2009年12月30日水曜日

1年間ありがとうございました!

今年もあと残りわずか…。

ふとしたきっかけで始めたこのブログですが、もう少しで満1年になります。思いのほか多くの方が読んでくださり、コメントまでいただいてとてもうれしかったです(さすがに年末ともなると皆さん、お忙しいようで、ここ数日すっかり過疎ってますが…)。

開設時から月10回の更新をノルマにしてなんとかここまで継続することができました。でも最近は新病院建設関連の会議が多くなって、さすがにきつくなってきました。来年からは少しペースを落としてぼちぼちやっていきます。もし、ブログにとりあげて欲しいテーマがありましたら、ここのコメントにでも入れていただければ取り上げていきたいと思います。

また、娘からは、”字ばっかりで読みづらい!!”と前から言われてましたので、可能な限り写真なども入れていきたいと思っています。ただ、著作権や個人情報の問題もありますので、どうしても文字ばかりの情報になってしまうんですよね…。なんとか工夫してみます。

それではみなさん、良いお年を!

2009年12月28日月曜日

乳がん検診受啓蒙ポスター


今日、いつも情報提供に来ていただいている、製薬会社のNP社の方が、乳がん検診啓蒙用のポスターをラミネート加工して持って来て下さいました。

さっそく外科外来と検診課に貼ることにしました。大きくてなかなか見やすくてgoodです!

最近では乳癌関連の製薬会社さんが、このような啓蒙活動に力を入れて下さっています。製薬会社側からすれば、早期発見、早期治療は、もしかしたら会社の利益には相反するかもしれません。極端な話、すべて非浸潤癌で見つかれば、抗癌剤はまったく必要なくなりますし、かなりの患者さんはホルモン療法も不要になってしまいます。

そのことを今日ポスターを持って来てくれた担当者にお聞きしてみたら、
”たしかにそういう面もありますが、会社としても社会貢献は大切な責務だと考えているのです”
と答えてくれました。

実際はそれだけではなく、会社のアピール(こちらの効果の方が大きいと思いますが…)や医療関係者との連携を深めるためなどの理由もあると思いますが、大企業の責務としてこのような社会福祉活動を考えて下さることは大変ありがたいことです。これからもいろいろな形で乳癌の早期発見や乳がん検診の啓蒙活動に力を貸していただければありがたいです!

乳がん検診無料クーポン券利用率6.7%???


今日の北海道新聞の朝刊に書いてありました。10月末時点の集計ですが、道内で配布された乳がん検診の無料クーポン券利用者が、対象者のわずか6.7%しかいないという結果だったそうです。

原因は事前準備の遅れでクーポンが送付されたのが9月以降にずれこんだ市町村が8割もあったこと、制度の周知が不徹底だったことなどだと新聞では報じています。札幌ではもう少し早くに送られて来た(8月?)ような気がしますので、影響は地方ほど大きかったのかもしれません。

また、札幌では検診可能な施設が多いにも関わらず、受け入れ人数の制限があるために、受けたくても受けれない人が多いようです。聞いた話では、ある施設では3ヶ月待ちと言われた人もいたそうです。おそらく地方ではマンモグラフィを受けれる施設が少ないはずなので、もっと厳しい状態なのかもしれません。それでなくても地方では外科医不足が深刻です。毎日外来を開けないところも多いと思います。少ない外科医が少ない単位数の外来で、一般外来を開きながら乳がん検診を行なうのは時間的にも人的にも限界があります。このあたりの状況がどうなっているのか知りたいところです。

少なくても札幌市内では、無料クーポンの効果は絶大です。受けたい人はいっぱいいるのに、受け入れが不十分な現状があるのは確かです。これからさらに受診率を上げようと考えるなら、検診施設側の受け入れ状況を把握した上で対応策を検討して行かなければならないと思います。

マスコミも受診する側だけの問題ではなく、受け入れ側の問題にも目を向けて欲しいものです。現状では検診受診率50%以上を可能にするだけの受け入れ側の余裕はないように感じます。放射線技師、読影医師ともに、計算上の数は足りているかもしれませんが、実際にフルで乳がん検診だけに従事できる人は少ないのです。実際、資格認定だけ取って、まったくマンモグラフィを読影していない医師もいます。また放射線技師は、一般撮影も兼務している場合も多いはずです。

私たちの病院では可能な限り、検診の申し込みに対応するようにしています。一般外来を2診行ないながら、別の枠で乳がん検診を受け入れています。それでもなかなか厳しくなってきています。

もちろん、多くの方に検診を受けていただくことは、乳癌死亡率減少のために絶対に必要なことだと思っていますし、病院としても大変ありがたいことです。なんとかもっと多くの方に検診を受けていただけるように、個人的にも、病院としても、地域としても努力していかなければならないと感じています。

2009年12月22日火曜日

乳癌の治療最新情報12 ハーセプチンとタイケルブの併用

現在のところ、HER2陽性乳癌に保険適応のある分子標的薬には、点滴投与のハーセプチン(トラスツズマブ)と経口剤のタイケルブ(ラパチニブ)があります。

ハーセプチンは、臨床試験ではパクリタキセルとの併用だけだったにもかかわらず、併用する抗癌剤の制限はありません。また単独でも投与可能です。ですから、パクリタキセルとの併用が無効になれば、パクリタキセルからドセタキセルやナベルビン、ゼローダなどに併用する薬剤を変更しながらハーセプチンを継続することが可能でした。

一方、タイケルブは、申請する際にゼローダとの併用ということで保険適応申請したために、他の抗癌剤との併用は今のところ認められていません。単独での投与も原則不可です。ですから、タイケルブ+ゼローダが無効になればタイケルブの継続もできなくなります。

今回サンアントニオ乳癌シンポジウムで発表された報告によると、タイケルブ単独投与とハーセプチン+タイケルブの投与との乳癌再発患者における比較試験において、併用群では全生存率が有意に改善し、死亡リスクが26%低減したということです。同じHER2陽性乳癌に対する子標的薬でありながら、作用部位が異なるため、併用によってより効果が増強することが証明されたということです。

どちらも高価な薬剤ですので、併用するとなるとかなり経済的な負担が大きくなるのが問題点ではありますが、新たな治療法が使用可能となれば、HER2陽性患者さんにとっては心強いことでしょう。これらの臨床試験の結果を一日でも早く、国内に導入して欲しいものです。

乳腺術後症例検討会3

院内外の超音波技師、放射線技師、乳腺外科医、病理医、研修医で月1回開催している、乳腺術後症例検討会がついに30回目を迎えました。

今日は雪のために開始時間が遅れてしまい、終了したのが8:40くらいになってしまいましたが、遅くまで熱い討論を交わしました。

一言で乳癌と言っても同じ症例はないというくらい検査所見は様々で、1例1例が本当に勉強になります。多くの症例に触れることによって診断精度は上がると信じて、この会を続けています。

今回は特にマンモグラフィの所見が難しい症例ばかりでした。4例中、ほとんどの人が気づくのは1例だけ、あと1例は半数くらい、もう1例は数人のみ、最後の1例はまったくわかりませんでした。

そんなに大きな病院ではありませんが、珍しい症例も時々あります。これからの課題は、これらの症例を組織型別に分類して、画像診断のアトラスを作成することです。その組織型の典型例、非典型例をデータベース化することによって、新人教育にも使えると考えているからです。来年度の目標として少しずつ準備していくつもりです。

自分たちが学ぶこと、そして後輩にその知識を伝えること、どんな領域の仕事でも同じだと思いますが、これらは共に大切なことですよね。

2009年12月20日日曜日

第25回 乳腺診断フォーラム

昨日、東京で乳腺診断フォーラムが行なわれ、参加してきました。

このフォーラムは、年2回行われます。うち1回は乳癌学会総会の中で行なわれますが、これはフリー参加のため、会場から人があふれるほどの人気があるセッションです。今回は、メンバー(2年交代)だけが参加するclosedのフォーラムでした。

通常の研究会とは異なり、このフォーラムは症例検討が中心で、指名されたメンバーが所見を読むというのを基本に進んで行きますので、とても緊張します。もちろん、ここに出される症例は、診断が難しかった症例を選んで提示していますので、簡単にはわかりません。

症例1 70歳代後半の女性 CTで見つかった境界明瞭なしこり
乳腺の裏側から押し上げるような腫瘤。マンモも合わせて乳腺外の軟部腫瘍を考えました。エコーがすごく特徴的で、腫瘤表面が高エコーになっていて、そこからかなり強い後方陰影を伴っていました。なんだろう??
→超音波診断の第1人者である、S病院のT先生が、断言しました。
”シリコン肉芽腫だと思います。典型的な像で他は思い当たりません。”
え?そんな既往の説明はありませんでしたが…。それに片側だけというのは変では?
”CTをよく見ると対側にも少しだけ異常があるように見えました。エコーも比較として出した対側の画像で少し気になるところがありました。”
→再度、スライドを見直して一同、”お〜っ!”。ご本人は最後まで豊胸術の既往を否定したそうですが、組織学的にシリコン肉芽腫と診断されたそうです。

症例2 30歳代女性 検診マンモで指摘された皮下脂肪内にある淡い石灰化の集簇を伴った低濃度腫瘤
エコーでは乳腺から突出するような低エコー内に石灰化が多発しています
→悪性なら非浸潤癌?粘液癌?、良性なら線維腺腫?
私はMLT(mucocele-like tumor:粘液を貯留する嚢胞、癌を合併することもある)かな?と思いました。
結果は、”乳腺症”。いろいろ意見が分かれて、稀な腫瘍も考えましたが、結果的にはありふれた疾患でした。微小な嚢胞内に石灰化が多発してこのような画像になったようです。乳腺疾患は奥が深いです。

症例3 50歳代女性 だるま状のしこり
時間がなくなったため、SがんセンターのT先生に答えていただく形で進行。エコー上は非浸潤癌部分が主体のようにも見えましたが、結果的にはinvasive micropapillary carcinomaという悪性度の高い癌で、皮膚に広範なリンパ管侵襲を伴っていた症例でした。

症例検討のあとは、癌研有明病院乳腺外科の岩瀬拓士先生による、珍しい&判断が難しい良性石灰化症例のマンモグラフィについてのお話を拝聴しました。岩瀬先生のご講演は、いつもわかりやすいお話で勉強になります。

このフォーラムもメンバーによる会は来年で終了するそうです。非常に勉強になる機会なのでもったいないような気もしますが、もうすでに全国各地で同じようなフォーラムが行なわれるようになったということで、役目は終了したとの判断だそうです。

北海道でも毎年夏に行なわれていますが、若手医師や技師だけでなく、ベテラン乳腺外科医にとっても貴重な勉強の場になります。これからもこのような機会は続けていって欲しいと願っています。

2009年12月18日金曜日

乳癌の治療最新情報11 フルベストラント

pure antiestrogen製剤であるフルベストラントは、タモキシフェンやアロマターゼ阻害剤に耐性となった進行再発乳癌に有効であることが、海外のいくつかの臨床試験ですでに証明されています。

今回、このフルベストラントの高用量製剤(500mg)が、従来の250mg製剤より、有効であることがアストラゼネカ社から米国の乳癌シンポジウムで発表になりました。

内容の詳細はわかりませんが、第3相臨床試験において、投与開始1年後に病勢の進行がなかった患者の割合は250mg群が25%だったのに対し500mg群は34%だったということです。また、有意差はありませんでしたが、500mg群は死亡リスクの低減でも良好な成績で、安全性上に問題はなかったそうです。

これでまた一つ新たな治療法が増えそうです。現在、国内では未承認ですが、500mg製剤を近日中に申請するとのことですので、近いうちに使用可能になると思われます。今後は、進行再発乳癌だけではなく、術後補助療法としての使い分けが気になるところです。

2009年12月14日月曜日

イソフラボン 続報

2009.12.8のJAMA(online版)に、”Soy Food intake and Breast Cancer Survival”という中国のXiao Ou Shu先生の論文が載っています(私のブログを読んでくれている製薬会社の方にいただきました)。以前書いたように、大豆に含まれるイソフラボンは植物エストロゲンの一種で、構造はエストロゲンに似ていますが、乳癌に対してはタモキシフェンと同じようにヒトのエストロゲンの働きを妨げるのではないかと推測されており、乳癌の発生や再発の予防効果があるのではないかと言われています。

今回のXiao Ou Shu先生の報告によると、上海の20-75歳の5042人の乳癌患者さんのコホート研究において、平均観察期間3.9年の時点で大豆タンパク摂取量が多い患者さん(15.31g/day以上)は、少ない患者さん(5.31g/day以下)に比べると生存率(HR=0.71…危険度が29%減少するという意味)と再発率(HR=0.68…危険度が32%減少するという意味)が有意に良かったということです。

あくまでも1施設の報告ですので、これが正しいかどうかは断定できませんし、何度も述べているようにこのような疫学研究は非常にバイアスがかかりやすいので、今後逆の結果が出ることもあるかもしれません。例えばこの研究では、乳癌の診断時に食生活の聞き取り調査を行なっていますが、その後もまったく同じ食生活を送ったかどうかはわからないのです。

また、厚生労働省研究班(倉橋典絵:国立がんセンター予防研究所)が今年の3月に発表した研究では、イソフラボンの過剰摂取は、肝癌の発生率を3-4倍高めるとのことです。これもあくまでも1施設の研究報告ではありますが、エストロゲンには肝癌発生の抑制効果があると言われていますので、理論的にはありうることです。肝癌のほとんどは、B型、C型肝炎ウイルスの持続感染をベースとして発症してきますので、これらによる慢性肝炎や肝硬変のある患者さんは念のため注意した方がよさそうです。

いずれにしても、このような食品やサプリメントについては、まだまだわからないことも多いので、過剰摂取も過少摂取もしないように、バランスよく食べるのがやはり一番良いのではないかと思います。

2009年12月9日水曜日

乳癌の治療最新情報10 がんワクチン

ここ数年、がんワクチンの研究報告が次々と発表されてきています。私もがんワクチンに詳しいわけではありませんが、分子標的薬に続く新しいタイプの化学療法剤として注目しています。なお、現在でも一部の医療機関でこの治療が行なわれていますが、いまだに国内臨床試験中の治療法であり、保険では未認可であることに注意が必要です。また金額も高額です。

がんワクチンは、簡単に言うとインフルエンザワクチンなどと同じように、癌細胞の一部を抗原として免疫細胞に認識させて攻撃する治療法です。自分の免疫細胞を活性化させて癌細胞だけ攻撃する、ということで期待されているのです。

現在国内で臨床試験が行なわれているのは、癌細胞のタンパクの一部(ペプチド)を合成して数回皮下投与し、これを抗原と認識したキラーT細胞に攻撃させるというペプチドワクチン療法です。HLAという白血球のタイプで投与可能かどうか判断します。

その他、HER2/neuというタンパクをターゲットとして顆粒球マクロファージ・コロニー刺激因子(GM-CSF)を同時に投与して効果を高めるペプチドワクチン療法や、免疫細胞の一種の樹状細胞を採取して、その患者さんの癌細胞を抗原として認識させて(その患者さん独自のオーダーメイド)再び体内に戻す樹状細胞ワクチン療法などがあります。

最近米国から報告された方法は画期的です。腫瘍特異的抗原を搭載した直径8.5mmのポリマーディスクを皮下に植え込み、腫瘍を攻撃する免疫システムを再プログラミングするという手法を用いて、悪性黒色腫に効果があったとのことです。一度植え込むだけで持続性に効果がみられるので、非常に有効で使いやすいと報告されています。

免疫療法は、古くは丸山ワクチンなど、いくつもの治療法が開発されては効果が否定されて実臨床からは消えていきました。
しかし、癌細胞のみを持続的に自分の細胞で攻撃するというワクチン療法は非常に魅力的です。ですから長年の間、この魅力に取り憑かれた研究者たちが熱心に研究をすすめてきたのです。そして今ようやく実を結びつつあるような気がします。

ただ、インフルエンザワクチンでも副作用が問題になったように、がんワクチン療法でも重篤な副作用が起こりえます。ですから、慎重に臨床試験を行なってから使用すべきだと私は思っています。また、実際の生体内の反応というのは、上に書いたような単純なものではありません。癌細胞も生き残るために必死に抵抗してきます。ですから、思うような結果が出ないこともあるようで、まだまだ工夫の余地はあるはずです。

これから続々と世界中の臨床試験の結果が報告されてくると思います。早く効果的で安全性の確立したがんワクチンを保険で使用できるようになることを期待しています。

2009年12月6日日曜日

友愛精神をピンクリボン運動に!!

連日マスコミをにぎわせている鳩山首相の偽装献金問題。そのお金の出所を探るとどうやら、一部は母親の安子さんからの献金(贈与?お小遣い?)だったらしいとのこと。

安子さんから、鳩山兄弟に渡ったお金はそれぞれ11億円づつ。毎月1500万円づつ振り込まれていたのですからすごいお小遣いです。母親からの純粋な愛情からくるお小遣い(この場合でも贈与税は発生するようです)なのかもしれませんが、ちょっと常軌を逸した金額です。まあ、目的がなんだったのか、違法性があるのか、については検察が判断するでしょうから、置いておいて…。

この毎月3000万もの余ったお金を(安子さんはブリジストン創業者の娘で株の配当金だけでこのくらいは入るそうです)、もしピンクリボン運動に回してもらったら…と考えてみました。

3000万あれば、マンモグラフィ装置なら、毎月1-2台購入できます。もし、検診の自己負担分(札幌なら40歳代1800円、50歳以上1400円→平均1500円として)に回したら、毎月約2万人分を無料にできます。年間では、24万人、2年間で48万人!!

対象者全員を無料に、というわけにはいきませんが、所得の少ない家庭を優先的に補助するだけでも、かなりの女性が喜ぶはずです。

下手すると罪に問われるような後ろめたいお小遣いを息子たちに渡すより、社会貢献にもなり、友愛精神の象徴として間接的に息子にとって大きなプラスに働くと思われるようなお金の使い方をする方が良いのではないかと思いますが、皆さんはどう思われますか?。

乳がん検診啓蒙&自己検診指導講演会

昨日、病院の外来待合室で、乳がん検診の啓蒙と自己検診のやり方を指導するというミニ講演会をしてきました。

まず、札幌で活動しているアカペラグループの歌声で癒していただいてから、スライドを使って約45分くらい、乳癌の疫学や症状、検査、治療、そして乳がん検診と早期発見の意義についてお話をしました。それから、自己検診のビデオを10分くらい流したあとで、自己検診指導用の模型を使いながら、触診のコツについてご説明しました。その後で質問を数人から受けたのでお答えして、約1時間半の講演を終了しました。

土曜日の午後なので、当初、そんなに集まらないのではないかと思っていたのですが、職員や乳癌患者会の人たちも聞きに来てくれたので、急きょ椅子を追加しなけらばならないくらいの状況で、ホールはほぼいっぱいでした。どうも患者会の人たちの中には、私やG先生がアカペラを歌うと勘違いしていた人もいたらしいです(笑)。また、比較的高齢者が多い病院であるにも関わらず、若い女性も少し参加して下さっていたのが印象的でした。

今回の講演会にあたっては、検診課が中心となって職員たちが精力的にお誘いのビラを配ってくれたり、広報に載せてくれたりしてくれましたし、友の会の人たちにも協力していただきました。中には配布する資料を対がん協会まで取りに行ってくれた方もいました。また、製薬会社のAZ社には、自己検診指導用の模型を2台も貸していただきました。

乳がん検診に対する関心の高さが感じられる講演会でしたが、いろいろな職種の職員、患者さんたち、地域の方々、医療関連企業の皆さんのご協力が必要だということをあらためて実感したイベントでもありました。

2009年12月4日金曜日

抗癌剤の副作用5 睡眠障害

あまり抗癌剤自体と睡眠障害を関連づけては考えたことはなかったのですが、実際に乳癌患者さんに化学療法を行なうと不眠を訴える方は多い印象は持っていました。

最近掲載されたJournal of Clinical Oncologyのオンライン版によると、化学療法を受けている癌患者の4分の3以上が不眠症および睡眠障害に悩んでいて、その比率は一般集団の3倍以上であったということです。

特に不眠症状が多かったのは、年齢では若年者、癌の種類では乳癌と肺癌でした。抗癌剤2クール投与後のアンケート結果では、37%に不眠症の症状があり、さらに43%に不眠症候群(週3回以上の入眠障害または睡眠持続障害)が見られたとのことです。

今回の報告では、睡眠障害が抗癌剤自体の副作用なのか、抗癌剤を受ける患者さんの心理的背景が原因なのかについての詳しい検証はされていないようです。乳癌の患者さんにおいては、ちょうど更年期前後の女性が多いですし、乳房にメスをいれるという非常にショックな治療の後であること、抗癌剤による脱毛などの美容上のショック、などが、精神的に大きな影響を与えていることは間違いありません。

長期の睡眠障害は、疲労感を増し、食欲低下なども来しやすいため、私は患者さんに早めに睡眠薬を処方するようにしています。睡眠薬は一度使うと癖になってしまうのではないかと心配される方もいますが、必ずしもそうでもなく、治療終了後にご自分からもういらないとおっしゃる患者さんも多いです。

ただ、もともとうつ傾向がある患者さんなどでは、なかなか軽い睡眠剤では症状が良くならない場合もあります。そういう場合には、私はあまり無理して自分で抱えずに、専門医にご紹介するようにしています。うつ病が基礎にある場合には、やはり専門家にフォローしてもらうほうが安心だからです。

もし、不眠症状がみられた場合には、まず主治医に相談してみてください。なかなか改善しない場合は、専門医(精神科、心療内科、メンタルクリニックなど)に紹介してもらうことをお勧めします。

2009年12月3日木曜日

モルヒネは癌細胞の増殖を促進する!?

なんとも信じられないような話ですが…。

最近、モルヒネやその他のオピオイド系鎮痛薬が癌細胞の増殖を促すというエビデンスが増えつつあります(私は知りませんでしたが…)。モルヒネは腫瘍細胞の増殖を増大させ、免疫系を抑制し、腫瘍に栄養を送る新しい血管の成長(血管新生)を促し、バリア機能を低下させる可能性があると言われているそうです。

今回これを支持する新しい研究が、「分子標的治療に関する」米国癌学会(AACR)・米国立癌研究所(NCI)・欧州癌研究治療機構(EORTC)国際合同会議で報告されました。

今回発表された研究では、μオピオイド受容体を持たないマウスでは肺癌細胞を注入しても腫瘍は発現しませんが、正常なマウスでは癌が発現することを示しました。また、オピオイド誘発性便秘の治療のために開発されたメチルナルトレキソン(日本国内未承認)という薬剤によって、正常マウスにおける癌細胞の増殖が90%低減することも示しました。

癌による痛み(癌性疼痛)を非常に効果的に軽減してくれる医療麻薬であるモルヒネが、癌細胞の増殖を促すというのは、かなりショッキングなことですが、動物実験と実臨床は異なります。実際、癌の終末期に積極的治療を行なった場合と緩和治療を行なった場合の予後は変わらないかむしろ緩和治療の方が良いと言われています。人間にとっては、疼痛を軽減するという効果は免疫系にプラスに働くために、癌を増殖させる効果よりも影響が大きいのかもしれませんね。

また、今回の研究結果はこのメカニズムを利用したチルナルトレキソンのような新たな治療薬開発に道を開くかもしれません。ネガティブなデータをポジティブに変換できるという人間の知恵はすばらしいですね!