはまだしばらく経過を見なければわかりません。3ヶ月後くらいの検査で明らかになると思いますが、効いてくれることを祈っています。ただ、今回投与した患者さんたちは、今までにかなり長い治療歴のある方が多いのでなかなか難しいかもしれません。こういう患者さんたちにも効果が見られたら、これからの治療に自信を持ってこの薬剤を使用できます。高価な治療費を払うわけですのでそれに見合う効果を期待したいものです。

2011年12月18日日曜日

憂鬱な季節…

また憂鬱な季節がやってきました。今日は朝早い時間からすっと雪が降っています。朝から2回雪かきをしましたがまた積もってきています。明日も早起きして雪かきをしなければなりません…(泣)

今日は回診当番ではありませんでしたが、ちょっと気になる患者さんがいたので早起きして病院に向かうつもりでした。雪かきをして家を出た時には吹雪で視界が悪くなってきていて、しかも昨日からの雪で道路の幅がよくわからない状態でした。

視界不良の中で交差点を左折しようとしましたが、すべて真っ白のために遠近感がまったくなく、中央分離帯も見えないのでどこで曲がれば良いのかわからない状態でした。ここかなと思って左折すると向かい側から対向車が…。中央分離帯を超えて反対車線に入りかけていたのです(汗)。慌ててハンドルを切って正しい車線になんとか戻ることができましたが冷や汗ものでした。結局無理するのは危険と判断して病院に向かうのはやめました。病棟に電話したところG先生もN先生も回診に来ていたので2人にお任せすることにしましたが、幸い患者さんたちは落ち着いていたようです。

先週の金曜日の日中、札幌はだいたい晴れていましたが周辺の自治体はかなりの吹雪だったようです。私の外来に岩見沢と当別から来ていた患者さんたちは時間がかかって大変だったようです。天候が悪いときは無理しないほうが良いです。病院に受診するために事故で怪我をしてしまっては大変です。

これから3ヶ月は通勤がストレスです(泣)雪国に住んでいるみなさんは運転にはくれぐれも気をつけて下さいね。

2011年12月13日火曜日

アロマシンのジェネリック製剤

アロマターゼ阻害薬の1つであるアロマシン錠25mg(一般名:エキセメスタン 1錠590円 ファイザー製薬)のジェネリック製剤が11/28に薬価収載になりました。アロマターゼ阻害剤の中では最初のジェネリック製剤です。

発売元は、日本化薬(エキセメスタン錠25mg「NK」)とマイラン(エキセメスタン錠25mg「マイラン」) です。薬価はともに1錠393円と200円近く安くなっています。

この薬剤の服用は1日1錠ですので、アロマシンなら30日で17700円(3割負担で5310円)ですが、ジェネリック製剤なら30日で11790円(3割負担で3537円)と1800円近く安くなります!

今日も外来にアロマシンを処方する患者さんがいらっしゃいました。私の病院ではジェネリックを含めた新規薬剤は薬事委員会を通さなければ処方できません。薬剤部に確認したところ、まだ2ヶ月くらい承認までには時間がかかるとのこと…。ちょっと時間がかかり過ぎだとは思いますが(関連病院全体で採用を判断するためいくつかの会議を通す必要があります)、先発薬との差異についてきちんと評価した上で採用を決めるという関係上やむを得ません。患者さんにもその旨をお話しし、了承していただきました。

来年にはアリミデックスのジェネリック製剤も薬価収載されるようです(アストラゼネカには未確認ですが)。患者さんにとっては朗報ですね!

2011年12月12日月曜日

骨転移3 骨転移の併発症

骨転移の初期は無症状です。しかし時に骨折による突然の激痛や麻痺で発症する場合があります。

今回は骨転移がある場合に起こりうる併発症についてお話しします。

①病的骨折
転倒したり、激しい外力が加わったわけではないのに骨折することを「病的骨折」と言います。歩いていただけで大腿骨を骨折したり、腕で体を支えただけで上腕骨を骨折したり、などです。転移巣によって骨がもろくなっていることが原因です。乳がんの骨転移は、溶骨性転移(骨が溶けるタイプの転移)と造骨性転移(骨を作るタイプの転移)が混在していることが多いと言われていますが、溶骨性転移が優位な場合に特に病的骨折のリスクが高いので注意が必要です。溶骨性転移の程度を見るためにはCTが有用です。
正常な骨ではないので自然治癒はなかなか期待できませんから、特に四肢の骨折や麻痺のある脊椎骨折の治療は手術(固定術)が必要になることが多いです。麻痺のない脊椎の圧迫骨折には放射線治療を行なう場合もあります。また未使用であればビスフォスフォネート製剤(ゾメタなど)を併用します。

②麻痺
病的骨折が脊椎に起こり、骨折した部分が脊髄や神経根を圧迫すると麻痺が生じることがあります。症状は骨折した部位によって異なります。上位の脊椎ほど麻痺の範囲は広くなります。病的骨折による麻痺が生じた場合は、できるだけ早くに手術に踏み切ることが大切です。骨片による脊髄圧迫の解除が遅くなるほど麻痺の回復が困難になるからです。
私たちが最近経験した頸椎の病的骨折で四肢麻痺になった患者さんは、早期手術とリハビリによってかなり回復しています。もう一日手術が遅れたら回復は難しかったかもしれません。

③高カルシウム血症
転移したがん細胞によって破骨細胞という骨を溶かす細胞が刺激され、骨から溶け出すカルシウムの量が増え、血液中のカルシウム濃度が上がることによって起こります(骨転移がなくてもがん細胞自体が破骨細胞の働きを促すホルモン様の物質を産生して高カルシウム血症をきたすこともあります)。
症状は、のどの渇き、多尿、食欲不振、吐き気、頭痛、骨の痛み、脱力感(体のだるさ)、意識障害などがありますが、初期症状は他の原因でも起こるものなのでなかなか発見できない場合もあります。治療は脱水を補正するための生理食塩水の点滴と脱水が補正されてからの利尿剤投与によるカルシウム排泄、そして骨吸収を抑制するビスフォスフォネート製剤(ゾメタやアレディア)の投与を行ないます。

これらの骨関連イベント(SRE)を減少させるのにはビスフォスフォネート(ゾメタ)が有用であることが報告されています。乳癌診療ガイドライン(2011年版)においても推奨グレードA「ビスフォスフォネートは、骨転移を有する乳癌において、骨転移に伴う合併症の頻度を減らし、その発症を遅らせるので強く勧められる」となっています。ただし、下額骨の壊死をきたす可能性がありますので特に歯周病がある患者さんや歯科治療をしなければならない患者さんなどは注意が必要です(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2009/05/blog-post_06.html、http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2011/02/blog-post_10.html)。

2011年12月11日日曜日

大望年会!

私たちの病院の忘年会は、「年を忘れる」忘年会ではなく「年を望む」望年会として毎年市内のホテルを借りて行なっています。

今年も昨日、市内某ホテルにて「大望年会」が開催されました。総勢200人くらい?の職員が集まり、各セクションから出される出し物(大演芸会)で盛り上がりました。ワインの飲み過ぎからようやく復活してこのブログを書いています(回診にも行ってきました!)。

私たちの病棟ではG先生が中心となって春から企画を練り、忙しい仕事の合間を縫って練習をしてきました。進行係?はマツコデラックスに扮した呼吸器センター長のM毛先生(M毛デラックス)、前半はG先生と研修医のM先生、看護師さんたち、怪物くんに扮した呼吸器外科のK先生が嵐の「Monster」を踊りました。後半はN先生が中心となって少女時代の踊りを披露しました。どちらも非常に完成度が高く、素晴らしかったです(笑)
ちなみに私は外来化学療法室と乳腺センターの掛け持ちなのでどっちにも参加せず応援だけでした(残念…笑)。

結果はみごと準優勝!商品は19型のDVDプレーヤー(だったかな?)でした。昨年も準優勝だったので「今年こそは優勝を!」と意気込んで頑張ってきたG先生は悔しそうでしたが、限られた練習時間でみんなよく頑張ってくれたと思います。このパワーはきっと来年の仕事につながっていくと思います。

来年の望年会の出し物は私も参加するようにG先生に言われました。物覚えが悪くなってしまったので早めにとりかからないと踊りは無理です…(泣)

2011年12月9日金曜日

高齢者の乳がん治療

今日、外来に92歳の乳がん術後の患者さんが1年ぶりに見えました。

車椅子生活ではありますが、見た目は昨年と変わりありません。一応、「一年ぶりですが私のことは覚えていらっしゃいますか?」とお聞きすると、「もちろん覚えていますよ!」とのこと。お年をお聞きすると「94歳です!」とおっしゃいます。娘さんは「いつも数えで年を言うんです」とのことでしたので変わらずしっかりされているようでした。

最初の両側乳がんの乳房温存手術をしたのは今から10年ほど前です。その3年後くらいに残存乳房内に新たながんができ、再手術で乳房全摘をしました。

高齢者の手術の判断は難しいです。平均余命を考えて治療を手控えると、再発して結局また治療することになるかもしれません。この方も最初の手術のあとで放射線治療をしておけば2回目の手術は必要なかったかもしれません。結果論ではありますが…。

ただきちんとフォローはしていたので再発を早期に発見でき、2回目の手術後は再発なく経過し、90歳以上までお元気に過ごされています。もし経過観察は不要と判断して2回目のがんの発見が遅れたら治癒はできなかったかもしれません。

「○○歳まで生きたからもういい」ということはありません。その方の生活状態や全身状態にもよりますが、「高齢者」とひとくくりにするのは間違っています。お元気な高齢者はたくさんいらっしゃいます。私の外来には他にも90歳以上の乳がん術後の患者さんが5人以上いらっしゃいます。みなさん外来にきちんと通って来られます。どうしても通院が大変になったらそこでフォローは終了しますが、私自身も患者さんがお元気に過ごされているのか知りたいので、通える方は年1回でも来ていただくようにしています。

今日の患者さんはいつも娘さんといらっしゃいます。娘さんもそれなりのお年のはずですが、お元気に介助されており、おばあちゃんをとても大切にしていらっしゃるのがよくわかります。そういうご様子を拝見すると、やはり2回目のがんに対してきちんと治療をして良かったと心から思うのです。

2011年12月5日月曜日

特殊型(b7) アポクリンがん

乳がんの特殊型の一つにアポクリンがんがあります。特殊型の中でも稀な組織型でしたが最近は増加傾向にあるという意見もあります。

アポクリンがんの頻度は、坂元吾偉先生の名著「乳腺腫瘍病理アトラス」(1987年初版)によると、0.05-0.1%とされています。しかし、最近の全国乳がん患者登録調査報告(日本乳癌学会)では、1%前後を推移していますのでやはり増加傾向なのかもしれません。私の病院では、約0.6%でした。

「アポクリン」というのは、もともと汗腺の1つのアポクリン腺に由来しています。アポクリン腺は腋窩や乳頭、下腹部や肛門周囲にある汗腺で、体臭の元になるものです。乳腺組織の細胞がアポクリン腺の細胞のように変化することを「アポクリン化生」と言い、乳腺症でよく見られる変化の一つです。アポクリン化生は一般的には良性の変化ですが、がん細胞にもアポクリン化生を起こすことがあり、これを「アポクリンがん」と呼ぶのです(昔はアポクリン化生細胞ががん化したと考えられていた時期もありましたが、今はがん細胞がアポクリン化生したものという考え方が一般的です)。WHO 分類ではアポクリン化生成分が 90%以上のものをアポクリンがんと定義しています。

アポクリンがんの画像所見に特徴的なものはないと言われていますので画像のみでこの組織型を推定するのは困難です。病理組織所見で特徴的なのは、細胞は大型で立方状または円柱状を呈し、核小体は大型で明瞭、細胞質にはHE染色でエオジンという色素に陽性に(赤く)染まるアポクリン顆粒を有し、分泌傾向を示すということです。ホルモンレセプターは陰性であることがほとんどです。なお、最近、早期乳がんの増加により、非浸潤がんにもアポクリンがんの特徴を備えたものがあることがわかってきました。

一般的にはアポクリンがんは予後が良好と言われています。St.Gallen2009では、アポクリンがんや腺様嚢胞がん、髄様がんなどの予後の良い特殊型は、リンパ節転移がなく、小さなものであればトリプルネガティブでも化学療法を省略できる、とされています。しかし私の病院で経験したアポクリンがんの6例中3例はリンパ節転移が陽性でそのうち2例は10個以上のリンパ節転移を有していました。ですからアポクリンがんのすべてが予後良好ということではなく、やはり放置すれば転移、再発のリスクは生じてきます(注:St.Gallen 2011ではアポクリンがんのみ上記の化学療法を省略できる特殊型から除外されています)。

最近、非常に診断に苦慮した非浸潤がん主体のアポクリンがんの1例を経験しました。乳がんの診断は本当に奥が深いです。

乳がんの切除断端を正確に診断する新技術??

Tornado Medical Systemsというベンチャー企業が、乳房温存術中の切除断端のがんの有無を迅速に調べる装置を開発、実用化すると先日発表しました(http://www.longwoods.com/newsdetail/2241)。2013年度中にでもFDA(米食品医薬品局)の承認取得を目指しているそうです。

この装置は、”Margin Assessment Machine (MAM) ”と呼ばれるもので、詳細なシステムについては不明ですが、配信されたニュースによると、「乳がんで切除した標本の断端にレーザー光を当てると、石灰化して硬くなったがん組織だけ強い光の散乱が起こる。それをラマン分光法という方法を応用して解析することで、腫瘍組織と正常組織の境界を見分けることができる。」と書いてありました。

これが本当だとすると、その有効性は限局的なような気がします。その理由は、全てのがんが石灰化を伴っているわけではないからです(”石灰化”という記述が間違っているのではないかとも思うのですが確認できません)。乳房温存術の際に切除断端が陽性(つまりがんが残ってしまうこと)になる一番の要因はがんの乳管内進展によるものです。今はMRで乳管内進展範囲がある程度予測でき、特に壊死型の石灰化を伴うがんの代表である「面疱型(comedo type)」の場合はMRでよく染まってきます。一方、「低乳頭型」などの乳管内進展はMRでも染まりにくいことがあり、これらは石灰化を伴わないですのでこの装置では描出できないのではないかと思います。ですからMRでわからないような進展範囲がわかるような装置でなければ有用性が大きいとは言えません。実際、術中迅速組織診断でさえ、乳管内の乳頭状病変の診断はかなり困難なのです。病理医の目以上の診断力をこの装置に期待するのは少し無理があるような気がします。私たちは石灰化を伴うがんの場合は、摘出標本のマンモグラフィで石灰化がきちんと切除されているかどうかを確認します。この装置はこのレントゲン検査と術中迅速診断にどのくらい上乗せした情報を私たちに提供してくれるのでしょうか?まだ詳細な情報がありませんので、実際はここに書いた内容とは少し違うのかもしれませんが、乳管内病変の診断の難しさをたくさん経験している私としてはあまり過大な期待はしないようにしています。

2011年12月4日日曜日

師走

1年はあっという間ですね。もう師走に入ってしまいました。

さっそく先週は月曜が診療管理会議、火曜が術前検討会、水曜が乳腺術後症例検討会、金曜ががん診療プロジェクト会議、土曜が外科部会とほとんど毎日会議が続きました。来週の土曜は病院の忘年会です。病棟では恒例の出し物の準備に入っており、G先生が中心となって企画しています。私は乳腺センター長と外来化学療法室長を兼務しているので外来所属ということにして病棟の出し物のメンバーからはなんとか逃れようと思っています(笑)

12/13には乳癌学会の演題申し込み締め切りがあり、そうこうしているうちに仕事納めの12/29を迎えます。この日は外科の中で各領域の1年間の活動を報告し合うことになっています。乳腺センターは今年はかなり頑張ったと思います。乳がん手術件数は、昨年の1.3倍に増加しましたし、良性疾患(乳管内乳頭腫、葉状腫瘍、増大傾向のある線維腺腫、乳腺症関連疾患など)の手術件数も今年はなぜか非常に多かったと思います。術前を含めた化学療法の件数も増加しています。

これは乳腺センターを春から開設したこと、N先生が加わって3人体制になったこと、関連病院での手術がなくなって紹介患者さんが増えたことなど、様々な要因があると思います。問題は来年、N先生が研修に出てしまったあとで同じ件数をどうやってこなしていくかということです。これから3ヶ月の間でG先生と検討していこうと思っていますが、乳がんはまだまだ増えていくかもしれません。なんとかN先生が1年後にパワーアップして戻ってくるまではG先生と一緒に頑張ろうと思っています。

年末まで手術予定はほとんど埋まっています。最後まで気を抜かずに無事に1年を終えれるように気を引き締めて頑張ります。

2011年11月30日水曜日

乳腺術後症例検討会 14 ”乳管内乳頭腫の梗塞”

今日は第52回の乳腺症例検討会がありました。

今回の症例は4例でしたが、そのうち3例は乳管内腫瘍が関係したものでした。乳管内乳頭腫に対して乳管腺葉区域切除術を行なったあとで近傍の乳管から発生した微小浸潤がんの1例、嚢胞内がんの微小浸潤の1例、線維腺腫だと思っていたら針生検後に出血して嚢胞内腫瘍だとはっきりしてきた1例の3例です。

この中で非常に興味深かったのは最後の症例でした。半年前の超音波画像上は楕円形の線維腺腫を疑う像でしたが、細胞診では細胞が採取されずに経過観察となっていました。半年後に受診したときは倍くらいの大きさになっており、葉状腫瘍を疑って針生検をしたところ、「良性:乳管内乳頭腫または乳腺症型の線維腺腫」との診断となり、増大傾向があるために摘出手術となりました。

ところが手術直前に超音波検査をしたところ、腫瘤はさらに増大し明らかな嚢胞内腫瘍に形態を変化させていたのです。摘出標本の病理検査では、「梗塞をきたした嚢胞内乳頭腫」という診断になりました。振り返ってみると、おそらく細胞診をした時に乳頭腫の茎の血管に針が当たって微小な血腫となって部分的な梗塞をきたし(だから血液しか引けずに細胞が採取できなかった)、腫瘍自体はうっ血になったために増大→針生検で嚢胞内に出血したためにさらに増大し形態を変化させた、というような経過だったのではないかと推測しました。

線維腺腫の術前診断だったため、手術直前の変化にはびっくりしましたが、非常に珍しい経過をたどった症例だったと思います。

来月は年末になるため、症例検討会はお休みにしました。1月の検討会は2ヶ月分の症例の中から選りすぐりの症例を提示したいと思っています。

2011年11月28日月曜日

第20回日本乳癌学会学術総会演題締め切り近づく!

2012.6.28-30に熊本で開かれる第20回日本乳癌学会の演題締め切りが12/13に迫ってきました。

今回のテーマはかなり早い時点(9月の乳癌学会が終わったころから)で決めていました。このテーマを追究するためには、特殊な免疫染色を多数の症例に行なわなければならないため病理のDrと技師さんたちにかなりの負担を強いてしまいます。また、それに要する費用もけっこうな額になってしまうことが判明しました。

私の病院には自前の病理医がいます。外注するわけではないので、けっこう大変な作業にも積極的に協力してくれます。今回も私が考えていた研究テーマに賛同してくれて快く協力してくれることになりました。大変ありがたいことです。演題が採用されたらお土産は奮発しなきゃならないと今から考えています(笑)。ただ残念なことに乳癌学会に入会している病理医がいないので抄録の共同演者に名前を乗せることができません。病理医は乳腺だけ見ているわけではありませんし、様々な病理関係の学会に参加しているので年会費だけでも結構な負担になるからです。このあたりは公費で負担してもらうように病院にかけあってみようかと思っています。

さて今回は、「乳がんの早期発見は意味があるのか?」というテーマに対して、生物学的悪性度の観点から分析してみようという内容です。乳がんの早期発見は意味があるに決まっているのではないかと思う人も多いと思います。もちろん私もそう思いますし、乳腺外科医のほとんどはそう信じています。しかし、いまだにその考えに対して否定的な見解を主張し続けている医師たちも存在します。また、マンモグラフィの有効性について肯定的なものだけではなく、否定的な研究報告が存在するのも事実です(これには様々な理由があると思いますがここでは割愛します)。

この命題に対して結論を下すのは、一部の偏ったデータや感情論、経験論ではなく、十分な科学的根拠に基づいた検証しかありません。残念ながら今回の私の研究は、そんな大それた内容ではありません。症例数も不十分です。しかしこのデータから導き出した推論がその解決の小さな一歩になればと願いつつ、病理のDrたちにも協力してもらいながらさらに研究を続けていこうと思っています。

2011年11月25日金曜日

アバスチン続報 FDAの最終決定と今後の展望

米食品医薬品局(FDA)がアバスチンの乳がんに対する適応取り消しを決定した件についてはここで何度か取り上げました(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2010/07/blog-post_22.html、http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2010/12/fda.html)。その後もロシュ社の不服申し立てに対する公聴会などを開いて審議してきましたが、最終的にFDA長官の最終判断により承認取り消しが決まったそうです。
(なお、日本ではパクリタキセルとの併用で先日承認されています→http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2011/09/blog-post_30.html)

今回のFDAの判断は、アバスチンの併用が全生存期間(OS)を延長させなかったことと、安全性に問題があると判断したことが原因とされています。この判断により米国における乳がんの承認取り消しは確定されましたが、ロシュ社では乳がんに対する適応の開発を継続する方針のようです。未治療の転移患者を対象に、パクリタキセルと併用する治験を開始するほか、アバスチンが奏効しやすい患者さんを判別するためのバイオマーカーを開発するということです。AVADO試験において未治療の再発症例に対するドセタキセルとの併用で有意差が出なかったOSが、パクリタキセルとの併用では出るのか?という疑問はありますが、バイオマーカーの開発には期待したいところです。

アバスチンの薬価は、点滴静注用100mg/4ml 1バイアル50291円、400mg/16ml 1バイアル191299円。乳がんに対しては10mg/kgを2週以上の間隔で投与します。体重50kgであれば500mgですので1回につき241590円かかります(3割負担なら72477円)。1ヶ月ではその倍です。抗がん剤の分もかかりますので高額医療費制度で戻るとは言っても経済的負担はかなり大きい薬剤です。

以上のように高額な薬剤ですので、高い確率で効果がある対象を絞ることができるようになれば患者さんにとっても医療経済的にも良いことですので、この承認取り消しが乳がん患者さんにとってプラスになる結果につながれば良いと私は思っています。

2011年11月22日火曜日

命の値段

先日英国国立医療技術評価機構(NICE)が、ハラヴェンを保険適用対象として推奨しない最終ガイダンス案(FAD)を発表しました。NICEはその前にもフェソロデックスに対して同様の勧告をしています。

NICEにおいては抗がん剤を推奨する場合、3カ月以上の延命効果があることなどを条件としているそうです。今回ハラヴェンの治験で示された延命期間は2.7カ月と条件を満たしていませんでした。既存療法より副作用が多いことも指摘されています。そしてコスト面においては、生活の質を加味した生存年(QALY)の1年延長に必要な費用(ICER)は、治験で比較した治験医師選択療法よりも68600ポンド高く、コストベネフィットに見合わないと評価されました。

このニュースを見て、いろいろ考えさせられました。


人の命の長さ(時間)に値段などつけることができるのだろうか?

平均2.7ヶ月の延命は患者さんにとって価値のないものなのだろうか?

「保険適用としない」というのは「使用を禁止する」と同意語ではない→お金のある人は全額自己負担で受けなさい、お金のない人はあきらめなさい、ということを意味しているのだろうか?


皆さんはどう考えますか?

世界的に財政事情が厳しい状況を考えると、できるだけ医療費の公的負担を減らしたいと考えるのはわかります。新薬、特に分子標的薬は非常に高額です。まったく意味のない薬剤なら高額な治療は明らかな無駄です。しかし、その判断のために命に値段を付けてしまう今の医療界の考え方にはどうしても違和感を覚えてしまいます。費用が高い安いではなく、本当に患者さんにとって有益なのかどうかを判断する術は他にはないのでしょうか…。

天国にいる金子明美さん( 以前ここでも取り上げました http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2010/02/blog-post_16.html )はどう思っていらっしゃるのでしょうか?ドキュメンタリーの中で金子さんがだんだん経済的に追い込まれていったときに、たしか「金の切れ目が命の切れ目」というようなお話をされていたように記憶しています。金子さんがこのとき受けていた治療は、分子標的薬のアバスチンを使用したレジメンだったと思います。FOLFOX4という標準治療に対するアバスチン追加の延命効果は、2.1ヶ月です(E3200試験)。これを短いと思うかどうかは患者さんそれぞれの価値観や状況によって変わるのかもしれません。しかし、2.1ヶ月の延長でも貴重だと思う患者さんが治療を選択できなくなってしまうのは非常に酷な話です…。

保険診療で行なっても高額なのが分子標的薬も含めた化学療法です。全額自己負担で払える人などごく一部だと思います。日本がこのような欧米のやり方を猿真似するようなことだけはなんとか避けてもらいたいと心から願っています。

2011年11月21日月曜日

フェソロデックス(一般名 フルベストラント)いよいよ発売!

ここでも何度かご紹介しましたが(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2009/12/11.html、http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2011/10/blog-post.html、http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2011/10/blog-post_31.html)いよいよフェソロデックスが11/25に薬価収載、発売されることになりました(http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001v6v3-att/2r9852000001v6yr.pdf)。

適応は、「ホルモン受容体陽性閉経後乳癌」で、術後補助療法ではなく、進行再発乳がんに対して使用します。この薬剤をずっと心待ちにしていた患者さんたちが何人かいらっしゃいますので、さっそく数人の患者さんに使用予定です。

問題は2つあります。1つは前回も書いた、両側の臀部に5mlずつもの薬剤を筋注しなければならないことです。想像しただけで痛そうです(汗)。せめて皮下注なら良いのですが、皮下脂肪に漏れると吸収が悪くなるのと硬結を作るので筋肉内に注入しなければなりません。

もう一つは薬価です。今回収載された薬価は、1本(250mg)50313円ですので、1回につき、100626円(の3割などの自己負担分)かかることになります。今日説明に来てくれた製薬会社の方に、「高すぎる!」ってごねましたが、彼が決めた値段じゃないので仕方ありません(笑)。また、「欧米人と日本人じゃ体格が違うんだから痩せた患者さんなら1本で良いのでは?」とお聞きしましたが、国内で承認されたデータは500mgの臨床試験に基づいていることと、欧米の70kg台の体重の患者さんたちと日本人の50kg台の患者さんたちの薬物動態を調べても有意差はなかったという事実に基づいているので半分量で良いとは言えないらしいです。また、添付文書上も250mgの投与についての記載がないため、保険で認められない可能性があります。

というわけでまたまた乳がん患者さんには経済的負担を強いることになってしまいそうですが、それを上回る効果が得られることに期待したいと思います。

2011年11月20日日曜日

乳管内乳頭腫3 治療

乳管内乳頭腫(IDP)と診断できた場合、分泌を伴っていなければ経過観察する場合もあります。ただ、前回書いたように、乳管内乳頭状病変の良悪の診断は難しい場合もありますし、周囲にがんを伴う可能性もありますので厳重な経過観察が必要です。手術をする場合は、多少周囲に正常乳腺をつけて腫瘤摘出術を行なうようにしています。

乳頭分泌を伴う場合は、良性と診断しても手術を行なうケースが多いです(ご本人が強く希望すれば経過を見る場合もありますが…)。これはやはり血液混じりの分泌物が出続けるのはあまり気持ちの良いことではないからです。良悪の確定診断がつかない場合はもちろん切除が必要です。手術を行なう場合には、乳管腺葉区域切除術という特殊な手術を行ないます。

<乳管腺葉区域切除術>

以下は私たちの施設で行なっている方法です。

①腫瘍の位置と乳管の走行がわかっている場合はあらかじめ超音波検査とMR画像を参考にマーキングしておきます。

②全身麻酔(局所麻酔で行なっている施設もあります)をかけて皮膚消毒後、乳管造影(前回参照)と同じ手技で色素(ピオクタニン)を乳管に注入します。乳頭の孔には色素が出てしまわないように涙管ブジーを留置しておきます。

③腫瘍の位置と乳管の走行を考慮して乳輪に沿って切開をします(乳輪の1/3周前後…乳輪に沿う切開は傷跡が目立ちません)。

④乳輪下組織を分けて、涙管ブジーが挿入された青く染まった乳管を見つけ出し、できるだけ乳頭側を糸で縛って切離します。

⑤切離した乳管を引き上げながら青く染まった乳腺組織を残さないように末梢方向に切除していきます(芋掘りみたいな感じです)。青い組織ぎりぎりで切除するのがコツですがなかなか難しいものです。うまく切除できるとちょうど「わかさいも」(北海道人にしかわからないかも…)か小さめの「海老フライ」のような乳腺組織が取れます。

⑥変形をきたさないように周囲乳腺を吸収糸で縫合し、皮膚も吸収糸で埋没縫合(抜糸不要な縫い方)して創部をステリテープというテープで寄せて終了です。ドレーン(排液用のチューブ)は基本的には入れません。


手術時間は1時間前後です。翌日または翌々日くらいには退院可能です。標本は5㎜間隔くらいですべて病理検索します。もしもIDPではなくがんであったり、IDPのほかにがんの合併があった場合には、後日再手術や放射線治療が必要になることがあります。悪性所見が認められず、IDPだけだった場合はこれで治療終了です。

2011年11月19日土曜日

乳管内乳頭腫2 検査

乳管内乳頭腫(IDP) を診断するために行なう検査は、他の腫瘤の検査に加えて、乳頭からの分泌物があるときには特殊な検査を行ないます。

IDPと診断する過程で行なう主な検査と所見について書いてみます。

1.視触診: 比較的大きな嚢胞内乳頭腫(ICP)の場合は境界明瞭なしこりが触れることがあります。乳頭分泌がある場合は、出てくる孔の位置と数、分泌物の色、性状を確認します。

2.マンモグラフィ: 小さなIDPではほとんど所見はないことが多いです。ただ脂肪性の乳腺では、拡張した乳管や小さなIDPが写ることも稀にあります。ICPの場合は境界明瞭な嚢胞様のしこりとして写ることがあります。

3.超音波検査: 拡張した乳管の中にポリープとして認められるのが典型的ですが、拡張乳管しか見えなかったり、逆に分泌物のない症例では、単なる境界明瞭な腫瘤(形は様々)として認められることもあります。ICPの場合は、嚢胞の中にポリープを認めます。

4.分泌物の検査: 尿検査で用いる検査紙で分泌物の潜血反応を調べたり、分泌物中のCEA(測定キットがあります)を調べたりすることもあります。

5.分泌物の細胞診: 毎回必ず乳頭腫の細胞がこぼれ落ちているわけではありませんので、分泌物の細胞診では必ず腫瘍であることの証明ができるわけではありません(血液のみだったり、泡沫細胞というものだけのこともあります)。経過観察をする場合は、繰り返し細胞診に提出することが必要です。腫瘍細胞が証明されても、腫瘍からこぼれ落ちた細胞は変性を伴っていることもあり、良性か悪性か判断に迷う場合もあります。

6.穿刺吸引細胞診・針生検: 腫瘤が超音波検査で見える場合には直接腫瘍を穿刺して細胞を採取します。小さい腫瘍では針生検より細胞診の方が適している場合が多いと思います。大きいものでは針生検をする場合もありますが、嚢胞内乳頭腫の場合は穿刺部位に気をつけないと嚢胞内への出血が止まりにくく、血腫になってしまうこともあります。また、細胞診はもちろん、針生検でも良悪の診断が困難な場合があるのは前回述べた通りです。

7.MR: 非浸潤がんとの鑑別や多発病変のチェックに有用です(もちろんMRだけでがんを完全に否定できるわけではありません)。拡張乳管はT2という画像でよく見えるので、乳管の分布や走行がある程度推測できます。

8.乳管造影: 分泌物の出る孔を涙管ブジーという眼科で使う先が鈍になった針で少しずつ拡張して、注射器につけた針から造影剤を注入する検査です。麻酔はしませんが、滑りを良くするためにキシロカインゼリーという表面麻酔剤を針に塗りながら行ないます。怖いと思うかもしれませんが、順調に入ればさほど痛みはありません。むしろ造影剤を注入したあとで乳頭をゴムで縛るのが痛いと言われます(汗)。そのあとマンモグラフィを撮影して終了です。この検査では、超音波検査でわからない小さな乳頭腫の存在や主病巣以外の多発病変がわかることがあります。また、乳管の走行がわかりますので手術の際に乳管を追う方向を決めるのに役立ちます。ただ、腫瘤で乳管が閉塞している時には先に造影剤が入らず、まったく全体の状況がわからない場合もあります。

9.乳管内視鏡: 乳管造影と同じ操作で乳管を拡張してから乳管内に1㎜前後の細い内視鏡(管のようなもの)を入れて乳管の内腔を直接観察する検査です。腫瘤が確認できたら直接細胞診や生検を行なうこともできます。ただ、全例必須な検査というわけではありません。

以上のような検査を駆使して診断を行ないますが、完全に悪性を否定するのが難しい場合もあります。また、IDPの末梢にがんを合併することもありますので最終的には手術をお勧めすることが多いのです。次回は手術についてお話しします。

2011年11月17日木曜日

乳管内乳頭腫1 概論・病理

今年はなぜか乳管内乳頭腫の手術症例が多いようです。特に診断や切除範囲に悩む乳頭腫症例が今年は連発です。MRで多発する腫瘤があったり、大きめの腫瘍で乳管が閉塞しているために乳管造影をしても末梢まで写らないために乳管の走行がわからなかったり、MRで拡張乳管がとても広く写っていたり、予想と違う方向に延びていたり、細胞診で良悪の判定に悩む症例だったり、梗塞を起こしていて奇妙な画像所見を呈していたり、様々な症例を経験しました。

私のこのブログの中で、もっともコメントが多いのは「乳管内乳頭腫と乳癌」(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2010/03/blog-post.html)の文章です。現在68件もの書き込みがあります。やはり症例も多いということもありますが、この疾患独特の診断や治療の難しさがその理由なのではないかと思います。そこで今回は乳管内乳頭腫についてまとめてみたいと思います。今回はまずその概論と病理について書いてみます。

乳管内乳頭腫(Intraductal papilloma: IDP)は、比較的太い乳管内に発生することが多い(細い乳管にもできますが)良性腫瘍(ポリープ)です。時に腫瘍の一部から出血するために、血性乳頭分泌で見つかることが多い疾患です(血性乳頭分泌を起こす原因疾患の中で一番多い)。出血量が多かったり、出血して間もない場合は、赤、または暗赤色(黒に近い)を呈していますが、時間がたつと次第にオレンジから黄色の透明な分泌物になります。ただ、超音波検査で偶然腫瘤を指摘されて細胞診で診断される分泌を伴わないIDPもあります。また、嚢胞の中に発生した(または分泌物で嚢胞を形成した)乳頭腫を「嚢胞内乳頭腫(Intracystic papilloma)」と呼ぶことがありますが、腫瘍の性質としては同じものです。

大腸ポリープは大きくなるとがん化する確率が高くなりますが、IDPは原則的にはがん化しないと考えられています(先日の症例カンファレンスでも提示されてい
ようなきわめてまれにIDPの 一部ががん化したのか迷う症例もあるようですが、一般的には考えなくても良いと言われています)。ただ、IDPの近傍にがん(主に非浸潤がん)が合併することが多いと言われており、その頻度は約10%と言う先生もいらっしゃいます。私の経験上もそのくらいはあるような印象です。

IDPの大きさは様々です。画像で確認されないくらい微小なうちに分泌で発見されるものから分泌を伴わなわず、比較的大きくなって診断されるものまであります。私自身は、4cmくらいの嚢胞内に発生した3cmくらいの乳頭腫を経験したことがあります。

病理学的な特徴は、肉眼的には乳頭状の構造を呈しており、乳管壁に連続する茎を伴っています。茎の中には血管を有しており、これが破綻すると出血として乳頭から分泌されます。同一乳管内に限らず、多発することもよくあります(両側乳房に発生して切除した患者さんもいらっしゃいます)。組織学的には、乳管上皮細胞と筋上皮細胞の2層の細胞から乳頭構造が形成されているという特徴(二相性と呼びます)があります。乳腺症で見られるようなアポクリン化生、悪性所見に似た偽浸潤、まれに梗塞などを起こすこともあります。他にも細胞所見や構造の所見で良悪を判断しますが、非浸潤がんでも一部二相性を有していることがありますので鑑別が難しいことがあります。IDPなのか、非浸潤がんなのかは、一般の方が考えるほど簡単に診断できないこともあるのです。診断に時間がかかったり、次から次へと検査を重ねていくことがあるのはこのためです。ですから乳管内病変(IDPや非浸潤がん)の正確な診断のためには、乳腺外科医による慎重かつ適切な検査の判断と経験豊富な病理医の目が必要なのです。

2011年11月12日土曜日

脳転移3 治療の進歩



脳転移の治療は、主に手術や放射線治療などの局所治療が中心になります。以下に簡単に現在行なわれている標準的な治療を書いてみます。

<手術療法>

3cm以上の大きな単発転移の場合には、他の転移巣がコントロールできていれば手術で摘出する場合があります。ただし、手術単独での局所制御には限界があるため、その後に全脳照射を加える場合が多いと思います。また転移の部位によっては手術ができない場合もあります。

<放射線治療>

・全脳照射 :多発性の脳転移や手術などの治療に併用して行ないます。脳全体に放射線をかけますので転移数が多くても有効ですが、晩発性の脳機能障害(脳萎縮、認知障害など)を起こすリスクがあります。一般的には総線量30Gy(1回3Gy×10回)が標準とされていますが、後遺症のリスクを下げるために1回量を少なくして時間をかけて照射する方法も行なわれています(1回2Gy×20-25回)。 

・定位放射線照射(Stereotactic radiationtherapy: SRT):専用の装置(直線加速器)を用いて、患者さんの頭部を固定しながら、腫瘍周囲のみにX線を集中させて数回に分けて照射する治療法。正常の脳組織にダメージをあまり与えずに腫瘍だけに高い治療効果を与えることができます。転移個数が3-4個以下で、最大径は3cmくらいまでが治療の適応です。

・定位放射線手術(Stereotactic radiosurgery: SRS):代表的なものとしてガンマナイフについてご説明します。SRTと似ていますが、多数のコバルト線源から発生させるγ線を用いる方法です。照射は1回で終了します。こちらのほうがより周囲に対する影響が少なくてすむため(精度は誤差が0.2~0.5mmくらい)、SRTより多い個数に対して治療ができるメリットがあります。私の患者さんの中にも繰り返しガンマナイフを行なった方がいらっしゃいますが、保険点数は1回50万円と高額です。
写真は、ガンマナイフを行なう前と3ヶ月後の乳がん術後小脳転移の患者さんのMR像です。

<薬物療法>

脳転移には薬剤が効きにくいことは先日書きましたが、実際には効果を期待して投与することもあります。脳転移に対して特に有効という抗がん剤はありませんが、血液脳関門が破壊されている場合は通常の抗がん剤で効果が見られることも稀にあるようです。またヒスロンHなどのホルモン剤が著効した症例も報告されています。特殊な治療としては、癌性髄膜炎に対してメソトレキセートの髄腔内投与が有効な場合があります。また、分子標的薬としては、ラパチニブ(商品名 タイケルブ)は血液脳関門を通過するために有効と言われています。ただ、私はHER2陽性乳がんの脳転移に対してラパチニブを投与した経験はまだありません。


一般的に脳転移は予後が不良と言われています。しかし、今年の乳癌学会でN先生がまとめた内容からは、脳が初再発、ER陽性の場合は、放射線治療などで脳転移の局所治療を行ないつつ、他臓器転移を全身療法でコントロールすることにより、比較的長期の予後が期待できる可能性があることがわかりました。今回の当院での成績は、過去に報告されてきた成績よりも良好でしたので、治療の進歩が見られているということなのかもしれません。今後さらなる放射線・粒子線治療や薬物療法の進歩に期待したいところです。

脳転移2 診断


脳転移が診断されるきっかけは、突然生じた自覚症状による場合と定期検査(画像、腫瘍マーカー)で偶然発見される場合とがあります。

<脳転移の自覚症状>

・転移部位による局所神経症状:けいれん、麻痺、めまい、失語症、複視(物が二重に見えること)など。
・脳圧亢進による症状:頭痛、嘔吐、意識障害、呼吸異常

<脳転移の検査>

・脳MR:ガドリニウムという造影剤を用いて行なう画像検査です。小さな転移まで描出可能で、多くは周囲に脳浮腫(腫れ)を伴っています(写真)。中心部が壊死すると膠芽腫という脳腫瘍と鑑別が難しい場合があります。
・脳CT:MRより少し診断精度は落ちますが、造影剤アレルギーやペースメーカー挿入者などMRが撮影できない患者さんに代用される場合があります。
・眼底検査:脳浮腫の程度を見るために行なう場合があります。
・髄液検査:癌性髄膜炎を併発している疑いがあるときに採取してがん細胞の有無や脊髄液の性状を調べます。
*場所が場所ですので、針を刺して細胞や組織を調べることはしません。ただ、他の脳腫瘍と鑑別が難しい場合には開頭手術で診断のために組織を採取することがまれにあります。

私が経験した脳転移の患者さんの症状は、徐々に増悪した手の震え、歩行困難、めまい、複視、突然のけいれんなど様々でした。初期の症状はなかなかわかりにくい場合も多いのです。進行再発乳がんの治療中にこのような症状があらわれたら念のために脳MR検査を受けた方が良いと思います。

症状を伴った脳転移は局所治療を急ぐ必要があります。無症状の場合でも一般的には前回書いたように全身治療が効きにくい再発ですので、局所治療を考慮しなければなりません。治療については次回またご説明します。

脳転移1 概論と今後の予測

乳がんの転移・再発部位で多いのは、肺、骨、肝臓、リンパ節で、脳転移の頻度は、それらよりも少なく、1.0-12.2%と言われています。脳転移が初再発である頻度は、1.4-2.8%とさらに低くなります。

乳がん再発の治療の基本は、Hortobagyiのアルゴリズムに従って行なわれることが多く、臓器別に治療が大きく異なるわけではありません。強いて言うなら、リンパ節には局所療法(手術や放射線治療)、骨転移にビスフォスフォネート製剤を加えることくらいです。そういう意味においては、脳転移だけは少し事情が異なります。脳転移の最大の特徴は、薬物療法が効きにくいことにあります。化学療法(抗がん剤)も分子標的薬(ハーセプチン)も内分泌療法(ホルモン剤)も非常に効きにくい原因は、血液脳関門(Blood-Brain Barrier: BBB)というシステムの存在にあります。BBBは、「有害な物質を重要臓器である脳に到達させない」ために人体にもともと備わっている防御機構です。ですから抗がん剤などの正常細胞に対する有害物質は脳に到達しにくいようになっているのです。ただ、分子標的薬の一つのラパチニブ(商品名 タイケルブ)は、分子量が小さいためにこのBBBを超えると言われています。また、乳がんの転移によってBBBが破壊されることもあると言われていますので、全例で薬剤が無効というわけではありません。

脳転移は、肺転移や骨転移のあとに生じることが多いと言われています。他の臓器転移がない状態からいきなり脳の転移は起きにくいと考えられているのです。しかし、今後は、脳に初発する再発が増える可能性があるのではないかと個人的には思っています。その理由をご説明します。

最近では強力な化学療法(FEC療法やタキサン系)を手術前後に用いることが多くなってきています。またハーセプチンの術前、術後投与も認められるようになりました。このことによって、脳以外の、本来なら再発するはずだった微小転移は治癒したために顕在化しない(つまり臨床的には再発しない)ということが起こりえます。結局薬剤の効きにくい脳転移だけが残って顕在化(臨床的な再発)するケースが増えるのではないかということです。

わかりにくいと思いますので具体的に例を挙げてみます。

しこりの大きさ3cm、リンパ節転移2個、画像的に他臓器転移なしの患者さん(T2N1M0 StageⅡB)がいたとします。この時点で画像には写らない肺転移と肝転移、肺転移から続発した脳転移が存在していたとすると、術後に投与した化学療法などで微小な肺転移、肝転移は消失する可能性があります。結局数年後に初発脳転移として発見されることになります。

実際、私の経験でもそうだったのではないかと思われる再発形式を取った患者さんがいらっしゃいます。その患者さんはトリプルネガティブ乳がんの術後にEC-Tという化学療法を行ないましたが、化学療法終了後間もなく単発の脳転移で再発しました。その後転移巣の手術や化学療法で経過を見ているうちに多発の肺転移が顕在化してきました。おそらく最初のEC-Tで肺転移がある程度抑えられていたために、脳転移が先に顕在化してきたのだと思います。

その初再発頻度の低さから、私は乳がんの術後患者さん全例に脳転移チェックのための画像検査を定期的にすることはしていません。主に肺、骨転移が診断された患者さんに検査を行なってきました。しかし、強力な術後補助療法の出現によって、脳転移が初再発となる頻度が増えてくるようであれば、再発リスクの高い患者さんに対しては脳MRを定期的に行なうことも考えなければならないと思っています。

2011年11月10日木曜日

骨転移2 骨シンチは定期的に行なうべきか?

以前も書きましたが、乳がん術後の定期検査で行なうべきであるというエビデンスがあるのは、年に1回の対側のマンモグラフィと問診・視触診(術後3年までは3-6ヶ月に1回、その後2年間は6-12ヶ月ごと、以後は年1回)のみです。国内の多くの施設で行なわれている、胸腹部CTや腹部超音波検査、骨シンチ、PET検査、腫瘍マーカー測定などは、エビデンスがありません。1997年のASCOのサーベイランスガイドラインによると骨シンチや腹部超音波検査は、「推奨しない」と専門家の意見が一致したことになっており、その後も大きな改訂はないようです。

この件については、若干異論があるということを今までも書いてきました。私自身は、マンモグラフィ以外にも、乳房超音波検査、腹部超音波検査、胸部CT、腫瘍マーカーの測定を行なってきました。ホルモン剤などを投与している患者さんには、副作用チェックのために定期的な一般採血も行なっています。

ただ、骨シンチに関しては全ての患者さんには行なっていません。理由は後述しますが、骨シンチの利点と欠点をまず書いてみます。

利点:全身を一度に検査できるのでスクリーニング検査に向いている。
欠点:放射線検査なので被曝のリスクを伴う、高額である、溶骨性転移がほとんどを占める場合には写らないことがある、偽陽性が多い(骨折などの外傷後、変形性関節症など)、微小な病変の描出は困難、など。

それでなくても乳がん患者さんは、薬代や他の検査でお金がかかります。これらの欠点を上回るメリットがあればお勧めするのですが、無症状の患者さん全員に定期的に受けていただくのは、エビデンスがないことも考え合わせると気が引けます。ですから術後の定期検査としては行なっていないケースが多いのです。

「再発を早期発見することで治癒につなげたい」という命題は私がここまで書いてきたように私のライフワークであり、いつかそうなって欲しいと願っています。治療薬は次々と開発され、実際に長期に再発巣が消失して治癒したと思われる患者さんも経験します。ただ再発患者さん全体をみた時には、まだまだ現実的には簡単なことではありません。そして特に骨転移は無症状で発見しても完全治癒に導くのは至難の技なのです。骨が好きながん細胞は、骨全体に住み着きやすく、放射線をかけても他の場所にまた出てきやすく、放射線治療を繰り返すと骨髄機能が落ちて化学療法が困難になります。すぐに命に関わる再発ではありませんがやっかいな再発部位と言えます。

上に書いたような理由で定期的な骨シンチは行なわないことが多いのですが、腫瘍マーカーの上昇や痛みなどの症状が出ればもちろん検査を行ないます。ただ、骨転移のもう一つの問題点として、病的骨折を突然起こすことがあるということが挙げられます。私が今まで経験した骨転移患者さんの多くは最初に痛みや腫瘍マーカーの上昇があったり、他の臓器の再発検査中に骨転移と診断され、治療の経過中に骨折してしまったというケースが多い(ゾメタ登場以降は減った印象がありますが)のですが、まれに突然上腕骨や大腿骨、脊椎が病的骨折をきたして骨転移と初めて診断されてしまうこともあります。痛みや骨折、脊椎骨折による麻痺はQOLを低下させてしまいますので、非常にやっかいです。

もしも定期的に骨シンチをしていたら脊椎骨折を避けられて麻痺によるQOLの低下を防ぐことができたかもしれない、という非常に悔しい思いをした患者さんを最近経験しました。このような患者さんを診てしまうと、症例によってはやはり定期的な骨シンチは必要なのかもしれないと思ってしまいます。「統計学的には意味がない」「費用対効果を考えると無駄だ」と言われてしまうかもしれませんが、そう簡単には割り切れないものです…。

2011年11月6日日曜日

健康相談会&「札幌乳癌カンファレンス」


昨日は、PM2:00から病院待合室で「乳がんの早期発見」をテーマにした講演会&イベントが行なわれました。地域の患者さん、職員、入院患者さんやご家族も含めてロビーはいっぱいになり、大盛況でした(写真)。

最初にアロマについてのご紹介をOさんにしていただきました。身近な臭い(香り)がからだに及ぼす影響などの概論についてわかりやすくご説明していただきました。そのあとG先生の講演に移りました。日本における乳がんの状況や乳がんのリスク因子、がん細胞の成長の歴史、そしてマンモグラフィ検診や自己検診についてとてもわかりやすく解説していました。やはりこの手の講演はG先生が適任です(笑)

残念ながら私はG先生の講演の途中で退席させていただいて、PM3:30からの「札幌乳癌カンファレンス」(アストラゼネカ社主催)に参加するために東京ドームホテル札幌に移動しました。このカンファレンスは6月に旭川で開催した会に続く札幌版の第2弾です。

Session1は癌研有明病院病理部の秋山太先生のShort Lecture「外科医に知って欲しい乳腺病理」でした。いつもわかりやすく明快なお話をして下さる先生ですのでとても楽しみにしていましたが、期待通りのお話でした。秋山先生でも判断が非常に難しい症例があるというお話をお聞きして、乳腺病理診断の難しさと奥の深さが改めてよく理解できました。ざっくばらんな雰囲気の会でしたのでフロアからの質問も多く、もっと時間が欲しいような感じでした。

Session2は市内3施設からの診断困難例の症例検討でした。症例1は針生検ではわからなかった珍しい分泌癌の症例、症例2は乳管内乳頭腫に非浸潤がんを合併していて、乳頭腫にもがんを思わせるような組織がみられた症例、症例3は乳管内乳頭腫が多発していて、一部におとなしいタイプの非浸潤がんと悪性度の高い浸潤がんが混在していて、リンパ節に乳管内乳頭腫のような転移巣がみられた非常に珍しい症例でした。いずれも興味深い症例で大変勉強になりました。

終了後は懇親会があり、秋山先生を囲んで楽しい時間を過ごさせていただきました。一緒に参加したN先生も乳腺病理に非常に興味を持ったようです。来年から出向研修(専門研修)に出る予定ですので、是非秋山先生に教えていただく機会を作ってあげたいと思っています。

乳癌学会の演題締め切りが近づいています(12/13)。もうテーマも決めて病理のK先生に免疫染色の追加はお願いしましたのでもう今できることはなくなってしまいました。外来看護師の演題の手伝いをしながら、そろそろ患者会の学習会の準備をしなきゃなりません。補完代替療法がテーマなので、調べることが多くてなかなか大変です。内容的にはちょっと気が重いです…。

2011年11月4日金曜日

「乳がんの早期発見」をテーマに健康相談会開催!

明日(11/5)、14:00から病院の外来ホールで、地域住民対象の健康相談会が開催されます。テーマは「乳がんの早期発見」です。

前回(2009年12月)は私が講演を行ない、触診用モデルを用いて自己検診の方法を実演したり、ゴスペルのコンサートを行なったりしました。なかなか盛況でしたが、今回はさらに多くの人に集まってもらえるようにG先生が中心になって、前回よりも多くのスタッフが時間をかけて構想を練ってきました。

今回のイベントのプログラムの内容は以下の通りです。

①ミニサロン アロマを楽しむ(講師 Oさん)
②乳がんの早期発見についての講演(講師 G先生)
③みんなDE体験コーナー
・「マンモグラフィって痛いの?」(放射線技師)…模型を用いた撮影見学!
・「超音波(エコー)ってどんなことをするの?」(超音波技師)…実際にプローブを当てて体験!
・「乳がんって触ったらわかるの?」(乳腺外科医、看護師)…触診用モデルでしこりを実際に触診してもらいます!
・アロマを楽しむ癒しのコーナー(Oさん)…人数限定のアロマ体験!

このイベント告知のために、初めて病院周囲の地域に新聞折り込みチラシを入れてみました。私は残念ながらどうしても外せない症例検討会&講演会に参加するため途中で退席しますが、折り込みチラシ効果で大盛況になることを祈っています!

2011年11月2日水曜日

局所進行乳がん…相変わらず多いです…

7月にも少し触れましたが(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2011/07/blog-post_16.html)、最近、残念なことにかなり進行した状態で受診される患者さんが増えています。

一般的に「局所進行乳がん」というのは、StageⅢA-ⅢCの状態を意味します。つまり遠隔転移は明らかではありませんが、腫瘍が5cmを超えていてリンパ節転移を伴っていたり、皮膚や胸壁に浸潤していたり、リンパ節転移が高度な場合の患者さんですので、外科的治療のみで治癒させるのはなかなか困難です。手術と化学内分泌療法、そして放射線治療を含めた集学的治療が必要になります。

特に最近ではいきなり手術をするのではなく、術前化学療法(時に内分泌療法)を行なうことが推奨されています。診療ガイドラインでも「局所進行乳がんに対しては、薬物療法(化学療法)を施行したのち、外科療法、放射線療法といった集学的治療の施行が勧められる」が推奨グレードB(科学的根拠があり、実践するよう推奨する)となっています。

ここ数ヶ月ほどの間に経験した患者さんの中では、自覚症状が出てから1ヶ月くらいで急速に大きくなった1例を除いて、ほとんどが自覚症状が出てからかなり長い間経過をみています。手術や化学療法が嫌だった(怖かった)から何もせずに経過をみていた方が大部分で、あとは補完代替療法をしていて増大した方が1人、乳腺炎だと思って経過をみてしまった方が1人いらっしゃいました。自覚症状が出た時点で受診していたらこんなに大変な治療を受けなくても良かったのに…と思うことが多いです。

とは言っても今から後悔してもしかたありませんので、なんとか治療を前向きに受けていただけるように、十分に時間をかけてお話をお聞きするようにしています。もともと受診したくない、または受診できないような理由があったわけですから、病院での治療に対して大きな不安や恐れ、不信、抵抗があるはずです。まずはなぜ受診が遅れてしまったのかを傾聴することから診察を始める必要があります。そして一方的にエビデンスを押し付けて今までの経過を責めたり批判したりはしないように心がけています。最初のコミュニケーションがうまくいかないとこのような患者さんたちは心を開いてくれなくなるからです。

幸い、うちの乳腺センターのG先生もN先生も、患者さんとの話し合いに時間をかけることを嫌がりません。私もできるだけ時間をかけるようにしていますが、彼らは私以上に時間をかけて診療しています。外来が延びてしまうと看護師さんたちには残業を強いることになってしまいますが、彼女たちも嫌な顔一つせずに最後まで対応してくれていますので非常に助かっています。

病院が嫌で我慢しても、痛みや出血、悪臭などで結局ほとんどの患者さんはいつか受診することになってしまいます。受診を嫌がった理由をきちんと把握することは、乳がん検診受診率の向上にもつながるのではないかと思います。近いうちに過去の局所進行乳がんの患者さんの受診が遅れた背景に関する情報を集めて学会で報告したいと考えています。

2011年10月31日月曜日

フェソロデックス学習会

以前にもここでご紹介したように(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2009/12/11.html、http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2011/10/blog-post.html)、近々フェソロデックス(一般名 フルベストラント)が発売されます。フェソロデックスは、SERD(Selective Estorogen Receptor Downregulator)と呼ばれるタイプの新しいホルモン治療剤です。アロマターゼ阻害剤に耐性になった患者さんにも有効ということで期待されています。今日は、アストロゼネカの担当者にお願いして、薬剤師、看護師、乳腺外科医に対する学習会を開催していただきました。

今までにある程度の情報は研究会などで聞いていましたが、非常にわかりやすいスライドで知識の整理になりました。また、肝臓で代謝されるために肝機能障害を持っている患者さんには注意が必要なこと、溶剤としてアルコールとヒマシ油が入っているので、アルコール過敏症やパクリタキセル(溶剤としてヒマシ油が添加されている)でアレルギーがあった患者さんには投与困難なこと、などの新たな情報を入手することができました。

発売は11月末頃のようで、それまでは薬価は不明です。おそらくかなり高価な薬剤になると思いますので、適切なタイミングでの投与が重要になると思います。二次治療での投与が推奨されていますが、例えばタモキシフェンの術後補助療法中に再発した場合にも適応になりますが、最初にフェソロデックスを使用するか、それともアロマターゼ阻害剤を投与するのか、迷うところです(フェソロデックス250mgとアリミデックスの比較試験では有意差なしでしたが、今回認可されたフェソロデックス500mgでの直接比較試験はないようです)。また、先行治療がアロマターゼ阻害剤の場合のフェソロデックスまたはタモキシフェンの選択についても同じことが言えます。筋注の痛みのことや医療費のことを考えると先にアロマターゼ阻害剤やタモキシフェンを投与して、フェソロデックスを三次治療に残しておくことを選択するかもしれません。このあたりはもう少し情報が欲しいところです。

ただいずれにしても治療の選択肢が増えたことは喜ばしいことです。先日ご紹介したアフィニトールや今回のフェソロデックスなど、ホルモン陽性乳がんの治療の進歩も著しいです。願わくばもう少し患者さんの経済的な負担が少ないと良いのですが…(アフィニトールは月70万円以上とか…)。

2011年10月26日水曜日

乳腺術後症例検討会 13 ”腺筋上皮腫”

先月の症例検討会は、私用で参加できませんでしたので、2ヶ月ぶりの参加でした。

今月は、異時両側乳がん、乳管内腫瘍のようにも見えた粘液がん、乳頭腺管がんくずれの硬がん、そして非常にまれな良性疾患の4例でした。行事や所用が重なったために、参加者はいつもに比べると少なくて残念でしたが、症例検討内容は非常に充実していたように思います。今回からはMRの画像提示方法も進化して、とてもわかりやすくなりました。

今回の良性疾患症例は数年前にしこりを自覚して受診し、触診で明らかな扇状の硬結を触れ、超音波検査でも限局性に斑状の低エコー(黒い部分)の集簇が見られたため、非浸潤がんを強く疑った患者さんです。数度にわたる細胞診では良性(乳腺症疑い)という診断だったため、経過観察となっていました。この間、画像的にも大きな変化はなかったのですが、やはりどうしても気になるため針生検を行ない、最終的には部分切除を行なって確定診断に至りました。病理組織的には、多彩な乳腺症を背景に、「腺筋上皮腫(adenomyoepithelioma)」と「線維腺腫」様部分が多発して集簇しているという奇妙な像を呈していました。乳腺病理の第1人者であるS先生にも診ていただきましたが、S先生の数多くの経験の中でも例がないとのことでした。

症例検討のあとには、放射線技師のIさんが「腺筋上皮腫」についてのミニレクチャーをしてくれました。腺筋上皮腫は、基本的に良性ですが、時に悪性像を呈することもあります。悪性化するポテンシャルがあると言うのが正しいのかもしれません。稀に他臓器への転移をきたすこともあります。ですから、今回腫瘤部分を摘出して悪性腫瘍の合併を調べたことは意味のあることなのです(S先生にも事前にご相談しました)。幸い悪性所見は認めませんでしたが、今後も局所再発などに注意が必要です。良性から悪性まであることを考えるとなんとなく、葉状腫瘍に似ているような気もします。非常に印象深い症例になりました。

それにしても私たちの病院の技師(超音波技師、放射線技師)さんたちは、いつも非常に熱心にこの症例検討会に取り組んでくれています。毎月、症例の資料集めや病理医への写真作成の依頼、そしてパワーポイントでのスライド作り、さらに開催案内のポスターを作ったり、病院外の技師さんたちに連絡を取ってくれたり、会場の準備や片付けをしたりと、みんなで協力して準備してくれています。いつも彼女たちには厳しいことばかり言っていますが、心から感謝しています。これからも協力しながらお互いの力量アップのためにこの検討会を継続していきたいと思っています。

2011年10月24日月曜日

おっぱいリレー


ピンクリボン月間に合わせて、「おっぱいリレー」が全国各地で行なわれています。写真は今日の北海道新聞夕刊に掲載された記事です。

このイベントは人工乳房を作成している池山メディカルジャパン(http://www.ikeyama-mj.com/concrete5/)と三重県の温泉施設が企画したものです。ツイッターやフェイスブックでの呼びかけに賛同した全国の95カ所の温泉施設が参加しています。地域ごとにリレー形式で人工乳房を引き継ぎ、各温泉で人工乳房を湯に30分浸けてみて色や形の変化が起きないかを検証するそうです。

人工乳房は主にシリコン製で熱や酸には強いのですが、温泉の泉質によっては変化が生じる可能性があるという心配が利用者から寄せられたことが今回の試みにつながったようです。北海道では帯広市の「天然温泉ホテル光南」と稚内市の「天然温泉港の湯」が参加しています。東北・北海道地区のスタート地点となった「天然温泉ホテル光南」のモール温泉、それを引き継いだ「天然温泉港の湯」のナトリウム塩化物強塩泉、それぞれにおいて、湯に浸けても問題がないことが確認されたということで、認定証が贈られることになりました。

この人工乳房は以前にもここで紹介したことがあります(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2010/03/blog-post_23.html)。以前は「ウロメディカルジャパン」という会社名だったと思いますが、名称を変更したのでしょうか?私のまわりでは、まだこの人工乳房を利用している方はいらっしゃいませんが、一度使用している患者さんに感想をお聞きしてみたいものです。

2011年10月23日日曜日

第21回 日本乳癌検診学会総会 in Okayama 無事終了!



今日の夕方、岡山から帰ってきました。 いろいろあってかなり疲れました(飲み過ぎが一番の原因かも知れません 笑)。

岡山に出発したのは10/20でした。超音波技師さん3人と一緒の便でしたが、G先生とN先生は遅い便だったので行動は別々になりました。3時くらいに着いたので、倉敷まで足をのばしてきました。ちょっと道に迷いましたが 美観地区を久しぶりに訪れることができました(写真)。 趣のある喫茶店で食べたあずきチーズケーキは美味しかったです!夜はホテルのある岡山に戻り、4人で焼き物中心の瀬戸内料理を堪能しました。

学会1日目(10/21)はきちんと早起きをして、午前中は超音波検診の セッション(口演)を聞きました。施設によって成績のばらつきがあるように見えたのが気になりました。昼はランチョンセミナーを聞きましたが、正直言って何も得るものはありませんでした。

午後からは釧路の系列病院の放射線技師さんの発表がありました。スライドのトラブルがあったにも関わらず、初めての発表なのに落ち着いていたのには感心しました。発表内容は、ここ数年で取り組んでいる女性スタッフのみで日曜日に行なっている乳がん検診と啓発活動についての報告でした。まだいくつかの課題があり、そこがより明瞭になったという点で有益な発表だったと思います。

夜はまた駅前の繁華街で飲み会でした。私を含めた乳腺外科医3人、道東の放射線技師さん、途中から岡山の系列病院のYI先生、G先生の友人の高知のA先生も参加して乳がんの診断についての熱いトークで盛り上がりました。

学会2日目(10/22)は、午前にSN技師さんの同時両側乳がんの口演と関連病院のT技師さんの1cm未満の乳がんの発見契機になった超音波所見についての口演がありました。2人とも発表経験のあるベテランの技師さんたちなので質問に対する応対も落ち着いており、つつがなく終了しました。

昼食後は時間が空いたので、G先生と2人で岡山城と後楽園(写真)にタクシーで行ってきました
。前に来たときもこの季節で花が咲いていませんでしたが今回も残念ながら彩りは寂しかったです。でも後楽園の庭園の中で花嫁さんが何人も式を挙げたり写真を撮ったりしていて、びっくりしました(北海道ではあまり見かけない風景です)。ずっと歩き回っていたので足が棒のようになってしまいました(泣)

午後からは、FN技師さんの異時両側乳がんのポスター発表がありました。年の功(失言でした…)か、 周到に用意したはずの原稿はまったく見ずにすらすらと発表を終えました。さすがです。今回の発表は3人ともかなり直前までやり直しや修正を行なっていましたが、最終的にはよくまとまった発表になったと思います。いずれも超音波検査 が早期乳がんの描出に非常に優れていることを強調した内容でした。これからもさらに診断に磨きをかけ、後輩を育てていって欲しいと願っています。

夜はまたもや飲み会(連日です…)。体調の良くなかった私は辞退しようかと思ったのですが、系列病院の旭川のSI先生が参加するということで打ち上げを行ないました。東京での研修時代に一緒に仕事をしていた宮崎在住の友人M先生も参加することになり、結局けっこう遅くまで飲んでしまいました。

二日酔いと疲れで今日はチェックアウト近くまでのんびりしてから帰路につきました。

この学会は、技師さんたちが日頃の仕事の内容をまとめたり、目的意識をもって研究したことを形にして発表する貴重な機会です。それはもちろん第1には患者さんのためであり、さらに自分自身の成長のためであり、同僚を育てるためでもあります。そしてそれらの成果が結果的に病院のプラスにもなるのです。ですから私たちの病院では、技師さんたちへの学会参加援助を増やすように求めた私の提案を受け入れてくれたのだと思います。逆に言うと、発表する技師さんとその指導者である私には重い責任があるのだと思っています。これからも病院からの援助をもらえるような学術活動を継続していきたいと思います。

2011年10月19日水曜日

第21回 日本乳癌検診学会総会 in Okayama 明日出発します!

2011.10.21-22の2日間、岡山市で乳癌学会総会が開催されます。明日、昼の便で岡山に向かいます。

かなりぎりぎりまで修正を繰り返していた3人の超音波技師さんの学会準備もなんとか終わり、あとは発表のみとなりました。3人とも2日目の発表のため、終わるまではきっと落ち着かないんじゃないかと思います。私は特にすることもないのでじっくり学会に参加して勉強して来ようと思っています。

欧州では最近、マンモグラフィ検診は乳がん死亡率低下には寄与していなかったという論文が発表されました。マンモグラフィ検診を導入していた国と導入が遅れた国(民族的には近い国同士)を比較した結果、どちらの国でも乳がん死亡率が同じ程度低下していたという結果だったため、乳がん死亡率低下の原因はマンモグラフィ検診の効果によるものではなく、乳がん治療の進歩によるものではないかという内容だったと思います。ただこれは別の国同士を比較していることや前向きの無作為比較試験ではないことから、この論文の評価は慎重にしなければなりません。

実際、今までにさまざまな国で検診の有無を無作為に割り付けた比較試験が行われ、マンモグラフィ併用検診の乳がん死亡率減少効果が証明されてきました。1993年に発表されたFletcherらによるメタアナリシス、1995年に発表されたKerlikowskeらによるメタアナリシスでも50歳以上ではマンモグラフィ検診によって26-30%の死亡率低下が報告されています。

ですからこの報告に対して乳癌検診学会が何かアクションを起こすとは思えませんが、一応注目して聞いて来ようと思います。このような報告が出るとすぐに「検診は有害無益だから受けるべきではない」と言う人たちがいますが、そのような考え方は何の進歩ももたらしません。できるだけ治癒できる状態で乳がんを発見したい、早期発見が治癒率を上げる、と信じているからこそ世界中で乳がん検診に力を入れてきたのです。マンモグラフィの問題点のみを挙げて検診という考え方そのものを否定するのは無責任で退行的な思考だと私は思っています。もしマンモグラフィだけでは力不足なら超音波検診などを併用して欠点を補う、マンモグラフィが仮に本当に有害無益ならそれに変わる検診手段を考える、それが医療者としての正しい思考だと思っています。

明日からはしばらくブログの更新ができないかもしれません。それでは行ってきます!

2011年10月16日日曜日

J.M.Sジャパンマンモグラフィーサンデー!

今日、10/16(日)は、「日曜日にもマンモグラフィ検診を受けられるようにしよう」というJ.POSHの呼びかけで始まった、J.M.Sジャパンマンモグラフィーサンデーの検診日でした。

J.M.Sの賛同医療機関は現在318施設あり、私たちの系列病院でも自施設を含めて3施設登録しています。私たちの施設では3年連続でこの運動に賛同して検診を行なってきました。

今回の検診は私が担当でした。予定は25人までとしていましたが、予約人数は予定より少し少ない20人でした。当日キャンセルが1人いたため、結局19人…。ちょっと寂しい人数でした。健診課の課長の話によると、最近では企業が積極的に乳がん検診を企業検診に取り入れてくれるようになったため、数年前に比べると日曜日の検診受診希望者が減っているとのことです。たしかに最近、平日の企業検診がとても増えているような気がします。

今日の受診者の内訳は、初めての方が5人、中断していた方が4人、繰り返し受診者が10人、年齢は、40才台が6人、50才台が7人、60才台が6人でした。気になった方は1人。前回の検診で触診では異常なしでしたが、今回は明らかな硬結を認めました。痛みを伴っていたため乳腺症としても矛盾しませんが、50才代後半の方なので今になって症状が出たというのは気になります。マンモグラフィを見た上で、超音波検査を追加して非浸潤がんなどの有無をチェックしようと思います。他には触診で気になる方はいませんでしたが、継続的に検診を受けるようにお勧めしました。

人数的には拍子抜けで残念でしたが、この検診がなければ受けれなかった方もいらっしゃるはずです。来年もJ.M.Sの賛同施設の申請をするつもりでいます。

2011年10月15日土曜日

第9回乳癌学会北海道地方会

今日、乳癌学会の地方会がありました。

私は他の学会が重なっていて外科医がいなかったため、関連病院の乳がん検診を終わらせてから午後の部から参加しました。午前中にN先生の症例報告の発表がありましたが、G先生によると質問に対する返答も無難にこなし、無事終了したようです。G先生は、午後から肝転移の長期生存例の報告をしましたが、こちらも順調に終了しました。

午後から聞いた中では、もともと自分のライフワークである再発治療のセッションはもちろんですが、若年女性に対する乳がん教育の効果の報告も興味深かったです。この研究の元になったアンケートは女子大生を対象に行なったようですが、高校生のうちから保健体育などで教育する機会を作るというのも良いかもしれないと思いました。また、肥満とアロマターゼ阻害剤の効果の報告もなかなか面白い研究内容だったと思います。アロマターゼは脂肪でアンドロゲンをエストロゲンに変える酵素ですので、その働きを阻害するアロマターゼ阻害剤は肥満の人では脂肪が多すぎるので効果が落ちるのではないか、ということを検証するのが研究の目的です。今回の発表では、有意差はありませんでしたが、アロマターゼ阻害剤を内服している患者さんにおいて肥満女性の方が予後が不良の傾向があったということでした。

途中、「コーヒーブレイクセミナー」で「アロマターゼ阻害剤の耐性機序」の講演がありました。基礎的なことは非常に難しいのですが、耐性には今のところ5つの機序が推測されているということで、それぞれについての解説がありました。今まで自分なりに考えていたことに新たな学問的エッセンスが加わったような気がします。積み残しになっている論文にも生かされそうな内容でした。

これでまずは一つ、終わりました。来週は乳癌検診学会です!

2011年10月11日火曜日

乳がん関連の学会連発!

今週末は乳癌学会の北海道地方会、来週の金、土は 岡山で乳癌検診学会です。

地方会は、G先生とN先生、検診学会は超音波技師の3人が演題を発表します。私は両方とも今回はサポート役です。発表がないと楽だと思われるかもしれませんが、むしろ自分で発表する方が気楽です。特に検診学会の技師さんの発表は神経を使います。

地方会は、N先生のチェックも終わり順調です。G先生のスライドはまだまったくお目にかかっていませんが、まあまかせても大丈夫でしょう。問題は来週の検診学会です。

ここ数日そのチェックに追われていました。いっぱい話したいことがあっても、聞く人は全部を短時間に理解することはできません。示説ならまだ良いですが、口演ならスライドが流れてしまうのでなおさらです。その発表でここだけは伝えたいというポイントが明瞭でないと聴衆は関心を持てなくなり、自己満足の発表になってしまいます。また、それと同時に抽象的な言葉ではなく、具体的でインパクトのある表現が重要です。ここが学会発表に慣れている人と慣れていない人の差になります。技師さんたちは全国学会での発表経験は多くないのでこのあたりの修正がなかなか大変です。

何度もやり直しを命じると彼女たちも次第に精神的に追いつめられてきます。泣き出したり、怒ったり、ふてくされたり、すねたり…、あげくの果てに直前に発表をやめるとまで言い出します(泣)

なんとかやる気を維持させて最後まで頑張り抜けるようにサポートするのですが、技師さんにもいろいろなタイプがいるのでなかなか対応に苦慮します。でもぎりぎりまで手直しして、良い発表ができたときの満足感は大きいことを知っているのでなんとか頑張り抜いてもらうようにサポートするのです。その結果、今までに2回、座長の先生に論文化を推薦していただけるような発表ができました。そういう時には、発表した技師さんはもちろん、私自身もとても大きな満足感を得ることができます。

学会発表は病院を代表してしてもらうものです。乳腺チーム全体でサポートしあって良い発表をこれからも心がけていきたいと思っています。岡山では、同系列の病院仲間で集まる予定です。「ままかり」を食べながら、美味しくお酒を飲みたいと思っています!

2011年10月8日土曜日

ファイターズファンの患者さんたち

北海道に住んでいますので、患者さんの中には熱狂的な日本ハムファイターズファンの方がいらっしゃいます。もちろん私もそうです(ファンクラブには入っていませんが…)。私の外来にも、春の沖縄キャンプまで見に行く乳がん患者さんや、ファイターズファンが集まる飲食店のおかみさんなど、ファンクラブ会員の方が何人も通院されています。

そのような患者さんが診察室にいらっしゃると、まずはファイターズの話になってしまいます(笑)ついつい長話になって患者さんが診察室から出ようとした時に検査結果をお話しし忘れていることに気づいた、なんていうこともありました(汗)

ファイターズの調子がいいと会話もはずみますが、最近はずっと不調だったため、ついつい患者さんと愚痴を言いあったりしています。きっとファイターズの調子が良いと患者さんの精神状態も安定したりすることもあるんでしょうね。これは埼玉ならライオンズ、福岡ならホークス、仙台ならゴールデンイーグルス、千葉ならマリーンズ、大阪ならバファローズのファンでも同じような状況なのだと思います。

とりあえず、北海道在住のファイターズファンの私としては、なんとか2位をキープして地元でクライマックスシリーズを見せて欲しいと願っています。そういう意味で一昨日と今日の勝利は大きかったと思います。

もしクライマックスシリーズの1stシリーズを勝ち抜いても最終的には1位のソフトバンクホークスに勝たなければなりませんが、これはかなり厳しい戦いになります。とにかく桁外れに強いですし、相性も悪いです。しかも1勝のアドバンテージを持っています。でも昨年の千葉ロッテマリーンズの例もあります。短期決戦ならなにが起きるかわかりません。これからのプロ野球からは目が離せません。

今回は乳がんとはあまり関係ない話になってしまいました。でも患者さん、医師にかかわらず、人間には気分転換が必要ですよね。笑ったり泣いたり、全部が思い通りにはなりませんが、何かに夢中になることは大切なんじゃないかと思っています。

ファイターズ頑張れ!

(他チームのファンのみなさん、すみません!)

2011年10月6日木曜日

乳癌の治療最新情報27 エベロリムス1

先日のノバルティスの講演会でも話題になりましたが、新しい分子標的薬が近い将来、使えることになるかもしれないというニュースです。

先日、スイス・ノバルティス社は、mTOR阻害剤「アフィニトール」(一般名 エベロリムス)について、進行性乳がん、結節性硬化症にともなう良性腎腫瘍をそれぞれ対象にした第3相臨床試験で主要評価項目(無増悪生存期間)を達成したと発表しました。いずれも日本が参加した国際共同治験で、適応追加申請に向けた準備を各国で進める予定です。

アフィニトールは、腫瘍細胞の分裂、血管新生、細胞代謝の調節において重要な役割を果たすmTORタンパクを標的としています。乳がんにおけるホルモン療法に対する耐性(薬剤が効かなくなること)は、mTOR経路の過剰活性と関連があるとされています。アフィニトールを投与することによって、その耐性を解除しようという試みなのです。

昨年発表された第2相試験では、ホルモン受容体陽性でアロマターゼ阻害剤に抵抗性の進行性乳がん患者さんを対象とした無作為比較試験の結果、クリニカルベネフィット(CB:完全奏効、部分奏効又は6カ月以上継続した病勢安定の割合)は、タモキシフェン単独療法群の42%と比較して、「アフィニトール」とタモキシフェンの併用療法群では61%と「アフィニトール」に上乗せ効果があり、病勢進行までの期間(無増悪生存期間:PFS)の中央値は、タモキシフェン単独療法群の4.5カ月と比較して、「アフィニトール」とタモキシフェン併用療法群の患者さんでは8.6カ月に延長していたと報告されていました。

今回発表された第3相試験(BOLERO-2(Breast cancer trials of OraL EveROlimus-2))の結果では、アロマターゼ阻害薬(アナストロゾールまたはレトロゾール)による治療中・後に再発/進行した進行性乳がん患者に対し、別のアロマターゼ阻害薬(エキセメスタン)とアフィニトールを併用投与し、その効果を比較しました。主要評価項目はPFSで、アフィニトール群はアロマターゼ阻害薬単剤よりもPFSを2倍以上延長したそうです(2.8ヶ月 vs 6.9ヶ月)。観察された主な副作用のうちでグレード3または4の主なものは、口内炎(7.7%)、貧血(5.8%)、呼吸困難(3.9%)、高血糖(4.3%)、疲労感(3.7%)、非感染性肺炎(3.1%)、肝酵素の亢進(3.1%)などでした。

今回の結果を受けてノバルティス社は年内にも日本を含む世界各国で承認申請手続きを開始する予定とのことですので、1−2年後くらいには使えるようになるかもしれません。ただ、今回の結果は全生存期間(OS)には触れられていません(現在解析・評価中とのことです)。FDAのOS重視の審査を通るのかどうか、注目しています。

2011年10月5日水曜日

エポジンのがん化学療法による貧血に対する適応申請却下

2年ほど前にここでも書きましたが(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2009/11/blog-post_24.html)、がん化学療法による貧血に対して、中外製薬がエポジンという薬剤の保険適応拡大を申請していましたが、残念ながら却下されてしまいました。

通常、化学療法による骨髄のダメージは、まずは白血球に現れ、次に血小板、ということが多く、赤血球が減少する、いわゆる貧血が起きることは乳癌の初期の化学療法ではあまりありません。

ただし再発後、長期にわたって化学療法を繰り返していたり、骨転移で放射線治療を行なっている場合には、貧血が進行してしまう場合があります。ヘモグロビンが7を切ってしまうと輸血を考えなければなりません(放置すると息切れや倦怠感、心不全をおこします)。今までは輸血以外の治療はありませんでした。鉄剤は鉄が足りないわけではないので無効なのです。実際、いま治療中の患者さんの中にも、貧血で輸血をやむを得ず繰り返している患者さんが数人いらっしゃいます。

エポジンは、もともと生体にあるエリスロポエチンという腎臓で作られるホルモンを遺伝子組み換えで製品化した薬剤です。この薬剤は、主に腎機能低下(透析患者さんなど)に伴う貧血に対して保険適応があり、骨髄の赤血球を作るもとになる細胞を刺激して増加させる作用があります。大出血が予想される心臓外科手術などに際して自己血貯血目的で使用されることもあります。今回の申請は、輸血しか手がなかった化学療法中の貧血に対して有効な治療手段になるのではないかと期待していたのです。


今回、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会薬事分科会が、エポジンの化学療法にともなう貧血の効能追加について承認を却下した理由は、副作用リスクが同薬の貧血を改善する有効性を上回ると判断したからだそうです。この副作用の中には、がん患者の生命予後の悪化や、腫瘍増殖の促進というリスクへの懸念が海外で報告されていることが挙げられています。このような副作用が真実なのであれば化学療法の効果を相殺してしまうことになりますのでやむを得ないのかもしれませんが、どのような臨床試験のデータなのかが興味があります。今度中外製薬の方がいらしたら教えていただきたいと思っています。

2011年10月3日月曜日

フルベストラント近日発売へ! 商品名は…??


「乳癌の治療最新情報11 フルベストラント」(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2009/12/11.html)でも紹介しましたが、ようやく先月承認され、年内に発売になりそうです。

今日、アストラゼネカの担当の方がいらした時に情報をお聞きし、案内の紙を見せていただきました。

そこに書いてあった商品名「フェソロデックス」を見て、「??」…。
なんとなく違和感を覚えました。こんな商品名だったかな?と思い、横文字の商品名を見ると、「FASLODEX」と書いてあります。そうそう、前は「ファスロデックス」だったはずです。
微妙に違いますし、横文字の読み方としてもおかしいので聞いてみると、
「似たような商品名が他の薬剤であるために、誤投薬防止のために商品名を無理矢理変更せざるを得なかった」
とのことです。ようやく納得しました(笑)

まあ名前はどっちでも良いのですがちょっと呼びづらいです(汗)


保険適応内容についての詳細な記載はまだ見ていませんが、「閉経後乳がん」だけになりそうです。どのような薬剤の治療歴であっても(タモキシフェンでもアロマターゼ阻害剤でも)適応になるようです。この薬剤の一番の問題点は、4週に1回(初月のみ2週ごと)の筋肉注射で、1回につき両側の臀部に5mlずつ注射しなければならないことです。どのくらい痛いかはわかりませんが、けっこう大変かもしれませんね(汗)

今もこの薬剤を使いたいと思っている患者さんがいらっしゃいます。多分11月中には発売になると思うのですが、発売されたらすぐに使用できるように今から勉強会と使用申請の手続きの準備を進めています。

(2011.10.5追記)
臨床試験のデータは、アストラゼネカのサイト(http://www.astrazeneca.co.jp/activity/press/2010/10_03_26.html)をご参照下さい。

2011年10月2日日曜日

乳がん患者会温泉旅行2011




昨日から1泊で病院の患者会の温泉旅行に行ってきました。

この温泉旅行は、なかなか一人や家族では温泉に行けないという患者さんたちが、「みんなで一緒なら怖くない!」と20年以上前に始めた年1回の恒例のイベントです。

今までに訪れた温泉は、しんしのつ温泉たっぷの湯(新篠津村)、なんぽろ温泉ハート&ハート(南幌町)、ユンニの湯(由仁町)いわみざわ健康ランド(岩見沢市)、豊平峡温泉(札幌市)、小金湯温泉(札幌市)などです。一昨年までは、平日の日帰りで行なっていましたが、昨年初めて定山渓温泉の定山渓ホテルに一泊で行ってきました。

そして今回の2回目の一泊旅行、場所は小樽市の朝里川温泉の近くにあるマリンヒルホテル小樽でした。参加者は、患者さん17人、医師が私とG先生(N先生は夏休みで残念ながら参加できず)、看護師が外来と病棟、関連病院の外来から計4人、事務1人の合計24人でした。残念ながら直前に都合で参加できなかった方が数人発生してしまいましたが、昨年より2人多く参加してもらうことができました。

連日あいにくの雨だったので周囲にあるパークゴルフ場やテニスコートは使用できず、散歩もできませんでした。夕食まではテレビを見たり、1回目の温泉に浸かったりで過ごしました。露天風呂からは石狩湾が見え、なかなかの展望でした(好天だったらもっと良かったのですが…)。

夕食は宴会場で食べてそのまま宴会になりました。写真は宴会場の様子です。ホテルの方が小樽ワイン(ナイヤガラ)を2本、サービスして下さいました!ただこの場所は20時までだったのでビンゴゲームが終わったら時間になってしまいました。

そのあとは、カラオケ組(G先生含む)とトランプ組(私はこちら)に分かれて遅くまで楽しい時間を過ごしました。トランプ組は8畳の部屋に最初15人も集まったのですごい状態でした(泣)罰ゲームもあったりしてとても盛り上がりましたが、ちょっとうるさすぎて隣の部屋に迷惑をかけてしまったのではないかと心配しましたが苦情はなかったようです(汗)カラオケ組は0時近くまで4時間近く歌いまくっていたようで、こちらも大変な盛り上がりだったようです(笑)

翌日は朝風呂に入ってのんびり過ごしてから送迎バスで帰路につきました。一泊旅行はゆっくりできてとても楽しいですが、患者さんの中には日帰りなら行けるけど一泊は参加できないという方もいらっしゃいます。来年は日帰り1回、一泊1回できれば一番良いと思っていますが、職員の参加枠の限界もありますので難しいかもしれません。次回の集まりで検討したいと思っています。

2011年9月30日金曜日

アバスチン〜手術不能・再発乳がんに対する追加承認取得

ベバシズマブ(商品名 アバスチン)に関する情報はここでも何度か取り上げてきました(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2009/10/avastin.html、http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2010/06/asco-2010.html)。特に米国のFDAから承認取り消しの決定が下されたニュースが流れてからは(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2010/07/blog-post_22.html、http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2010/12/fda.html)、日本での承認は困難だと思っていました。

ところが、先日ベバシズマブの「手術不能又は再発乳癌」に対する効能・効果および用法・用量の追加に関する承認を厚生労働省から取得したと販売元の中外製薬が発表したのです。

FDAでの判断は、全生存期間(OS)を改善できなかったというフェーズ3の結果に基づくものです。今回の日本での申請は、国内で実施されたフェーズ2と海外で実施されたフェーズ3の結果に基づいて中外製薬が厚生労働省に対して行なっていたものです。つまり、FDAはフェーズ3で全生存期間(OS)を改善しなかった点を重視して認可を取り消し、日本では無増悪生存期間(PFS)の延長を示した結果と国内での安全性と有効性の試験結果を重視したということなのでしょうか?臨床試験の有効性の評価をどちらで行なうかは非常に難しい問題です。この点に関してはこちらの記述がわかりやすいと思います。→http://blog.goo.ne.jp/cancerit_tips/e/1fba8db2e347f13e42b1ad109835a0b5


以下に今回追加された効能・効果・用法・容量を示します。

<手術不能又は再発乳癌>
パクリタキセルとの併用において、通常、成人にはベバシズマブとして1回10mg/kgを点滴静脈内注射する。投与間隔は2週間以上とする。


欧州と同様に臨床試験で行なわれたパクリタキセルとの併用に限って認可されたということになりますが、併用薬を限定されるとなかなか使いにくくなってしまいます(すでにパクリタキセルを使用している場合も多いですので)。高額な薬剤でもありますし、重篤な副作用の問題もあります(高血圧、消化管出血・穿孔など)。実際に使用できる患者さんはかなり限定されるかもしれません。

2011年9月27日火曜日

"Durch Wahrheit zur Klarheit"

いきなりこんなドイツ語を書いてもなんのことかわかりませんよね?これは私が東京のG病院での研修を終えた時に、恩師のK先生から色紙に書いていただいたお言葉です。たまたま部屋を整理していて戸棚に飾っていたのを思い出しました。

実は今でもこの言葉の意味を完全には理解できていません。
Durch :〜を通して
Wahrheit :真実
zur:〜への
Klarheit :明快さ

ネットで調べてみてもドイツ語のサイトしか引っかかってきません。なにかの格言のようですが…。
エキサイト翻訳で直訳すると「明快さへの真実を通して」となりましたが今ひとつ意味不明です。自分勝手に解釈したのは、「目の前の患者さんたちから得た経験をもとに病態の真理を追究しなさい」という感じですが、正しいかどうかは自信ありません。もしわかる方がいらっしゃったら教えて下さい。

G病院での研修中に(もう15年も前になりますが…)私はよく「乳腺部屋」と呼ばれていたデータ管理をしていた部屋に調べものをするために訪れていました。そこのパソコンには10000例を超える乳がん患者さんのデータが入っていて医療秘書さんがデータ管理をしていました。ごく普通の一般病院から来た私にとってそれは宝物のようなデータでした。普通の病院では何も物事を語れないような珍しい症例や事象もここでは1施設で集めることができます。

いま自分の病院にいるとそのデータがうらやましくなります。きっと日常診療で疑問に思ったことの答えの多くはそのデータから導き出せることでしょう。でも数が少なくても想像力は働かせることはできます。患者さん1例1例を大切にして、そこで得られた経験から推理を働かせ、真理に近づくような努力をしていかなければならないと思っています。それがいつかG病院のデータなどで証明される日が来ればきっとK先生からいただいた言葉の意味に近づけるのだと信じています。

2011年9月26日月曜日

乳がん検診受診率が増加!〜今後の課題は?

NPO法人乳房健康研究会(霞富士雄理事長)がこのたび発表した乳がん検診に関する意識調査の結果によると、40歳代~60歳代の女性における、乳がん検診無料クーポン対象者のマンモグラフィ検査の受診率が45.7%だったそうです(今年6月の調査)。以前発表されていた無料クーポン対象者の受診率は30%台だったと記憶していますので、ようやく定着してきたようです。厚労省の目標値(50%)までもう少しです。

ただまだ問題はあります。今回の調査によると無料クーポンの対象者でない場合の乳がん検診受診率は、35.5%だそうです。私自身の経験でもクーポン券は初回の検診やしばらく中断していた患者さんを検診に向かわせる良いきっかけになっているのは事実ですが、1-2年後の乳がん検診を受けてくれるかどうかはわかりません。できるだけ次回の検診時期についてご案内するようにはしていますが、無料かどうかが受診動機に影響を及ぼす可能性は否定できません。できることなら隔年の乳がん検診をすべて無料にしてくれると良いのですが…。

それと長期的に見た課題としては、乳がん検診受診率の増加が乳がん死亡率の低下につながるかどうかということがあります。さらに言えば全死亡率の低下につながることが本来の検診の目的です。超音波検診の導入を含めて、誰もが受けやすくて、日本人に合った安全で合理的で有効な検診方法の確立が重要だと思っています。

2011年9月24日土曜日

Novartis Breast Cancer Forum 2011 参加報告


今日、東京から帰ってきました。

昨日行なわれた「Novartis Breast Cancer Forum 2011〜乳がん個別化治療に向けて〜」は大変勉強になりました。と同時にあまりに分子生物学の進歩が早いため、少しでも油断しているとついていけなくなるという危機感を持ちました。

講演の内容は私が聞いていても完全に理解できない部分もあるため、メモできた中で印象に残った部分を書いてみます。


講演①「Breast cancer signal pathway and treatment strategy」(Stephen Uden氏 ノバルティスファーマ)

アロマターゼ阻害剤やハーセプチンの耐性(効果がなくなる現象)発生の機序と耐性化した乳がんに対して効果が期待される新たな分子標的(mTOR pathway、PI3K/ATK pathway、FGFR pathway、Heat Shock Protein90)についての話でした。すでに臨床試験が開始され、一定の効果がみられているということで今後に期待できそうです。

講演②「Individualization of breast cancer-Intrinsic Subtype」(Prof.Matthew J.C.Ellis Department of Medical Oncology,Washinton University)

ER陽性乳がんの個別化治療についての話でしたが、特に術前ホルモン療法におけるKi-67の変化についての話が印象的でした。通常、日本では術前治療の前に針生検で検体を採取したあとは、手術材料で調べるくらいですが、Ellis先生の施設では術前ホルモン療法中に再度針生検を行なってKi-67の変化を調べるそうです。そしてKi-67が低下していた場合は治療が奏効していると判断できるためそのまま継続する指標になるし、もし逆に増加しているようならホルモン療法の効果は期待できないと判断して化学療法への変更を考慮することができるということでした。2回目の針生検に関して患者さんの同意が得られるのか?という質問には、治療効果を患者さんも知ることができるため、かえって安心して治療を継続したり変更する決断ができるので問題ないと答えていました。
また、LH-RH agonist+AI(アロマターゼ阻害剤)のホルモン療法については、LH-RH agonistでは卵巣機能抑制が不十分なために徐々にE2レベルが上昇し、AIの効果が低下するという問題点について述べていました。このようなケースには外科的な卵巣摘除を考慮すべきであるということでした。以前からこの治療についてはここでも書いてきましたが、なかなか再発治療の実臨床で認められない理由が理解できたような気がします。

講演③「How should we implement the St.Gallen Consensus 2011 in daily practice?」(Prof.Beat Thürlimann Breast Center ,Cantonal Hospital St.Gallen)

Thürlimann先生はSt.Gallen consensus meetingの中心メンバーの一人で、この会議の意義(エビデンスが十分ではないことを討論し、合意を作っていく)について説明して下さいました。また、Adjuvant!Onlineは様々な理由(データに信頼区間がない、何年後の再発率または死亡率なのかが不明、ハーセプチンなどを使用する以前の治療に基づいたデータであることなど)からあまり信頼するべきではないとの考えを強調されていました。また、臨床試験から得られるエビデンスやガイドラインというのは平均的な患者さんに対する平均的な治療を提示するものであるので、個々の患者さんに対しては別な視点が必要であるというようなお話しをされていました。
Thürlimann先生の講演で最も印象的だったのは、スイスではOncotype Dxの保険適応の採用を却下したというお話でした。その根拠になったのは、Oncotype Dxで得られる再発リスクというのは、その腫瘍そのものの性質を現しているだけで、その患者さん個々の化学療法によるリスク低下を反映しているわけではないからだということでした。つまり、腫瘍径やリンパ節転移の程度によって患者さんの再発率は違うので、化学療法を行なった時に得られる再発率の低下の絶対値も異なります。例えば絶対値の低下が5%以上あれば化学療法をしようと考えたとしてもOncotype Dxから得られるデータからは推測することができないということです。
今回のSt.Gallenではサブタイプ別の治療方針がより明確になり、腫瘍径やリンパ節転移の程度の持つ重要性はかなり低くなったと報道されていまいましたし、ほとんどの乳腺外科医もなんとなく納得がいかなくても「そんなものなのかな…」と思っていたと思います。にも関わらず、St.Gallenの主要メンバーであるThürlimann先生の口からこのような考えを 聞くとは思いませんでした。やはり、Luminal Aであっても杓子定規に「ホルモン療法のみでいい!」というのではなく、進行度によって変化する再発リスクを考慮した上で化学療法の追加を検討しても良いのだということのようです。これが確認できたことが今回の最大の収穫だったと思います。

パネルディスカッション「個別化治療のための生物学的解析」
パネルディスカッション 「個別化治療の実践」


詳細は省略しますが、この中で「Luminal Aでリンパ節転移がある患者さん」に対してどの治療を選択するかというVotingにおいてもThürlimann先生は、「N=3ならホルモン治療のみ、N=4なら化学療法(EC×4またはTC×4)を選択する」とおっしゃっていました。


ちょっと今回は難しい話になってしまいました。ゆっくりする暇はありませんでしたが、参加できて良かったです。参加させて下さったノバルティス(株)、そして回診のために残ってくれた同僚のG先生とN先生に感謝申し上げます。

2011年9月22日木曜日

Novartis Breast Cancer Forum 2011〜乳がん個別化治療に向けて〜

明日はグランドプリンスホテル高輪でノバルティスファーマの主催の講演会があります。台風の影響で行けるかどうか心配しましたが、無事通り過ぎてくれたようです。

講演会のスケジュールは、海外からの招待講演が3題、そのあとで個別化治療についてのパネルディスカッションがあります。4時間くらいずっと座っていなければならないので持病の腰痛が悪化しないか心配です(汗)。ただ、非常に興味のあるサブタイプ分類や個別化治療、St.Gallen2011に関する内容が中心ですので、一生懸命勉強して来ようと思っています。

乳腺外科医は、臨床試験を慎重に行ないながら乳房温存手術やセンチネルリンパ節生検などを導入し、患者さんの美容や機能温存を図るとともに、後遺症を減らす努力を行なってきました。そして乳腺外科医と腫瘍内科医によって不要な化学療法を減らすべくSt.Gallenの国際会議などで個別化治療の検討を行なってきています。にもかかわらず、「外科医は必要もないのにやたらと切りたがる」「製薬会社とつるんで金儲けのために抗がん剤をやたらと使いたがる」と言う人たちが未だに多いのは残念なことです。おそらく乳腺外科医のほとんどは、「切らずに副作用のない治療で乳がんを治癒させる」ことを望んでいるはずなのです。もちろん私も常にそう思ってきました。

今回のテーマである個別化治療をもっと洗練させることができれば、患者さん個々に合った治療を選択することができるようになり、不要な治療を避けることができるようになります。まだまだ先の話ではありますが、このような努力を世界中の医師と研究者、製薬会社が目指していることだけは確かだと思います(中には利害関係しか考えていない人もいるかもしれませんが、企業である以上、一定の利益を求めるのはある意味当然だと私は思っています)。

2011年9月19日月曜日

乳腺センター開設〜もうすぐ半年経過〜

10/1に病院診療管理者の合宿があります。ここでセンター化半年の総括をすることになりました。私はその日は乳がん患者会の温泉旅行と重なっていて出席できないため、文書報告とさせてもらうことになりました。先日その書類を作成してようやく提出したところです。

4月からのデータを分析してみると、手術件数は昨年同期の1.8倍に増加していました。市内の他の施設の先生方にお聞きしてみるとどこも増えているようですので、特別私たちの病院に患者さんが流れてきているわけではないようですが驚くほどの増加です。入院件数も収益も予算を上回っており、まずは良いスタートを切れたようです。

最近目立つのは、進行再発乳がん患者さんの増加です。この影響で化学療法やその副作用、病状悪化などによる入院が増えたため、手術患者さんのベッド確保が困難になってきています。今はなんとか他の 病棟のベッドを借りたりしてしのいでいますが、そろそろ根本的な解決策を考えなければなりません。

乳腺センターとしての医療活動は、ピンクリボン in SAPPOROやWith You Hokkaidoへの参加(これは毎年ですが)、検診センターへの訪問、乳癌学会への看護師の初めての参加と乳腺外科医3人の演題発表などがあり、10月以降も患者会温泉旅行、J.M.S(J.POSHが呼びかけた日曜日に行なう乳がん検診)、乳癌検診学会での超音波技師3人の演題発表、地域住民への乳がん啓蒙講演会、乳がん患者会講演会などを行なう予定になっています。

さて来年は今年乳腺外科医の仲間入りしてくれたN先生が研修に出ることになりそうです。今のペースで増加すると手術も病棟管理もかなり厳しい状況になるかもしれません。最近の症例の増加を見ているとうれしいですがちょっと心配になります(汗)

2011年9月17日土曜日

無料低額診療制度について

今日もこのブログに医療費が払えなくて通院が困難という方からのご相談の書き込みがありました。

失業、就職困難、離婚、などをきっかけに経済的に困難となり、無保険になったために病院にもかかれない方が増加しているように感じています。このような方ががんになってしまうと、検査、治療費が高額ですので非常に厳しい状況に陥ってしまいます。

日本国憲法第25条には、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」とあり、国はすべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならないことになっています。しかし、黙っていてはこのような病院にかかりたくてもかかれないような生活困窮者に国が自ら手を差し伸べてくれることはありません。

無料低額診療制度とは、社会福祉法人や公益法人などに関する法人税法と社会福祉法などに基づいた、生活困窮者でもきちんと医療を受けられるようにするための救済制度なのですが、知らない方は非常に多いと思います。以前、新聞に取り上げられたことがありますが、そのような時くらいしかこの制度を知るチャンスはないのかもしれません。

概要を以下に示します。


<無料低額診療制度>

①内容
低所得者などに医療機関が無料または低額な料金によって診療を行なう事業で、大きく分けて二つの法律に基づいています。一つは社会福祉法人や日本赤十字社、済生会、旧民法34条に定める公益法人などが、法人税法の基準に基づいて実施するもので、もう一つは社会福祉法 (昭和26年法律第45号)に基づく第二種社会福祉事業として実施するものです。

②対象
「低所得者」「要保護者」「ホームレス」「DV被害者」「人身取引被害者」などの生計困難者(厚生労働省)。
適応基準は、病院によって異なります。「全額免除は、1ヶ月の収入が生活保護基準のおおむね120%以下、一部免除が140%以下」などです。

③適応期間
これも病院や自治体によって違うようです。1回のみの治療ですむような軽い症状にしか適用しない東京都の某区のようなところから、無料診療の場合は、健康保険加入または生活保護開始までの原則1ヶ月、最大3ヶ月(一部負担の全額減免と一部免除は6ヶ月)などを基準にしている病院まで幅がありますので事前に確認する必要があります。いずれにしてもこの制度は、生活が改善するまでの一時的な措置であることが原則です。

④制度を利用できる病院の条件
第二種社会福祉事業に基づいてこの制度を行なう場合には、都道府県知事に届け出を出して認可を得る必要があります。認可を受けるための条件として、生活保護を受けている患者と無料または10%以上の減免を受けた患者が全患者の1割以上などの基準が設けられていますが、厚生労働省は「都道府県の状況を勘案して判断する」としています。更に、医療機関には、(1)生計困難者を対象とする診療費の減免方法を定めて、これを明示すること (2)医療上、生活上の相談に応ずるために医療ソーシャル・ワーカーを置くこと (3)生計困難者を対象として定期的に無料の健康相談、保健教育等を行うことなどいくつかの条件が義務付けられています。
どの病院でこの制度の利用が可能かを知るためには、自治体の役所に問い合わせをするのが良いと思います。とりあえず調べるてみるのには、ネット検索も便利です。「自治体名(札幌市など)」と「無料低額診療制度」で検索してみて下さい。


いま現在、私の外来に通院中の患者さんの中にもこの制度を利用されている方が3人ほどいらっしゃいます。原則的な適用期間はありますが、実際は働いても働いても生活していくのがやっとで、この制度を継続している方もいらっしゃいます。病気や介護などで働くことができない、働きたくて努力していても職が見つからない、職が見つかっても収入が少なくて保険料も支払うことができない、という人々には何の罪もありません。憲法25条を遵守するために、国と自治体はもっとこのような人々に目を向けて欲しいと思っています。

2011年9月15日木曜日

Triptorelinによる若年乳がん患者に対する早発閉経予防効果

イタリア国立がん研究所のLucia Del Mastro博士らが「化学療法を受けている若年乳がん患者にゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)作動薬triptorelinを投与し,卵巣機能を一時的に抑制したところ,化学療法の副作用である早発閉経が減少した」との第Ⅲ相試験の結果をJAMA(2011; 306: 269-276)に発表しました。

化学療法を受けた患者さんの40%以上が長期的に無月経となると言われています。若くして乳がんになり、治療終了後に妊娠を希望されている患者さんにとっては、卵巣機能の不可逆的な機能低下は大きなショックをもたらします。

GnRH作動薬には、ゾラデックスやリュープリンなどのLH-RH作動薬も含まれます。かなり以前から、これらの薬剤を併用しながら化学療法を行なうと、卵巣機能が保護されて閉経になりにくいと言われていましたが、異論もあり確立された考え方にはなっていませんでした。

「乳癌診療ガイドライン①治療編 2011年版」には、
CQ ”妊孕性維持のために化学療法中にLH-RHアゴニストを使用することは勧められるか”
に対して、
推奨グレードC2(化学療法時にLH-RHアゴニストを投与すると化学療法誘発性閉経の割合は減少する可能性があるが、妊孕性維持についてのエビデンスはなく現時点では勧められない)
となっています。

今回の報告の概要は以下の通りです。

対象:2003年10月~08年1月にイタリアの16施設で登録した、術後補助化学療法または術前化学療法が予定されていた閉経前乳がん患者281例。

方法:化学療法のみを受ける群(化学療法単独群)とtriptorelinを併用する群(triptorelin群)のいずれかにランダムに割り付けた。triptorelinは化学療法開始1週間前および化学療法中4週間ごとに3.75mgを筋注した。

結果:化学療法終了1年後の早発閉経発生率は,化学療法単独群の25.9%に対してtriptorelin群では8.9%と有意に低く(絶対差−17%,P<0.001)。早発閉経の有意な減少はtriptorelin投与のみに関連し,年齢や化学療法のタイプの影響は認められなかった。

今回の研究は,乳がん患者の卵巣機能温存の研究の前進に大きく寄与するものではありますが、問題点が2つあります。
一つ目は、閉経を予防できることと妊娠が安全に可能であることは同義ではないこと(流産率が高いという報告もあります)、二つ目は、特にホルモン受容体陽性乳がん患者に対するtriptorelin併用による予後への影響は確認されていないことです。
ただそうは言っても若年乳がん患者さんにとっては妊娠の可能性を残すことは切実な問題です。現在、受精卵の凍結保存(または未婚者の場合は卵母細胞の凍結保存)などが行なわれていますが、妊娠成功率は必ずしも高くはありません。妊孕性維持の一つの手段として、これらの薬剤併用の安全性が確立されれば化学療法への不安も軽減するのではないかと考えています。

2011年9月11日日曜日

田中賢介選手のマンモグラフィ検診プレゼント当選者が初めて来院!

今日は関連病院での日曜検診でした。

私たちの病院に初めて来院された40歳の患者さんの問診票を見てみると1年前に検診を受けたと書いてありました。1年前は30歳代ですのでどのような検診を受けたのかお聞きしたところ、日本ハムファイターズの田中賢介選手が2年くらい前から取り組んでいた
”田中賢介×ピンクリボン『大切な人を守ろう!』 アウトを取った数マンモグラフィ検診プレゼント”
に当選したのでマンモグラフィを受けてきたということでした。

今まで検診してきた中で、このイベントで検診を受けた方にお会いしたのは私は初めてでした。おそらく対がん協会でマンモグラフィを行なっていますのでその後は対がん協会でフォローされている方が多いのだと思います。

田中賢介選手とピンクリボン in SAPPOROが取り組んできたこの啓蒙活動が今回の検診受診につながったということがとてもうれしく感じました。田中賢介選手は、足の骨折で今季の復帰は困難と報道されていますので、残念ながらこのプレゼントはもうないのではないかと思います。一日も早く回復して、来季はまた元気なプレーを見せてくれることを願っています。

ただちょっと気になったのは、マンモグラフィは対がん協会で行ないましたが触診はなかったとのこと(本人の話なので当局に確認はしていませんが)。当選者には40歳以下の若年者も多いと思います。本来、マンモグラフィ検診の有用性が確立されていない年齢ですので、触診はもちろん、検診の意義や現在のエビデンスについてご説明し、自己検診の指導なども行なうようにするともっと良いのではないかと思います。私でも良ければ個人的には協力したいと思っています!

2011年9月9日金曜日

ノーベル賞の田中耕一さんが乳がん治療に新たな知見!

2002年にノーベル化学賞を受賞した田中耕一さんが、乳がんの悪性化に関わるとされるタンパク質の構造を世界で初めて詳しく解析することに成功したというニュースが流れました。これはノーベル賞受賞につながった質量分析装置を改良し、分析感度を最大1000倍に向上させたことによるもので、京都大学との共同研究で明らかにされました。

今回発表された内容は、ここにも何度か書いてきた、乳がんの悪性化に関わるタンパク質「HER2」に関するものです。田中さんらはHER2と結合する糖の化合物(糖鎖)を解析し、HER2と結合する糖鎖が患者さんによって違いがあることを発見し、HER2と結合する糖鎖のほぼ全容を確認したということです。

この発見は、HER2陽性乳がんにおいて今までのような画一的な治療ではなく、個別の治療ができるようになる可能性を秘めたもので今後の治療薬開発に展望を開くものになるかもしれません。ハーセプチンに続くHER2陽性乳がんに対する分子標的薬は次々と開発されてきていますが(タイケルブなど)、なかなかハーセプチン登場時のインパクトを越える薬剤は開発されていません。実用化はまだまだだと思いますが、今回の発見が、新たな日本発の分子標的薬開発につながるように期待しています。

2011年9月7日水曜日

抗がん剤漏出の治療薬 キッセイが日本での開発・販売権取得

抗がん剤が血管外に漏出した場合に起きる組織障害については以前にここでも書きました(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2011/01/13_23.html)。

今までは抗がん剤が漏出した場合には、主に局所麻酔剤とステロイドを混ぜたものを局所に注射して炎症を抑えるくらいしか対処法はありませんでしたが、海外では治療薬がすでに承認され使用で切る状態のようです。

この治療薬は「デクスラゾキサン」という薬剤で国内では未承認です。デクスラゾキサンは細胞の成長や増殖に必要な酵素の働きを抑えて組織障害を防ぐ世界唯一の治療薬です。今回、キッセイ薬品工業はオランダのスペファーム社から、この薬剤の日本における開発・販売権を取得し、すでに臨床試験の実施など開発に向けて規制当局と協議を始めていると発表しました。

同薬は、未承認薬・適応外薬の国内開発を促進する厚生労働省の専門会議が「医療上の必要性が高い」と判断して開発要請していましたが、スペファームは日本に開発基盤がないため、開発企業の募集が行われていたそうです。

どんなに気をつけても一定の確率で抗がん剤の血管外漏出の可能性はあります。このような薬剤が本当に効果があり、安全性も確認されたのでしたら化学療法を行なっている私たちにとっては強い味方になってくれることでしょう。

2011年9月6日火曜日

がん化学療法に関わる看護師の抗がん剤曝露リスク

現在日本の多くの病院やクリニックの外来や病棟で化学療法が行なわれています。その一方で、化学療法に関して専門の知識や技術を有する、いわゆる「がん化学療法看護 認定看護師」は日本看護協会のHP(http://www.nurse.or.jp/nursing/qualification/nintei/touroku/show_unit.cgi?mode=subcategoryb&subcategory=%82%AA%82%F1%89%BB%8Aw%97%C3%96%40%8A%C5%8C%EC)によると全国で844人しかいません(北海道では30人)。

化学療法を行なう看護師に求められるのは、患者さんに対して、安全に薬剤を投与し経過を観察を行ない、療養指導をするのはもちろんですが、看護師自身の健康を守るということも重要です。偶発的な抗がん剤の曝露は神経系や生殖器系に有害であり、血液がんリスクを高める可能性があると考えられています。今回、看護師の抗がん剤への曝露は珍しいことではないこと、看護師個人の知識と技量、経験だけではなく、職場環境が抗がん剤曝露を防ぐために大切であるということがミシガン大学のChristopher Frieseらによって報告されました(「BMJ Quality and Safety」オンライン版 8/16号)。

米国では化学療法の約84%が外来クリニックで行われています。今回の報告によると外来化学療法注射センターで働くがん専門看護師1,339人を対象に調査を実施した結果、17%近くに皮膚や眼が薬剤に曝露された経験があることが判明したそうです。また、スタッフも資源も豊富な化学療法クリニックの看護師や、2人以上の看護師による指示の確認を要求されている現場で働く看護師のほうが、曝露に関する報告は少なかったということです。

Frieseらは「皮膚または眼への不慮の曝露は、針刺しと同程度に危険な可能性がある。針刺し事故では事故を最小限に抑え、看護師は直ちに評価と予防的治療を受けるが、化学療法への曝露ではその対応策がない。今回の研究は、作業負荷や組織の健全さ、作業条件の質に注意を払うことが成果を挙げることを示している。単に仕事に対する満足度の問題でなく、これらの職業上の危険に対するリスクを低減する可能性がある」と述べています。なお、米国労働安全衛生研究所(NIOSH)では、化学療法薬投与に対するガイドラインを公表していますが強制力はなく、化学療法薬を扱う際にガウンや手袋など防護服を用いることが推奨されているそうです。

2011年9月4日日曜日

「マレーシア・ドラゴンボート観戦」〜J.POSH ピンクリボン国際交流


乳癌学会のJ.POSHのブースに「マレーシア・ドラゴンボート観戦」のチラシが置いてありました。

昨年もJ.POSHの方々が有志で参加されたそうですが、マレーシアで行なわれるCancer Survivorの国際交流だそうです。今回は「第1回Cancer Survivors World Cup」として試合形式で行なわれるということです。世界中のピンクリボン運動の仲間と交流ができるということで、めったにない機会ですのでここでもご紹介させていただくことにしました。

当初の申し込み期日は過ぎてしまいましたがまだ申し込み可能とのことです。ただ大会は10/23と迫っていますので早めにお申し込み下さい。詳細はJ.POSHのHP(http://www.j-posh.com/act_dragonboat.html)をご覧のうえ、参加申込書でお申し込み下さい。

第19回乳癌学会総会 報告



夕方、仙台から帰ってきました!とにかく蒸し暑くて大変でした。毎日汗だくで会場を回っていました。

今回は1日目にN先生が「脳転移後の長期生存症例について」、2日目にG先生が「術前腫瘍マーカー高値と短期予後の関連について」、3日目に私が「長期に再発巣が消えたためにハーセプチンの投与を終了できた症例」について発表してきました。いずれも無難に発表を終えることができ、一安心です!

今回聞いたセッションは、なぜかほとんどがサブタイプ分類に関するものになってしまいました。自分の発表とも関連があるものを中心に聞いたからかもしれませんが、これからますますサブタイプによって治療内容や経過観察期間、フォローなどが細かく変わるような時代になっていくのかもしれないと感じました。

会場では、東京での研修時代にお世話になった先生方や同期の先生たち、札幌でいつも顔を合わせている先生方、製薬会社の皆さんと交流を深めることができました。また、J.POSHの陽さんにもお会いできて、お土産のお菓子までいただきました。ありがとうございました!

夜は牛タンと東北の海産物をおいしくいただいてきました。写真は昨日行った「街道 青葉」というお店で飲んだ「綿屋」というお酒です。先日のブログのコメントで「錦屋」と間違って書いてしまい、陽さんには大変ご迷惑をおかけしました(汗)。お店に行って「錦屋」が飲みたいと言ってしまったとのこと…。実は私も昨日同じことをしていたのでそのことを話して大笑いでした(笑)でも「綿屋」はとても美味しかったです!

今回の学会は台風に振り回されました。四国から発表に来れなかった先生もいらしたようです。G先生も万が一を考えて予定より1日早く昨日札幌に戻りました。結局今日も無事飛行機は飛びましたが、かなり揺れたようです。でも私は熟睡していてまったくわかりませんでした(笑)


なお、仙台市街はほとんど大震災の影響を感じさせないほど復興していましたが、仙台空港から仙台駅に向かうバスから見てみると、空港側の農地は何も栽培されていなかったり、雑草が生えてしまったりしていて、中には未だに津波に流されてきた車が点在しているところもありました。そして流された大量の車がまるで中古車展示場のように並べられている場所や、がれきの山が雑草に覆われているような場所、一階の出入り口や窓がすべて壊れている家や工場などもありました。一見、復興したように見えてもまだまだ傷跡は残っているようです。3ヶ月遅れにはなりましたが、今回の学会が被災地の復興の一助になればいいなと心から感じました。

2011年8月29日月曜日

もうすぐ第19回乳癌学会総会



9/2-4の3日間、仙台で第19回乳癌学会総会が行なわれます。

本当は6月に開催予定でしたが、このたびの震災で9月に延期になった学会です。ようやく発表の準備がだいたい整いました。春から乳腺センターが3人体制となったため、初めて3人での遠征、演題発表となります。また、今回は初めて病棟看護師も参加することになり、来年の学会発表に向けての情報収集をしてもらう予定です。

第19回乳癌学会総会のテーマは
「Challenge to the Future 未来のために、今できること」
です。

大病院でもない一般病院での症例ですし、新しい研究を報告するわけでもありませんが、私たちの発表がこのテーマの主旨のように将来の乳がん診療に少しでも役に立てればいいなと思っています。

夜は被災地復興のために、地元のおいしい料理とお酒を堪能してくるつもりです。昨年東北大学の視察に行った時に飲んだお店がとても気に入ったのでまた寄らせてもらおうかなと思っています(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2010/01/blog-post_26.html)。

学会が終わったらまた報告したいと思っています。

2011年8月28日日曜日

”ピンクリボン in SAPPORO 2011「ピンクリボン大作戦」” 報告






今日、南1西3の歩行者天国で行なわれた”ピンクリボン in SAPPORO 2011 「ピンクリボン大作戦」”に参加してきました。

幸い好天に恵まれて人通りも多かったため、スピーカーの音量に引かれて観客がけっこう集まってくれました。特にゴスペルシンガーのkikiさんと大勢のピンクリボン・クワイヤ(主に乳がんの患者さんたち)がライブを行ったときはすごい観衆でした。このイベントの存在を示すにはとてもインパクトがあったと思います。

いつも参加している札医大の先生方が所用で参加できず、私たちの病院のG先生とN先生も参加できなかったため、前半のスタッフ医師は私とセントラル女性クリニックの本間先生だけでした(終盤に札医大の大村先生が到着しました)。医療相談も一応行なうことにしてはいたのですが、あまり目立たなかったためか一件も相談はありませんでした。そのかわり、セントラル女性クリニックの看護師さんたちが乳がん検診モデルを用いて行なっていた啓蒙ブースにはけっこうたくさんの若い女性の姿も見られました。

またゴスペル・ライブと並ぶもう一つのメインイベントである”ピンクリボン電車”(写真)は2回に分けて市内を貸し切りで走りましたが、「もえぎ色女学院」のパフォーマンスで大変盛り上がったようです。

とにかくかなり暑かったため、3時間以上にわたってアスファルト上にいるのはきつかったですが、まずまずの成功だったのではないでしょうか。ただ、ライブ以外の時間はあまりカフェ(テーブル席)に座っている人が多くなかったため、来年はもう少し路上での啓蒙パンフとティッシュ配りの人数を増やして積極的にテーブル席の方まで誘導するとさらに盛り上がるのではないかと思いました。

kikiさんとピンクリボン・クワイヤの皆さん、スタッフとして参加した皆さん、お疲れさまでした。そして足を止めて参加して下さった皆さん、ありがとうございました。来年はもっともっとアピールして乳がん検診の啓蒙を広めたいと思います。

2011年8月27日土曜日

明日は ”ピンクリボン in SAPPORO 2011”

乳癌学会の準備や乳腺専門医の更新手続きなどに追われて、なかなかブログを更新できませんでした。ようやく一段落がついたところです。

昨日は急きょ高校時代の友人が札幌に来るということでミニ同窓会がありました。たまに違う職種の友人と話をするのは楽しいものです。女性が4人来ていましたが、みんな乳がん検診は受けているようでした。その中の一人はJ-START(マンモグラフィに超音波検査を加えることの有用性を検証する臨床試験)に参加しているそうです。少しずつ乳がん検診の啓蒙が進んでいるようで良かったです。


5月にここに書きましたが、明日(8/28)、ピンクリボン in SAPPORO 2011が行なわれます。場所や時間は前回の記載をご参照下さい(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2011/05/in-sapporo-2011.html)。

実行委員会には参加しましたが、実際にどんな感じになるかまだイメージはわきません。昨年までは2年連続で大通公園のホワイトロックで行なわれました。内容はステージ発表などが中心でした。今回は歩行者天国で行なうので、3年前のイベント(テレビ塔でのマンモグラフィ体験と歩行者天国で路上にピンクリボンの絵をチョークで書いたり、ピンクリボングッズの販売をしたりしました)と昨年までのイベントをミックスしたような形になると思います。ピンクリボン電車の申し込み状況がちょっと心配ですが、今ごろきれいに飾られているはずです。

そして今年もテレビ塔がピンク色にライトアップされます(19:00~21:00)。こちらもお時間があれば是非見にいらして下さい。

明朝は回診当番なので終わったら会場に向かいます。たくさんの人が集まることを期待しています!

2011年8月20日土曜日

第8回 With You Hokkaido~あなたとブレストケアを考える会~報告

今日、札幌医大大講堂で第8回のWith You Hokkaidoが行なわれました。6月にも告知しましたように(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2011/06/with-you.html)、今回のテーマは「手術後の腕のむくみ(リンパ浮腫)に向き合う」でした。

旭川医大の北田正博先生のご講演は、リンパ浮腫の病態の基礎的なお話とガイドライン、リンパ浮腫外来についてのお話でした。特にリンパ浮腫外来については、私たちの病院でもいつかは開きたいと考えていましたので興味深く拝聴しました。でもまだ保険適応が十分ではなかったり、患者さんへの指導の徹底が難しかったりという課題があるようです。

後藤学園の佐藤佳代子先生のご講演は、リンパ浮腫発生に至る解剖的な基礎から複合的リンパドレナージの方法までたくさんのスライドと実演でわかりやすく説明して下さいました。今回が2回目のご講演ですが、さすがに日本のリンパ浮腫治療をリードしている方だと感じました。

そのあとブレイクタイムがあって、7つのテーマに分かれてグループワークを行ないました。これはそれぞれのグループにスタッフ2-3人と患者さん、ご家族が加わってそれぞれのテーマに沿ってお互いの疑問や悩み、不安を出し合うものです。スタッフが患者さんの質問に答えてばかりの状態(質疑応答や講義)にしないようにしながら、話し合いを円滑に進めるのがスタッフの役割ですが、これがなかなか難しいのです。私は「緩和ケア」のグループでしたが、参加した患者さんたちが期待していた内容になっていたかどうかがちょっと心配です。

このグループワークが終わってから再び大講堂に集まって、今度はいつもお世話になっている道都病院形成外科の江副京理先生の乳房再建のご講演がありました。江副先生は、いつもきれいなスライドを使いながらわかりやすくお話しして下さいます。今日のお話を聞いて乳房再建に前向きになった患者さんもいらっしゃるのではないでしょうか?

残念ながら私用のため、終了間際に会場を後にしましたが、なかなか充実した内容でした。会場では、思いがけない方から声をかけられてびっくりしました。大学のバレー部で4年前に卒業した世代のマネージャーだったHさんや、「いつもブログを見ています。先生のブログを見てこのイベントを知って参加しました」と声をかけて下さった患者さんもいらっしゃいました。どうしてこのブログを書いているのが私だとわかってしまったのか不思議です(笑)

2011年8月19日金曜日

タキサン系抗がん剤とアルコール

ドセタキセル(商品名 タキソテール)やパクリタキセル(商品名 タキソールなど)などのタキサン系抗がん剤には溶解液としてエタノールが添加されています。ただ、ドセタキセルに関してはブドウ糖溶液でも溶解可能です。

アルコールが添加されている場合に問題になる点が2つあります。

まず、アルコール過敏症の方には投与できないということです。疑いのある方はアレルギーの発生に注意が必要です。

二つ目は、お酒と同じですので酔っぱらってしまう可能性があることです。入院中であれば問題ありませんが、外来での投与の際は、運転しないほうが無難です。特にパクリタキセルの場合は、下記のようにエタノール含有量が多いので、酒気帯び運転になってしまう可能性があります。この換算も口から飲んだ場合と血管に直接入る場合とは若干効果が違うかもしれません。実際、少量のエタノールしか入っていないドセタキセルでも酔っぱらったようになる方もいらっしゃいます。

先日の院内の癌化学療法委員会でドセタキセルの新しい製剤、「ワンタキソテール」について報告がありました。これは最初からドセタキセルがエタノールで溶かしてある製剤です。今までは薬剤師が薬剤と溶解液を毎回混ぜて調整していましたので、薬剤師の手間は省けるのですがエタノール含有量が今までの2倍以上ですので注意が必要です。さらにアルコール過敏の方には最初から投与することができない(ブドウ糖液で代用できない)という問題点もあります。

いずれにしてもこれらの薬剤の投与を受ける場合には、車の運転が可能かどうか主治医に必ず確認するようにして下さい。

<タキサン系抗がん剤のエタノール含有量(抗がん剤100mgあたり)>
・タキソテール注→ビール25ml
・ワンタキソテール注→ビール56ml
・パクリタキセル注→ビール166ml

例)体表面積1.5㎡の女性にWeekly Paclitaxel療法(3週連続投与、1週休薬)を行なう場合、約120mgのパクリタキセルを投与しますので、ビール換算で199ml(ほぼコップ1杯)になります。

2011年8月16日火曜日

更年期症状に対するイソフラボンの効果


イソフラボン(図)はフラボノイドという物質に分類される有機化合物の一つで、エストロゲン受容体に対して結合してアゴニスト(促進物質)として作用する植物エストロゲンの一種と言われています。その効果については様々な見解があり、いまだに不明な部分も多いようです。

2002年に中止された「女性の健康イニシアチブ(WHI)」研究で、エストロゲン補充療法の副作用(乳がん発生率の上昇、脳卒中や心臓発作など)が問題になって以降、イソフラボンのエストロゲンに対する代替品としての効果に注目が集まっていました。

イソフラボンは植物エストロゲンの1つですので、エストロゲン欠乏症状(ほてりなどの更年期症状や骨粗鬆症)に効果があると考えられていました。また、エストロゲンの副作用である、乳がんの発生については、いくつかの疫学研究において、大豆摂取量が多い地域では乳がんの発生が少ないとの報告があるため、むしろ抑制的に働くと考えられていました。一見矛盾したような結果ですが、乳がんの治療薬であるタモキシフェンは、乳腺に対しては抗エストロゲン作用(抑制的)を、骨や子宮などに対してはエストロゲン作用(促進的)を持っていると考えられており、イソフラボンにおいても作用部位によって効果が違うということも起こりうるものなのかなと思っていました。


しかし今回「Archives of Internal Medicine」8月8日号にマイアミ大学ミラー医学部のSilvina Levisらによって、「大豆イソフラボンサプリメントは骨喪失を予防せず、更年期症状も軽減しない」という結果が報告されたのです。

概要は以下の通りです。

対象:45~60歳の閉経期女性248人(試験開始時の被験者の骨密度レベルは健常)

方法:ボランティア126人をプラセボ群、122人を大豆イソフラボンサプリメント群に無作為に割り付けた(二重盲検試験)。
大豆サプリメント群には大豆イソフラボン1日200mgを2年間投与し、2年後の股関節と脊椎の骨密度と更年期症状の変化について調査した。

結果:骨密度においては両群で有意差はなかった。同氏らは、更年期症状に関しては、顔面紅潮を除き群間差はなかった。顔面紅潮は大豆サプリメント群の48%以上、プラセボ群では約32%にみられた。また、統計学的有意差はなかったが、大豆サプリメント群の方が便秘も多かった。


残念ながらこの臨床試験においては期待された結果とは違っていたようです。もしかしたら、乳がん術後で更年期症状に悩んでいるホルモン療法中などの患者さんに対して乳がんの再発を促すことなく使えるのではないかと期待していたのですが…。

ただなんとなくこれですっきりしたような気もします。つまり推測ではありますが、イソフラボンはどちらかというとエストロゲンよりはタモキシフェンに近い効果があると考えれば矛盾しないからです。タモキシフェンは更年期症状の副作用がありますが、乳がんの発生を抑制します。イソフラボンもそうなのでしょうか?あとは乳がん発生に対して予防効果があるのかどうかの決着がつけばはっきりするのですが…。

2011年8月15日月曜日

乳腺専門医の更新手続き

乳腺専門医を取得してから今年で5年が経過するため、今月中に更新の手続きが必要です。今日は夏休みでしたが、書類の準備をしていました。

必要な書類は、履歴書、研究実績(論文や学会発表…点数制になっていてノルマがあります)、研修実績(学会やセミナーの参加実績…同様にノルマがあります)、などです。まあそれほど大変な作業ではないのですが、過去5年分の学会参加証や抄録集を探したり、発表日を調べたりと細々したことが意外と面倒だったりします。それに勤務先住所など何度も同じような記載をしなければならないのも疲れます。

研究実績は、毎年乳癌学会総会で発表しているので十分な点数はあります。研修実績も同様に毎年乳癌学会総会と地方会に参加していればクリアできます。専門医を維持するのはさほど大変なことではありません。ただ乳癌学会前にこの作業をするのは少しストレスです(笑)

明日、更新料を振り込んで、少し追加記載をすればようやく手続き完了です。これがすんだらいよいよ乳癌学会に向けた本格的準備に取りかかります。今回の発表は症例報告なので油断していたらいつのまにかあと残り3週間を切っていました(汗)夏休みボケを早く直して頑張ります。

2011年8月11日木曜日

乳がん再発治療困難症例の検討会1

今日、札幌近郊の乳腺外科医数人で集まった、再発治療困難例の研究会に行ってきました。

今回が2回目ということですが、呼びかけ人の乳腺クリニックの先生にお誘いいただいて、初めて参加しました。本当に少人数ですので、アットホームな雰囲気で発表中も随時質問や討論をしながらの会でとても勉強になりました。

発表は私も含めて3つありましたが、偶然、すべてトリプルネガティブの発表でした。どこもトリプルネガティブには苦労しているようですが、T病院腫瘍内科の先生から、少量シスプラチン+イリノテカンの2週に1回投与がけっこう奏効しているという情報をいただきました。前後に1000mlずつの補液が必要ですが、十分に外来投与が可能とのことです。まだエビデンスがあるわけではありませんが、一つの有力なオプションにはなりそうです。

また、以前ここでも書きましたが、やはりヒスロンHやXC療法が効いた症例があるようで、今回提示した私たちの症例にも検討の余地はありそうです。この症例は局所再発のみなので、これらの内服治療に温熱療法の併用はどうか意見を聞いてみたところ、有効かもしれないとのコメントもいただきました。来週、G先生が夏休みから戻ったら検討してみようかと思っています。

小さな研究会ですが、その分、自由に意見を述べられるのでなかなか良い会だと思います。次回も参加予定です!

2011年8月9日火曜日

triple negative乳がんの盲点

triple negative乳がんの再発(肺転移)として治療をしている患者さんがいます。この患者さんは、原発巣のホルモンレセプターが陰性だったため、術後に化学療法を行ないました(この当時はHER2検査は全例には行なっていませんでした)。

その後肺転移が見つかったため、HER2染色を行ないましたが陰性の結果だったため、”triple negative"と判断されたのです。症状のない転移であり、患者さんの希望もあったため、外来での内服治療を行ないました。最初はXC療法を行なったところ、PR(部分寛解)となりましたが、1年弱で再燃したためDMpC療法に変更したところ、完全に転移巣は消失(CR)し、この7月で3年が経過しました。

triple negativeにしては、ずいぶん緩徐な経過をとっているとは思いましたが、XC療法やDMpC療法がtriple negativeにも有効な場合があることは報告されていたため、この患者さんもそうなのだと思っていました。

ただ昨日ふと、初回手術の頃はホルモンレセプター陽性の判定が10%以上だったことを思い出したため、古いカルテを取り寄せ、病理科に再度判定を依頼してみました。その結果、この患者さんのホルモンレセプターは、10%未満の細胞が弱く染まっていたという結果だったため、以前の判定では陰性、今の判定基準(1%以上が陽性)では陽性だということが判明したのです。

この患者さんの場合は、ホルモンレセプター陽性細胞がわずかで非常に弱い染まりだったのであまりホルモン療法が有効とは思えませんでしたが、もしかしたら転移巣のホルモンレセプター陽性細胞率は高かったのかもしれません。ホルモンレセプター陽性の場合は、XC療法やDMpC療法は特に良く効くのです。以前に調査した結果でも、転移巣のホルモンレセプターは陰性化することもありますが、原発巣が弱陽性で転移巣が強陽性に変わっていたケースも稀にあったので、可能性はゼロではありません。

1%を閾値とするようになったのは、2009年のSt.Gallen以降です。それ以前の患者さんのホルモンレセプターはほとんどが10%を閾値として判定されています。もしかしたらtriple negativeと判定されている患者さんの中にも同じようなケースがあるのかもしれません。もし、ホルモンレセプター陽性細胞が転移巣の大部分を占めているのであれば、ホルモン療法が効果を発揮する可能性もあります。できることならそのようなケースは転移巣の組織を採取してホルモンレセプターを再度調べてみた方が良いのかもしれませんね。

2011年8月5日金曜日

タモキシフェンの長期にわたる再発予防効果報告

タモキシフェンによるER陽性乳癌に対する再発予防効果はかなり前から証明されていますが、今回、タモキシフェン内服終了後の長期にわたる再発予防効果についての報告がLancet Online版に掲載されました。

概要は以下の通りです。

[報告者]
英オックスフォード大学 Christina Daviesら

[対象および方法]
5年間のタモキシフェン投与と非投与を比較した約20件の無作為化対照試験の結果を分析。
被験者は米国、ヨーロッパ、中国および日本を含めた12カ国の女性約21,000人。

[結果]
タモキシフェン投与群10,645人のうち、10年目で約26%に再発がみられたのに対し、非投与群では40%であった。15年目までに再発がみられたのは投与群で33%、非投与群では46%であった。死亡率についても同様の結果がみられ、10年目では非投与群25%、投与群18%で、15年目では非投与群33%、投与群24%であった。

[結論]
タモキシフェンを投与された女性は、診断後15年(投与期間5年+投与中止後10年)でも、非投与群に比べて死亡リスクの低下が継続していた。最近では高齢の閉経後女性にはアロマターゼ阻害薬が処方されることが多い。アロマターゼ阻害薬への変換の理由の一つは、タモキシフェンにより子宮内膜癌や肺血栓症のリスクが増大することが示されているためだが、今回の分析から、リスクよりもベネフィットがはるかに大きいと考えられる。


閉経後乳がんに対する術後内分泌療法は、St.Gallen2007くらいから徐々にアロマターゼ阻害剤へと移り変わり、いつの間にかアロマターゼ阻害剤が術後内分泌療法の中心になっていました。ところが最近(今年のSt.Gallen2011でもそうでしたが)、一時期のアロマターゼ阻害剤偏重の流れから、タモキシフェンへの揺り戻しが起きているようです。今回あらためてこのような報告があったのもその一つの現れなのかもしれません。

タモキシフェンの利点としては安価であること、骨密度の低下をきたさないことなどがあります。一方、子宮への刺激(おりものの増加や不正出血、子宮体がんの増加)や血栓症が欠点としてあげられます。一方、アロマターゼ阻害剤は重篤な副作用は生じにくいのですが、長期的には骨密度の低下をきたすことと、不快な関節痛を伴うことが欠点です。

いずれにしても患者さんの再発リスクやがんの性質、生活背景(経済状態や職種)なども考えて治療の選択をすることが大切だと思います。

2011年8月4日木曜日

抗癌剤の副作用16 味覚障害2

味覚障害については以前に「抗癌剤の副作用1 味覚障害1(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2009/06/blog-post_05.html)」にも書きましたが、先日の第9回日本臨床腫瘍学会で新たな研究結果が発表されました。

概要は以下の通りです。

[報告者]
独立行政法人国立病院機構四国がんセンター薬剤科 田頭尚士氏

[対象]
2010年6月から7月までに、同センターで外来癌化学療法を施行した患者381人

[方法]
アンケートによる味覚変化に関する実態調査

[結果]
味覚変化の発生:177人(47%)(男性 43人、女性 134人)
診療科別:乳腺外科(56.8%)、血液腫瘍科(58.8%)、消化器外科(50.0%)で発生割合が高い傾向がみられた。
サイクル数別発生頻度:味覚変化は1サイクル目から発生しており、サイクル数を重ねてもほぼ同様の割合で発生していた。前治療歴の有無で分けてみても同様で、どのサイクルで発生しやすいかの特定はできなかった。
レジメン別発生頻度:エピルビシン+シクロホスファミド(EC) 84.6%、ドセタキセル(DTX)±トラスツズマブ 81.1%、ベバシズマブ+パクリタキセル(PTX) 75.0%、ドセタキセル+シクロホスファミド(TC)±トラスツズマブ 74.1%、フルオロウラシル+エピルビシン+シクロホスファミド(FEC) 66.7%で頻度が高かったが、症例が少ないためどのレジメンで起きやすいという特定はできなかった。
薬剤別:エピルビシン 78.9%、シクロホスファミド 75.0%、ドセタキセル 73.2%で高い値だった。S-1でも62.5%で味覚変化が発生していた。添付文書に記載されている副作用の発現頻度と比べると、今回の検討では味覚変化を多くの患者が訴えていることが示された。
発生時期:化学療法の開始2~3日目が26%、4~7日目が30%、8~14日目が12%、15日目以降が9%とばらつきがみられた。味覚変化が続いたのは、2~3日目までが4%、4~7日目までが18%、8~15日目までが22%、16~28日目までが19%だった。



これらの結果から、味覚変化は治療歴の有無に関わらず治療初期から発生し、発生しやすい時期の特定は難しいことがわかったということです。思いのほか高頻度に味覚変化が発生しているように見えますが、最近化学療法を受けた患者さんの声からも納得できる結果です。ただ味覚変化の中には軽いものから重いものまであります。実際に問題になるような味覚の完全脱失などの症状まで訴える患者さんの頻度は低いと思います。

ただ患者さんにとって味覚が変化することは不安なことの一つであることには変わりありません。栄養科などの協力を得てレシピを工夫したり、専門のサイト(http://survivorship.jp/index.html)を参考にするのも良いと思います。

2011年8月3日水曜日

夏休み!

ただいま夏休み中です!

今年になって乳がん症例が急増し、春からは乳腺センターが稼働したこともあってずっとばたばたしていました。9月からは学会が続くのと、患者会の温泉旅行、講演会、乳がん再発治療研究会の準備など、年内一杯は忙しい日々が続きそうですので、この夏休みはリフレッシュタイムです。来週はG先生が交代で夏休みに入ります。

しかし、手術症例がたまってくるので、夏休みを交代で取りながら、手術はいつも通りに組んでいます。私も休みではありますが、遠出はせずにほとんど市内にいることにしています。今日も2件手術がありましたが、連絡がなかったので順調に終わったようです。

今日は洗車と院内靴を買いに行っただけでテレビを見ながらだらだらしてました。明日はもう少しアクティブに過ごそうと思っています。8/11のclosedの症例検討会のスライドを完成させるのと乳癌学会の準備も進めなきゃそろそろまずいです(笑)

2011年7月29日金曜日

第20回北海道乳腺診断フォーラム

今日、年1回の北海道乳腺診断フォーラムが市内某ホテルでありました。

内容は、症例検討2例と聖路加国際病院の角田博子先生のご講演でした。

症例検討では2回も司会の医師から当てられてしまいました。私はこの会の運営委員でもあります。運営委員が司会を順番で担当するのですが、私が司会担当のときは、できるだけ、医師ばかりではなく、レントゲン技師や超音波技師にも答えてもらうようにしています。参加者はたくさんいるのに、どうもこの会は毎回同じようなメンバーに担当の司会者が当ててしまう傾向があります。技師も含めてたくさんの人が参加しているのでもっといろいろな参加者から意見をだしてもらうべきだと思うのですが…。このようなやり方だといまひとつ盛り上がりに欠けてしまうような気がします。

角田先生は、超音波検査の最新情報(超音波検診の臨床試験の状況や最新機器の説明など)を中心にとてもわかりやすく解説して下さいました。講演の中に出てきた、”pseudo halo(造語だと思います)”について、質問したいことがあったのですが、時間になってしまい、質問は懇親会でということになりました。

ところが懇親会の途中で臨時手術の連絡が入ったため、早々に病院に戻ることになってしまい角田先生への質問は残念ながらできませんでした。でもなかなか興味深い情報を得たので、今度病理学的に確かめてみようと思います。

そう言えば今回のフォーラムには以前私たちの病院で講演をしてもらった岡山のI先生も参加していました。症例検討でも何度も意見を出していて、相変わらず積極的な先生でした。今度の乳癌検診学会でもまたお会いできるのを楽しみにしています(笑)

2011年7月27日水曜日

乳腺術後症例検討会 12 ”放射状瘢痕”



今日は月1回の乳腺術後症例検討会がありました。

今月の症例検討は、まるで皮膚病変か乳輪下膿瘍のように見えた硬がんの1例、ごく普通の典型的な硬がんの1例、そして画像上は小さな硬がんに見えた放射状瘢痕に発生したと思われる非浸潤がんの1例の計3例でした。

そして症例検討にもあった”放射状瘢痕”についてのミニレクチャーを今回は私が担当して行ないました。

放射状瘢痕(radial scar)は、中央部に線維-弾性組織からなる芯を有し、そこから乳腺症で見られるような乳管過形成や腺症を伴う管状構造が放射状に伸びる形態をとる良性複合性病変のことです。10㎜未満をradial scar、10㎜以上をcomplex sclerosing lesion(CSL)と呼ぶこともあります。Rosenという高名な病理医は両者を含めてradial sclerosing lesion(RSL)という用語の使用を勧めています。

画像的には、マンモグラフィにおける中心の高濃度部分を伴わないスピキュラ(硬がんでよく見られる刺状の構造)が特徴的です(写真2枚目)。これは超音波検査でも確認できることがありますが、硬がんと区別がつきにくい場合もあります(写真1枚目)。

この病変の一番の問題点は、しばしば非浸潤がんや異型乳管上皮過形成(ADH…前がん病変)を伴うことです。私たちの施設でも3例ほど経験があります。ですからこの病変を疑った場合は、採取組織量が多い生検方法(マンモトームなど)でがんの合併の有無を検索する必要があります。

マンモグラフィ検診が導入されてからは、この病変で精密検査にまわってくる方が増えているようです。精検をする側から言えば、けっこう神経を使う病変です。マンモトームの件数もこれからさらに増えるのではないでしょうか?

2011年7月24日日曜日

スギナと乳がんと外科治療


今日久しぶりに庭の雑草取りをしました。

札幌郊外のこの場所に住み始めて14年、ずっとスギナと戦ってきました。最初は裏庭は芝生だったのですが、雑草がどんどん増えてきて、特にスギナに占領されてしまっために6年ほど前にやむを得ず芝生からアスファルトに変えました。

スギナは根が長く、取っても取っても生えてきます。最初はできるだけ深く根を追いかけて抜いていましたがすぐに生えてきました。あるときどこまで伸びているのかスコップで掘ってみたら80cmくらいまで伸びていて塀の外まで達していました。これを見てからはスギナを手で抜くことを断念しました。

雑草を手で抜くのは外科治療に似ています。除草剤を撒くことは化学療法を行なうようなものです。根から入るタイプの除草剤は強力です。しっかり撒けば半年近く雑草は生えてきません。しかし、花や木の近くに撒くと、それらも枯らしてしまいます。まるで、抗がん剤が正常細胞を痛めつけてしまうようなものです。

スギナは言わば非常に悪性度の高い乳がんのようなものです。外科治療だけではすぐに再発してしまいます。砂利や単なる路地に生えたスギナなら試験管の中のがん細胞のようなものですから、強力な除草剤で退治できます。しかし、写真のように芝桜(花は咲いていませんが…)の中に生えてくると非常にやっかいです。外科的治療(草むしり)のみではすぐ再発しますし、化学療法(除草剤)を行なえば正常細胞(芝桜)も強いダメージを受けてしまいます。今日は結局外科治療のみであきらめました。ひと月もすればきっと元通りになってしまいます…。

外科的治療を一定間隔で繰り返すのが良いのか、副作用覚悟で化学療法を併用すべきか、判断は難しいです。一番良いのは、正常細胞(芝桜)にダメージを与えずにがん(スギナ)のみを退治してくれる治療が開発されることです。これは言わばハーセプチンのような分子標的薬に相当します。

そんなことを考えながら草むしりをしていました。乳がん領域の治療においても、正常細胞に影響を与えないような薬剤がもっと開発されるといいのに…とつくづく思いました。

2011年7月23日土曜日

腋窩郭清は不要? の続き

今日、北海道乳腺疾患研究会に行ってきました。進行再発乳癌とセンチネルリンパ節生検についてのセッションがあって、それぞれ基調講演と演題の発表がありました。

進行再発乳癌のセッションでは、G先生に私たちの病院の症例を発表してもらいましたが、プレゼンテーションの方法も良かったですし、興味深い症例だったのでフロアからの質問もあって成功でした。終了後の懇親会でも、乳腺クリニックの先生からお褒めの言葉をいただいて私としてもうれしかったです。

そしてセンチネルリンパ節生検についてのセッションでは、ACOSOG(Z0011)の報告について話題になりました。この臨床試験の結果は新聞でも報道されて話題にもなりましたし、このブログでも取り上げました(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2011/02/blog-post_12.html)。この臨床試験は、簡単に書くと、センチネルリンパ節に転移があった患者さんに腋窩リンパ節郭清を追加してもしなくても、全生存率も局所再発率も有意差がなかったというものです。

問題はなぜこの臨床試験において、「全生存率だけではなく、局所再発率においても郭清した群としなかった群で有意差が出なかったのか?」ということです。なおこの臨床試験の対象は乳房温存術を受けて放射線治療を行なった症例です。ですから、乳房全摘術にセンチネルリンパ節生検を行なった場合(放射線は通常行なわない)においては、いまだにエビデンスはありません(これはけっこう一般的には勘違いされていることが多いです)。

私は、局所再発率に有意差が出なかった最大の理由は、乳房温存術後に行なった乳房照射が腋窩領域にも一部かかるからではないかと思っていました。しかし、今日参加していた2人の高名な放射線科の先生のコメントでは、通常の乳房照射では腋窩には治療に有効なほどの線量はかからないということでした。とすれば、局所再発率に差が出なかった理由は、米国の乳房温存術後の照射野が日本とは異なるのか、もしくは他に要因があるということになります。NSABP B-04では、乳房全摘術+腋窩リンパ節郭清、乳房全摘術+放射線治療、乳房全摘術のみの3群では、生存率に差はありませんでしたが、局所再発率には差があったのですから、本来なら、全生存率で差がなくても、局所再発率は差が出るはずだからです。

基調講演をして下さった先生は、この臨床試験の問題点として以下のような点を挙げています。

①当初の予定症例数に比べると実際に臨床試験に参加した患者数が少なく、エントリーさせにくい患者が意図的に主治医の判断で避けられていたのではないか?
②臨床試験中の脱落症例数が非常に多い(134/891)
③約60%が強力な化学療法(アンスラサイクリン+タキサン)を受けている
④ホルモンレセプター陽性症例の比率に比べると、実際にホルモン療法を受けた患者は46%と少ない

もし①②などのようなこの臨床試験のデザイン自体に問題がなくてもこの結果だったとしたら、最大の要因は③なのかもしれません。つまり微小な遺残リンパ節転移が強力な化学療法によって死滅したために局所再発に至らなかった症例が一定数いるということです。もしそうであるなら、センチネルリンパ節に転移があっても、強力な化学療法を行なう方針であれば乳房温存術か乳房全摘術かに関わらず、腋窩リンパ節郭清は不要ということになります。ただ、St.Gallen2011では、Luminal Aなら、腋窩リンパ節転移があってもホルモン療法のみという方向になってきていますので、この二つの方針を組み合わせることの問題点は検証しなければなりません(つまり、センチネルリンパ節生検でリンパ節転移があって郭清を省略した症例において、Luminal Aだと術後に判明した場合に本当にホルモン療法のみで局所再発を有意差がでないようにコントロールできるのか?ということ)。

考えれば考えるほどわからなくなります。臨床試験で証明されていることは、実際に起こりうる事象の一面を現しているだけにすぎません。真理はあるはずですが、全てのケースを証明することは本当に難しいことだと感じました。

2011年7月20日水曜日

肥満患者における乳房形成手術の術後合併症リスク

医学誌「Plastic and Reconstructive Surgery」オンライン版によると、待機的乳房形成手術を受けた肥満患者は正常体重の患者に比べて合併症が生じる可能性がほぼ12倍であることがわかったそうです。

ジョンズ・ホプキンス大学(ボルチモア)外科准教授のMartin Makary氏の報告の概要は以下のとおりです。

対象:2002~2006年に乳房リフティング(吊り上げ術)や乳房縮小、豊胸などの待機的乳房手術を受けた肥満患者2,403人と正常体重患者5,597人
結果:肥満患者群では18.3%に術後30日以内に1つ以上の合併症がみられ、非肥満患者群では2.2%であった(肥満患者では炎症が22倍、感染が13倍、疼痛が11倍)。

今回の報告は乳房の形成外科手術についてのものですが、乳がん根治術においても似たようなことが言えます。術後のリンパ液排出量は明らかに肥満患者さんに多い傾向があります。創部の壊死は最近では稀になりましたが、以前、皮弁を薄く作成していた頃はやはり肥満患者さんの方が起きやすい印象でした。腋窩リンパ節郭清をした場合の術後のリンパ浮腫も肥満患者さんのほうが起きやすい傾向があります。

乳がん根治術は大きな手術ではありませんので、命に関わるような術後合併症(肺炎、肺塞栓、心・脳合併症など)はほとんど起きませんから肥満患者さんでも安全に手術可能ですが、開腹手術や開胸手術の場合のリスクは上がります。最近、立て続けに肥満患者さんの手術がありましたが、やはり手術時間も多少長くなりますし大変です(汗)。できることなら肥満にならないようにしていただければと乳腺外科医の立場からは思ってしまいます(笑)。

2011年7月18日月曜日

乳がんに対するホルモン療法の種類と新薬

乳がんのホルモン剤には以下のようなものがあります(括弧内は商品名)。

①抗エストロゲン剤…閉経前、閉経後ともに有効(ただしトレミフェンの保険適応は閉経後のみ)。再発予防、再発治療ともに使用可。
「エストロゲンレセプターにエストロゲンが結合して増殖を促すのを阻害する薬剤」
例)タモキシフェン(ノルバデックス、タスオミン、アドパンなど)、トレミフェン(フェアストン)

②アロマターゼ阻害剤…閉経後のみ有効、。再発予防、再発治療ともに使用可。
「閉経後の脂肪細胞やがん細胞周囲に増えるアロマターゼ(男性ホルモンを女性ホルモンに変換する酵素)の働きを阻害する薬剤」
例)非ステロイド系:アナストロゾール(アリミデックス)、レトロゾール(フェマーラ) ステロイド系:エキセメスタン(アロマシン)

③プロゲステロン製剤…閉経前、閉経後ともに有効。通常は進行再発乳がんにのみ使用する。
「DNA合成抑制作用、下垂体・副腎・性腺系への抑制作用及び抗エストロゲン作用などにより抗腫瘍効果を発現すると考えられ薬剤」
例)酢酸メドロキシプロゲステロン(ヒスロンH、プロベラ)

④LH-RH アゴニスト…閉経前のみ有効。再発予防、再発治療ともに使用可。
「脳下垂体に作用してFSHの分泌を抑制し、エストロゲンの低下を引き起こして閉経状態にする薬剤」
例)ゴセレリン酢酸塩(ゾラデックス)、リュープロレリン(リュープリン)


以前に「乳癌の治療最新情報11」(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2009/12/11.html)でも触れたことがありますが、上で述べた薬剤に加えて年末ころにさらにもう一つ新しいホルモン剤が使用可能になりそうです。

①の抗エストロゲン剤は、選択的エストロゲン受容体モジュレーター Selective Estrogen Recepter Modulator(SERM) と呼ばれるもので、子宮や骨などにはエストロゲン様作用(子宮体がんの増加、骨粗鬆症の予防効果)、乳腺(乳がん)などには抗エストロゲン作用を呈します。これに対して、年末に発売予定のフルベストラント(ファスロデックス)は、全てのエストロゲン受容体をブロックしますので子宮体がんの増加の心配はありません。ただし骨量の低下には注意が必要です。適応は閉経後の進行再発乳がんになりそうです。月一回の筋肉注射で投与しますが、かなりの量が必要なようです(痛いかも…)。進行再発乳癌に対する効果はアロマターゼ阻害剤より良好という報告もありますので期待したいところです。正式に発売が決まりましたらまたここでご紹介したいと思います。

エリブリン(商品名 ハラヴェン)7/19薬価収載決定!

7/4にもここで書きましたが、エリブリン(商品名 ハラヴェン)が13日の中央社会保険医療協議会(中医協)で7/19の薬価収載が承認され、発売開始が決定しました。エリブリンはクロイソ海綿から抽出した抗がん物質ハリコンドリンBの活性部位を合成した微小管阻害剤の1種です。

これに先立ち、先日製薬会社の方に来ていただき、臨床試験結果などの資料をいただきました。効果については、既報のとおり、アンスラサイクリンとタキサンが効かなくなった患者さんに対して、有意に全生存期間(OS)を延長した初めての抗がん剤ということですが、その細かい内容がわかりました。

<EMBRACE試験>
対象:アンスラサイクリン系、タキサン系両薬剤を含む治療歴を有する局所再発または転移性乳がん
方法:エリブリン群と医師選択治療群に無作為に割り付け、全生存期間(主要評価項目)、無増悪生存期間、奏効率、奏効持続期間、安全性(副次評価項目)について解析
結果:エリブリン群508例、医師選択治療群254例、前化学療法レジメン数の中央値は4レジメンであった。
   [全生存期間(OS)] 13.1ヶ月 vs 10.6ヶ月(p=0.041)→追跡調査で13.2ヶ月 vs 10.5ヶ月(p=0.014)
   [無増悪生存期間(PFS)] 3.6ヶ月 vs 2.2ヶ月(p=0.002 ただし独立評価委員会の評価ではp=0.137)
   [奏効率] 12% vs 5%(p=0.002)
   [有害事象] 無力症/疲労 54%、好中球減少症 52%、末梢神経障害 35%、悪心 35%、便秘 25%、脱毛症 45%など

多くの薬剤使用歴を有する再発患者さんの治療は容易ではありません。今回、エリブリンが示した奏効率は有意差があってもわずか12%であり、他の治療に比べて有意に延長したという生存期間も2.5ヶ月程度です。そして正式な薬価収載は明日ですが、情報によると薬価もかなり高額で1バイアル(1mg)が64070円もします。体表面積1㎡あたり1回1.4mg投与しますので通常2バイアルは使用します。これを週1回2週連続投与、1週休薬で1クールですので、1クール(3週間)あたり4バイアル=256280円、3割負担で76884円もかかります。

しかし、治療手段が限られた再発患者さんにとって、選択手段が増えることはうれしいことですし、平均2.5ヶ月でも貴重な時間を余分に確保できることは大きな意義を持つと思います。

エリブリンは肝機能が低下した患者さんで副作用(特に骨髄抑制)が強く出ることが報告されています。まだ使用経験の浅い薬剤ですので、特に最初の1年くらいは副作用に十分中止して投与しなければなりません。私たちの病院にももうすでに投与を予定している患者さんが数人いらっしゃいます。安全性を確保でき、予想以上の効果がみられることを期待しています。
   

2011年7月16日土曜日

当院における最近の乳がん患者さんの状況

今月は今までの月間最高乳がん手術症例数を更新しそうな勢いです。4-5月は少し症例数が減りましたが、6月を過ぎてから徐々に増えて7月は関連病院からの紹介も含めて続々と乳がんが見つかっています。

ただ、残念なことにここのところの症例は進行がんが多いようです。先週は術前化学療法を拒否した局所進行乳がん(1例は炎症性乳がん)の手術が2件ありました。術後の化学療法も今のところ同意が得られていないため、可能な限りの外科的切除を行ないました。久しぶりに一昔前のような拡大手術になってしまいました。

ぎりぎりまで我慢した上、化学療法を拒否されてしまうと、私たちは何もできない無力感に苛まされます。せめてもっと早く受診していたら手術だけで治ったかもしれない、術前化学療法を行なえばもっと侵襲の少ない手術で済んだのに…と思いますが、患者さんにはそれぞれそこに至った事情があるようですのでやむを得ません。でもとても残念に思います。病理結果が出たら再度化学療法に同意してもらえないか説得するつもりです。

私たちの病院では相変わらず高齢者や合併症を持った患者さんは多いですが、最近は若い患者さんも増えてきています。来週は20才台の患者さんの手術があります。30才台前半の患者さんもぽつぽついらっしゃいます。これからはもっと多くの若い患者さんたちに選んでもらえるような乳腺センターにしていきたいと思っています。今年は過去最高の手術件数になりそうですが、3人体制になったことですし、まだ余力はあります。近々近隣の検診施設に患者さんを紹介していただけるようにご挨拶に伺う予定です。

2011年7月13日水曜日

乳腺症 vs 非浸潤がん〜微妙な病変

最近、診断に苦慮する微妙な病変が連続しています。

乳腺症の一部のように見えますが前にはなかった所見ですとか、乳腺症のムラが局所的に目立つなどの所見が指摘されて、細胞診で「鑑別困難」(乳腺症 vs 非浸潤がん)という判定となることは今までもありました。

こういう場合、かなり前は悪性の疑いが一定以上あれば「Probe lumpectomy(試験的乳腺部分切除術)」を行なって診断的治療を行なっていましたが、最近ではまず針生検(コアニードル・バイオプシー:CNB)を行なって、だいたいは良悪の診断がついていたのです。ところが、ここのところの症例は、針生検を行なっても「鑑別困難(乳腺症 vs 非浸潤がん)」というケースが連続していて頭を悩ませています。ほとんどの病変が良性(乳腺症)なのですが、ごく一部の乳管内に非浸潤がんを思わせる病変が混在しているため、このような診断になっているのです(量的に十分な病変がなければ「非浸潤がん」と診断するのは困難な場合があります)。

超音波技師さんたちが必死に病変を探してくれるため、このような微妙なものが見つかってくるのだと思います。大変ありがたいことではありますが、悩ましくもあります。できるだけ太めの針で何本も検体を採取するのですが、本来はマンモトームで生検するほうが情報量が多いので、そろそろ針生検(CNB)に頼るのは限界なのかもしれません。

マンモトーム導入に消極的なG先生、そろそろ購入を検討してみませんか?

2011年7月10日日曜日

乳がん再発治療研究会2

乳がんの初期治療に関しては、手術、放射線治療、術後補助療法、そして術前療法とさまざまな研究が世界中で行なわれてきて、この20年の間に飛躍的な進歩を遂げました。

一方、再発に対する治療は未だに十分なガイドラインができているとは言えない状況です。そして、患者さんを含めた一般の人たちはもちろん、私たち自身も再発治療に関して様々な疑問を持っています。

例えば、

①再発したら治癒は不可能なのか?
②再発巣が消えて何年経過したら治癒と判断できるのか?
③治癒できる可能性があるとしたら、それはどのようなタイプでどのような再発形式なのか?
④再発に対する外科治療は、本当に外科医の自己満足だけで無意味なことなのか?
⑤延命効果は何ヶ月以上あれば有意義だと言えるのか?

などです。

これらの命題を解決するための検討は、一つの施設の症例だけでは困難な場合が多いのです。同じような経験を集積して検討しなければなりません。そのために多施設で検討できる場が欲しいと思っていました。

研究会の内容としては、例えば、各施設で再発治療後に治癒した症例を初再発部位別に集め、そのサブタイプなどのがんの性質や治療内容を検討する、同じような状況の再発患者さんに対して全身療法に局所治療を加えた群と加えなかった群の生存率、平均生存期間を比較する、この20年間の治療法の進歩で再発治療においても生存期間や生存率に進歩がみられたのか、などを考えています。

どのようなメンバーでどのように研究会を立ち上げていけばいいのか、少し時間をかけて考えてみたいと思います。

2011年7月8日金曜日

乳がん再発治療研究会1

私のライフワークの一つが乳がんの再発治療です。

一般的には乳がんがひとたび再発すると、治癒は困難と言われています。もちろん、実際多くの場合、完全に治癒させるのは難しいのはその通りです。しかし、中には再発治療後、まったく再発なく長期に経過している患者さんもいらっしゃるのです。私の経験上でも再発が治癒したと思われる患者さんは何人もいらっしゃいます。

そもそも遠隔転移したら治癒しないという考え方は正しくないと私は信じています。その根拠は、術後補助療法によって生存率が改善するという事実があるからです。このことは、手術時に存在していた微小転移(何もしなければ将来顕在化して生命を脅かした)を補助療法によって根絶できた患者さんが一定数いるということを意味しています。そうでなければ術後補助療法で生存率は改善しないはずだからです。

術後補助療法で微小転移を根絶できるのであれば、再発でもある条件を満たせば完治できる可能性があるのではないか?というのが、私が再発治療をライフワークに選んだ原点です。

新病院建設に向けて、私たちの病院も少しずつ変わりつつあります。その一つが積極的な学術研究活動へのバックアップです。今までは製薬会社との共催の研究会などに関しては消極的でしたが、最近では後押ししてくれるようになってきています。先日も院長から、乳腺センターで研究会を立ち上げてはどうだ?と言われました。

乳腺関連の小規模の研究会はたくさんあります。そのほとんどは、症例検討会などの診断に関するものや最新の医療機器や新薬の講演、ASCOなどの学会レポートなどが中心です。本当の意味での自分たちが中心になった研究会というのは少なく、特に再発治療に特化した研究会は少ないということに気づいたので、もし立ち上げるなら再発治療、特に長期延命や治癒を目指した研究会にしようと決めました。

製薬会社数社に声をかけてみましたが、好意的に考えてくれていますので実現できそうな雰囲気です。これから年内発足に向けて準備をしていこうと考えています。

2011年7月4日月曜日

エリブリン(商品名 ハラヴェン)続報

乳癌の治療最新情報22(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2010/11/22.html)でもお報せしましたが、いよいよエリブリン(商品名 ハラヴェン)が日本でも4月に認可され、7月中に発売になりそうです。

適応は、「アントラサイクリン系およびタキサン系抗がん剤での治療歴を含む化学療法施行後の手術不能または再発乳がん」とのことです。エリブリンは海外第Ⅲ相試験(EMBRACE試験)において、単剤で初めて、前治療歴のある進行または再発乳がんにおける全生存期間(OS)を有意に延長した薬剤です(エリブリン投与群 vs 主治医選択治療群の全生存率 13.2ヵ月 vs 10.5ヵ月、ハザード比:0.81、p=0.014)。
ただ、安全性については骨髄抑制が高頻度に認められており、とくに好中球減少が多く認められているため、注意が必要です。

この薬剤の特長として、投与時間の短さ(2-5分の静注または点滴)と簡便さ(過敏反応予防のステロイドなどの前処置が不要)が挙げられます。したがって投与ルート確保、投与、フラッシングまでを約30分で終えることができ、患者さんと看護師の負担を軽減できます。外来化学療法室での投与に非常に適した治療と言えると思います。

アンスラサイクリン、タキサン耐性乳がんの治療手段に新たな薬剤が加わることは、再発治療中の患者さんにとって、光明だと思います。私の患者さんの中にも待っている患者さんがいらっしゃいます。ただ、新薬ですので十分に注意して投与しなければなりませんね。

2011年7月3日日曜日

「健康まつり」と乳がん触診モデル




今日、毎年恒例の病院主催のイベント、「健康まつり」が行なわれました。ポスターなどを掲示して病気の予防などの啓蒙をしたり、職員や地域の方々が飲食物やスーパーボールすくいなどの出店や歌・踊りなどのステージ発表を行なったりして、多くの方々が集まるイベントです。

恒例とは言いつつ、まともに参加したのは久しぶりでした。今回は外科外来で乳がん検診の啓蒙活動をするということでしたので、看護師さんに自己検診法を指導してポスターを作成し、掲示しました(写真1枚目)。また、乳腺センターの備品申請で乳がんの触診モデル(写真2、3枚目)を2種類購入したので、それも活用してもらうことにしました。この触診モデルは、京都科学というメーカーで作成しているものです。箱に固定されたタイプと首からもかけれるタイプがあり、それぞれに、がんや良性腫瘍に似せたしこりを埋め込んであります。えくぼ症状を呈するしこりもあり、なかなか巧妙に作られています。ただ、若干乳房が硬いので触診に力が必要です。せっかく購入した触診モデルですので、今後いろいろな場所に積極的に出かけて乳がん検診の啓蒙活動に役立てようと思っています。

今日は少し風が強かったのですが、とても良い天気でなによりでした。入院患者さんも車椅子などで来て下さっていましたが、楽しそうに笑顔を見せてくれていました。ただ、屋内の啓蒙ポスターのエリアへの人の流れが少なかったように見えましたので、来年はこちらにも多くの人が注目してくれるような工夫が必要ではないかと感じました。来年はもう少し積極的に関わってみようかなと思いました。

2011年7月1日金曜日

アロマターゼ阻害剤の乳がん発生予防効果

タモキシフェンによる乳がん発生の予防効果についての報告はかなり以前からあります。またタモキシフェンの仲間のラロキシフェンにも同様の作用があることが報告されています(http://www.medpagetoday.com/MeetingCoverage/AACR/19653)。しかし、閉経後の乳がん術後再発予防効果においてタモキシフェンより効果が高いと考えられているアロマターゼ阻害剤の乳がん発生予防効果については今まで充分にされていませんでした。

今回ようやくThe New England Journal of Medicine 2011; 364: 2381-2391にエキセメスタンによる閉経後女性の乳がん予防効果が報告されました。概要は以下の通りです。

報告者:Paul E. Gossら(米マサチューセッツ総合病院がんセンター)

対象:2004年2月〜10年3月に登録された35才以上の閉経後女性のうち以下の条件を満たした4,560例。
(1)60歳以上,(2)乳がん発症リスクを推計するGailの5年リスクスコアが1.66%超,(3)異型乳管過形成,異型小葉過形成,上皮内小葉がん,乳腺切除を伴う非浸潤性乳管がんのいずれかの既往—に1つ以上当てはまること。

方法:対象者を,エキセメスタン群2,285例(年齢中央値62.5歳)とプラセボ群2,275例(同62.4歳)にランダムに分類し、各患者群に,エキセメスタン25mg/日もしくはプラセボを最長5年間もしくは乳がん発症まで投与した。一次評価は浸潤性乳がん発症率とした。

結果:追跡期間の中央値35カ月におけるプラセボ群と比較した浸潤性乳がんの年間発症率は65%低下(0.19% vs 0.77% HR 0.35 p=0.002)、浸潤性+非浸潤性乳がんでは53%減少した(0.35% vs 0.77% HR 0.47 p=0.004)。
また,年間発症率は非浸潤性乳管がんでは0.16% vs 0.24%,異型乳管過形成,異型小葉過形成,上皮内小葉がんの3種を合わせた場合では0.07% vs 0.20%と,いずれもエキセメスタン群はプラセボ群に比べて低かった。
顔面紅潮,疲労感,不眠,下痢,関節炎などの副反応発生数はエキセメスタン群で高頻度だったが、心血管系イベント(106% vs 111%,P=0.78),臨床的な骨折(149% vs 143%,P=0.72),新規の骨粗鬆症(37% vs 30%,P=0.39),その他のがん(43% vs 38%,P=0.58)などの重篤な副反応に有意差は認めなかった。

結論:プラセボの投与に比べ,エキセメスタンの投与により,浸潤性乳がんの年間発症リスクは65%低下することが認められた。さらにエキセメスタンは,浸潤性乳がんの前駆病変である非浸潤性乳管がん,異型乳管過形成,異型小葉過形成,上皮内小葉がんの発症リスクも減少されることが分かった。


まだ観察期間が短いこと、対象者をどう選択するか、投与期間はどのくらいが適切か、などの課題はありますが、少なくともハイリスク症例に対する乳がん発生予防の選択手段の一つとして期待できそうです。

2011年6月27日月曜日

乳がん術後の下着説明会

病院にもパンフレットを置いていたり、学会や講演会などのブースで目にした患者さんもいらっしゃると思いますが、乳がん術後の患者さんのための特殊な下着を扱っているメーカーは何社もあります。その中でもかなり以前から製品化しているワコール主催の患者さん向け相談会が今年も近くに取り扱い店がない全国8都市で開かれるという報道がありました(今年で19年目)。

相談会名:「装いと下着に関する相談会」
対象:がんなどで乳房を手術した女性
内容:ワコールが開発した下着シリーズ「リマンマ」の商品展示(乳房温存術後の患者さん向けのブラジャーや薄型パッドも)、専門アドバイザーによる選び方や着け方の相談会
場所・日時:
福井市(7月21~23日)
青森市(9月15~17日)
松山市(10月13~15日)
岡山市(11月3~5日)
盛岡市(11月16~19日)
前橋市(12月に予定)
宮崎市(2012年1月に予定)
熊本市(同2月9~11日)
参加方法:ワコール・リマンマ事業課(0120・037・056)に事前申し込み
製品URL:http://www.wacoal.jp/remamma/

近くに取り扱い店がないと、なかなか普段は実際に見たり触れたりする機会がありませんので、このような企画はそういう地域に住む方にとっては貴重だと思います。興味がある方はせっかくのチャンスですので、利用してみてはいかがでしょうか?

2011年6月25日土曜日

医師の病状説明と患者さんの理解度

私事ですが、義父が手術をしたので昨日の夜に釧路に行って、今日の夕方に戻ってきたところです。

今回の経過は、80才になる義父が体調不良(食欲不振、嘔気、体重減少で寝たきりになり声も出なくなった)で近医を受診したところ、胆のうが非常に腫大していて今にも破れそうな状態だから大きな病院を紹介しますと言われたと義母から連絡が入ったことから始まりました。

胆のうが腫大する原因は、胆石による胆のう炎以外に下部胆管の閉塞をきたす膵がんや胆管がんなどの悪性疾患も考えられます。最初の連絡では、強い腹痛も高い発熱もなかったとのことでしたので、悪性疾患ではないかと心配していました。そして入院後に胆のうか胆管にチューブが入ったと連絡がありました。黄疸があったかどうかはよくわからないということでした。

そして、手術前日の説明を聞いた義母からの連絡では、「手術はうまくいけば腹腔鏡で胆のうを取るだけの手術で2時間くらいで終わりますが、今まで見たことがないような病態なので、どうなるかわかりません」というような内容だったとのこと。

で、病名は?と聞くと「よくわからない…」??

膵がんや胆管がんであれば、膵頭十二指腸切除術になりますし、時間も5−6時間くらいかかりますのでどうやら違うようです。胆のうがんの疑いがあるのかどうかは不明ですが、胆のう摘出術だけで終わるような胆のうがんが、チューブを入れなければならないような病態になる可能性は低いですので、結局胆石胆のう炎の可能性が高いのではないかと思いましたが、義母からは胆のう炎という言葉は聞かれませんでした。

で、昨日手術が行なわれましたが、結局予想通りただの胆石胆のう炎だったようで、無事腹腔鏡下胆のう摘出術で1時間ちょっとで終わることができました。経過は良好で一安心です。

なぜこんな話をここに書いたかと言いますと、医師の説明が十分でなければ患者さんやご家族の理解はこんなものだということです。こちらが十分にお話ししたつもりでも、専門用語を使いながら、相手が当然わかってくれるつもりで話をしたらまったく伝わらないのです。

乳がんの病状説明においても、他の疾患と同様に専門用語を使いすぎると理解は難しくなります。ただ病態から治療方針までエビデンスを交えながら話をすると、話す内容が多すぎて聞いている患者さんたちは頭の中が飽和状態になってしまいます。なるべく難しい言葉を使わないようにとわかりやすく説明しようとすればするほど時間がかかりすぎてわからなくなってしまう場合もあるのです。

説明後には、よくわかりましたと言っていたのに、翌日にはすっかり忘れていて説明したことをもう一度聞かれることもよくあります。ですから私はなるべく細かくあらかじめ紙に説明内容を書いて用意しておくようにしています。書きながら説明すると、どうしても机に向かって話をする形になるので、患者さんたちの表情から理解度を読み取ることができません。説明する時は、患者さん側を向きながらご説明し、「今お話しした内容は、この紙にも書いてありますのでもう一度読み直しておいて下さい」とお話しするようにしているのです。それでも時間がたつと、「そんな話は聞いていない」とおっしゃる患者さんもいます。その時は、その説明用紙を読むと納得して下さいますが、一般の方が医療の内容を理解するというのは、本当に難しいことなんだということを実感します。

医師の説明がわかりにくい場合、それを医師は理解していないことが多いと思います。たいていは、この説明でわかるはず、と思って話しているのです。ですから、聞いていて理解できない場合は、遠慮しないで何度でも聞いた方が良いと思います。今回の義父の手術のように、どんな病気が考えられて、その対応にはどのようなことが予想されるのかがまったくわからないまま手術を受けるというのは望ましいことではありません。結果的に一番良い結果だったので良かったですが、悪い結果で大きな手術に変更になって、合併症でも起きたら双方にとって不幸な結果になります。

医師側は、専門用語をできるだけ避けて十分にわかりやすくご説明し、用紙に内容を残すこと、患者さん側は、わからないものをそのままにせず、理解できるまでしっかり聞いて確認すること、これがそのあとの診療を円滑に進めるためにはとても重要なのです。