2009年11月30日月曜日

スカラーシッププログラム〜がん患者さんの学会参加に助成金!

NPO法人キャンサーネットジャパンと日本イーライリリー株式会社が発表した内容です(http://www.lilly.co.jp/pressrelease/news_2009_30.aspx)。

2010年に日本で開催されるがん関連学会で、希望する学会への参加助成として、学会登録費全額、ならびに交通費・宿泊費の一部を助成し、各学会開催前および会期中を通じ、学会参加の具体的支援をおこなう、というものです。

今までも、乳癌学会や乳癌検診学会に顔見知りの患者さんが参加していたのを見かけたことがあります。今回、このような助成ができたということは、それでなくても高額の治療費に悩まされている患者さんたちにとっては大きな恩恵だと思います。このブログを見てくださっている患者さんで、学会でどんなことを討論しているかに興味をお持ちの方は是非この制度を利用されると良いと思います。

最近の学会は難しいことばかりではなく、けっこう身近な問題も討論されます。
来年の乳癌学会は札幌です。是非初夏の札幌にいらしてください!

2009年11月26日木曜日

乳がん早期発見の啓蒙活動で進行乳癌は減少しているのか?

12/5に病院の外来で患者さん向けの乳がん検診と自己検診についての講演をします。今その準備をしているところです。

患者台帳のデータをいじってみたところ、興味深い結果がわかりました。

過去35年間を5年ごとに区切って、乳癌患者さんの病期別の比率を調べてみたところ、早期癌(0-1期)比率は確かに増加していました。1975-1980年に35.0%だった比率が、1985-1990年には43.2%、1995-2000年には52.9%、2005-2009年では57.1%と、病院で取り組んできた啓蒙活動やマンモグラフィ・超音波検査の精度向上などの効果を確信できるデータでした。

しかし、進行癌(3A-4期)の比率をみてみると、1975-1980年30.0%、1985-1990年14.8%、1995-2000年11.7%、2005-2009年では13.7%と、1985年代からほとんど低下していないのです。

つまり、自己検診で発見可能な大きさの癌(2A-2B期の中期癌)が、画像検査などでより早期で見つかるようになった一方で、自覚症状がありながら、何らかの理由で受診しない患者さんの割合は変化していないということになります。

バブルの崩壊、そしてここ数年の不況、離婚率の増加、核家族化の進行など、受診できないような経済的・社会的要因がここに影響しているのではないかと思います。

乳がん早期発見の啓蒙活動も重要ですが、このような受診困難者をいかに検診に結び付けるかを行政が考えていかなければ、乳癌死亡率の低下にはつながらないのではないかと感じました。

2009年11月24日火曜日

「エポジン注」 がん化学療法による貧血に対する追加承認を申請!

がん化学療法による最も代表的な副作用の一つが骨髄抑制です。

骨髄は血球を作る臓器です。血球(白血球、赤血球、血小板)は、癌細胞と同様に分裂・増殖が盛んなため、抗癌剤で影響を受けやすいのです。影響を受けやすい順番は、白血球>血小板>赤血球で、乳癌の化学療法で一般的に問題になるのは白血球の減少です。血小板の減少はあまり問題になることは多くはありませんが(マイトマイシンなどではたまに起きます)、3万以下まで下がると出血の可能性が大きくなるため血小板輸血が必要になることがあります。

赤血球の減少は起きても軽度で、術後の化学療法ではほとんど問題になることはありません(もともと貧血がある人は別ですが)。しかし、再発治療で抗癌剤を繰り返し投与していると徐々に貧血が強くなってくることがあります。骨転移などで放射線治療を受けた方は特に起きやすいようです。

化学療法による貧血は、若い女性に多く見られる鉄欠乏性貧血とは違いますので、鉄剤を投与しても改善しません。ですから、息切れやめまいなどの症状が出るほど貧血が進行した場合は、輸血するしか手はなかったのです。

エリスロポエチンというのは、もともと生体内にある(主に腎臓で生成される)、赤血球の産生を促進するホルモンです。遺伝子組換えヒトエリスロポエチン製剤「エポジン注」という薬剤は、もともと腎性貧血や、手術時の自己血採取目的でしか保険適応はありませんでした。
今回、中外製薬から発表された報告によると、国内の第Ⅲ相臨床試験において、エポジン注を12週投与した患者さんでは、プラセボを投与した患者さんと比較して、理論輸血率(投与開始4週後以降に赤血球輸血を施行またはヘモグロビン濃度が8.0g/dL未満となる割合)の有意な低下が認められたとのことです(主な副作用は、血圧上昇・高血圧、便秘、下痢)。この結果をもとに、がん化学療法による貧血に対する追加承認を申請したということです。

新しい化学療法剤の開発とともに、このような副作用対策の新薬が次々と開発・承認されるのはありがたいことです。今すぐにでも使いたい患者さんが待っています。もちろん安全性の確認は必要ですが、今までほかの疾患で投与されてきた薬剤なので大きな問題はないはずです。一日でも早い承認が待たれます。

2009年11月22日日曜日

乳癌学会演題締め切り近づく!

来年の乳癌学会は札幌で行なわれます。今年の乳癌検診学会に続いて連続の札幌開催です。本州の先生方にとっては、初冬と初夏の北海道を堪能できることになりますね!

さて、その乳癌学会の演題締め切りが来月初めに近づいてきています。

私はいつも研究テーマが頭に浮かぶとメモをするようにしています。日常診療中に思いつくこともありますが、患者台帳の入力や予後調査の際に思いつくことが多いんです。こんな症例、前にもあったな…まとめてみよう、とか、こんなに進行していたのにまったく再発しないのはどうしてなんだろう?とか、逆にこんな早期だったのにどうして再発したんだろう?とか…。携帯のメモ帳にはそんなテーマがいくつも書いてあります(なかなか腰が重くて作業が進みませんが…)。

患者さんは私にいろいろなことを教えてくれます。ですから私は患者さんからいただいた貴重な示唆を臨床に活かせるような臨床研究をしなければならないと思っています。残念ながら規模の小さな病院ですからできることは限られていますが、今度の学会でも今後の治療に少しでもつながるような発表がしたいですね。

実はもう乳癌学会の抄録はある程度出来上がっています。でも、もう一つのテーマのほうが面白そうだと思っていて迷っています。そっちのテーマに取りかかると、病理検査室に仕事を頼まなければならないので、締め切りまでに間に合わなくなるかもしれません。ダメもとで両方準備してみようかな?

2009年11月18日水曜日

プラセボ(偽薬)効果について

このブログの中でも何度か書いてきたプラセボ効果ですが、皆さんはどういう意味かご存知ですか?

プラセボ(placebo)とは、現代では一般的には”偽薬”の意味で使われていますが、もともとラテン語のplaceboとは”喜ばせる”という意味で、19世紀に患者さんを喜ばせる目的で投与していた薬剤一般を意味していたそうです。

1955年にBeecherという人が解析したところ、手術の痛みや頭痛、狭心痛に対するプラセボによる効果は35%にもなることを報告しています。痛みやストレスの多いときにこのような心理的な介入をすることによって副腎の働きを活発にして、除痛効果を発揮するのではないかと考えられています。他にもプラセボによる心理的な影響が身体に働きかけて、薬剤を投与したときと同様の効果を与えることがあると考えられており、これらをプラセボ効果と呼んでいるのです。

ですから、ある薬剤が、本当に医学的な効果があるのかを正確に証明するためには、このプラセボ効果を明らかに上回る効果があることを証明しなければならないのです(余談ですが、プラセボでも吐き気や頭痛、便秘などの副作用も出るそうです)。現在、認可されている医薬品のほとんどは、このプラセボやすでに効果が証明されている薬剤との比較試験によって有効性が証明されているものです。

一方、民間療法のほとんどは、このプラセボとの二重盲検試験(患者さんも投与する医師も本当の薬剤か偽薬かわからない状態で投与する比較試験)を行なっていません。例えば、民間療法薬で癌が一時的に進行が止まった人がいたとしても、もしかしたらプラセボ効果なのかもしれないのです。進行が止まったのなら良いのではないか、という考え方もあるかもしれませんが、高額のお金を取るからにはきちんとした証明が必要だと私は思います。また、様々な研究でプラセボ効果がみられる頻度はそれなりに高いが、その効果の程度は少ない(痛みでは全長10cmのVASで6.5mm、肥満の軽減は3.2%、高血圧の改善は拡張期圧で3.2mmHg)と言われています。

2009年11月16日月曜日

乳癌の治療最新情報9 MRガイド下集束超音波手術

早期乳癌に対する局所治療は、乳房切除術から乳房温存術、そして将来的には非切除治療=焼灼療法(ablation)へと移り変わろうとしています。

焼灼療法は現段階では、まだ標準的な治療となっていませんが、国内でも試験的に導入されてきています。乳房にメスを入れない治療は、女性にとって非常に魅力的ですが、まだ様々な問題があり、施設によっては適応や治療内容に疑問を感じることもあります。標準治療が存在する早期乳癌に対して、このような先進的な治療を取り入れる場合には、患者さんに不利益を生じないように慎重に導入を検討すべきなのですが、なし崩し的に行なわれているケースがあるのが危惧されます。


焼灼療法にはいくつか種類があります。代表的なのは、ラジオ波焼灼療法、集束超音波療法などです。

このうち国内で最も多く行なわれているのが、ラジオ波焼灼療法(Radiofreequency Ablation:RFA)です。エコーで見ながらラジオ波で熱を発生するチップを癌巣内に挿入して癌を焼く方法です。もともと肝癌などに用いられてきた治療法で局所制御効果には一定の実績があります。しかし、乳癌に対する治療としては、まだエビデンスに乏しく、国内の臨床試験が開始されて間もない段階ですが、各施設ですでに臨床応用が行なわれている状態です。また、エコーガイドなので、MRの広がりの範囲と焼灼範囲のモニターが難しいなどの問題点があります。

一方、MRガイド下集束超音波手術(MRI guided Forcused Ultrasound Surgery:MRgFUS)は、2001年に米国で初めてFDAが臨床試験を認可したablationです。虫めがねで光を集めて熱を発する原理と同様に、超音波を1点に集めて熱を生じさせて癌を焼く治療法です。MRモニター下で行なうため、MR画像で焼灼範囲の計画を立てた通りに治療することが可能であり、治療データの保存が容易で温度のモニターもできます。画像の比較が容易なため、治療後の再発チェックのフォローもしやすく、万が一再発した場合の原因検討もRFAに比べると容易です。

MRgFUSは、治療後に切除して治療効果を評価する臨床試験(BC003)を終了し、現在FUS後に放射線治療を加えて非切除とする臨床試験中(BC004)です。国内では、ブレストピアなんば病院(宮崎)が、この臨床試験に参加しています。

適応は、大きさ2cm以下、広い乳管内進展がない、リンパ節転移がない、腫瘍が皮膚・肋骨から9㎜以上離れている、などです。現在は、粘液癌は癌巣内を超音波が素通りしてしまうため、効果が乏しく、適応からはずしているようです。

これらの焼灼療法の問題点は、
①切除しないため、治療範囲内に癌がおさまっているかどうかを確認できない(MRgFUSのBC003では、乳管内成分の治療範囲外の遺残率は34.5%)
②したがって、手術の場合、断端陽性の際に追加するブースト照射の適応が判断できない
③治療範囲内も100%の癌細胞が死滅するとは限らない(BC003では、熱凝固面積は96.7%)

などです。ですから、治療後の乳房内に癌細胞が残っている可能性は手術に比べると高いことが予想されますので、放射線治療は必須です。放射線治療を省略して良いという根拠はありません。しかし、一部の施設では非照射で治療が行なわれているようです。この場合、かなり高い率で局所再発をきたす可能性がありますので注意が必要です。

以上のように、今のところまだ標準的治療にはなっていませんが、将来的にはこのような非手術的な局所治療(ablation)が標準治療となる時代が来るのではないかと思います。そのためにもきちんとした臨床試験を行なう必要があります。ばらばらの治療を各施設で行なうと、せっかくの良い治療なのに、問題点だけが表面化してしまうからです。

早く、これらの治療が標準的治療法の一つになれば良いですね!

2009年11月12日木曜日

私が尊敬する超音波技師Sさんから学んだこと

私が学会に参加する楽しみの一つは、乳腺診療に携わる恩師、仲間や先輩たちと貴重な話ができることです。その恩師の一人が、Sさんです。

Sさんは医師ではありませんが、誰もが認める超音波検査技師の第1人者です。私がG病院で研修中だったときに、外来や病棟、手術室以外で一番多く出入りしていた場所が超音波検査室でした。そこでいつもSさんの仕事ぶりを見せていただき、貴重な教えをいただきました。

”スクリーニングは何十分も時間をかけちゃだめだ。見えない人はいくら時間をかけても見えないんだよ。”
”ドップラーで良悪の診断をするのは間違っている。Bモードを読めない技師がそんなものを使っても意味がない。まずはBモードで診断する訓練を十分に受けなければだめだ。”

などなど。部下の技師さんたちにとってはとても厳しいSさんですが、私にはこのような指導者のもとで学べる技師さんたちは幸せだと思った記憶があります。Sさんのすごいところは、乳腺に関する知識が超音波の枠を超えているところです。G病院では多職種が集まって症例検討を行っています。長年そこに指導的立場で参加してきたSさんは、マンモグラフィや病理の知識も医師の私よりずっと豊富でした。そういう知識が、日常の超音波診断にも反映されています。Sさんが書くレポートには、まるで顕微鏡で見てきたんじゃないかというような、癌の伸展範囲を詳細に表したシェーマが書いてあります。後に病理結果と比較してみると、まったくその通りだったりするので、その読みのすごさにはいつも驚きでした。このような記録は、仮に結果が違った場合でも、見直して学ぶための貴重な資料になります。

以前うちの病院で働いていたY技師さんが、ご主人の転勤で関東に転居したため、いまSさんの指導を受けています。Yさんも乳腺超音波の経験はけっこうあったのですが、Sさんから見ればまだまだひよっこです。Sさんは相変わらず厳しいようですが、充実した日々を送っていると思います。Sさんは学会発表の指導もかなり厳しいので何度もダメだしされて彼女はいつもへこんでます。でもこの前の発表は終わったあとで少しほめられたので、”初めてほめられた!”と喜んでいました。

Sさんは、経験の浅い技師であっても、学会発表するからには、きちんとした内容でなければだめだという考え方です。ある意味当然なのですが、初めてなんだから低いレベルの発表でも仕方ない、と思っている人もいるのです。でも、聞いている人にとっては、その発表者が初心者かどうかはわかりませんし、関係ありません。発表するからには言いたいことが伝わらなければ何にもならないのです。また、最初のうちにこのような訓練を受けていなければ、それでいいものだと思ってしまい、成長できなくなってしまいます。

私もそういうSさんの指導を見てきたので、うちの病院でもそのような環境をつくりたいと思ってきました。私は超音波検査の技術はありませんので技術指導はあまりできませんが、G病院でSさんに学んだ乳腺疾患診断に対する考え方や他の診断法(マンモグラフィなど)に対する知識の必要性、学会発表への取り組み方などを技師さんたちに伝える努力をしてきたつもりです。きっと少しは伝わったと思うのですが…。

田中賢介選手のトークショー&ピンクリボン運動

かねてからマンモグラフィ検診にファンを無料招待したり、ピンクのリストバンドをつけて試合に出るなど、ピンクリボン運動に協力してくださっていた日本ハムファイターズの田中賢介選手ですが、来月の7日、午後6時から道新ホールでチャリティトークショーを開催すると今朝の北海道新聞に出ていました。

主催は北海道がん対策啓発委員会(事務局・北海道新聞社)で、ピンクリボン運動の啓発目的で行なわれます。

主な内容:①今シーズンを振り返る ②田中賢介選手のバットやグラブ、チームメートが提供した品物のオークションなど。

入場は無料です。オークションの収益金はピンクリボン運動のPR活動に充てるそうです。

招待券の希望者は、はがきに郵便番号、住所、氏名、年齢、電話番号を明記し、〒060-0002 札幌市中央区北2西2 札幌ウイングビル5階 オールプロデュース内「田中賢介トークショー」係へ送ってください。応募は1人1通のみです。26日必着。定員500人。抽選の上、当選者に招待券を郵送するとのことです。

やはり芸能人やプロ選手がこのような社会福祉活動を行なってくれるというのは影響が大きいです。これからもこのような社会的影響力の大きい方々に協力していただきながら、ピンクリボンの輪を拡げていきたいものです。
(鳩山総理夫人にTVで呼びかけてもらったりするのも良いかもしれませんね!)

2009年11月10日火曜日

再発に対する外科治療は無意味?

一般的に乳癌が再発した場合に外科的切除が推奨されるケースはほとんどありません。

現在、乳癌の再発治療は、Hortobagyiのアルゴリズムにのっとって行なうことが基本になっています。このアルゴリズムは、簡単に言うと、ホルモンレセプター陰性の場合には抗癌剤、ホルモンレセプター陽性の場合には、生命の危機的状況がある場合には抗癌剤、危機的状況ではない場合には、ホルモン療法(無効になっても2次、3次のホルモン療法)という考え方です。

以前は肺転移や肝転移、鎖骨上や胸骨傍リンパ節再発などに対して外科的治療が積極的に行なわれていました。しかし、成績が思わしくないため、世界的にこれらの治療を積極的に行なうケースは稀になりました。現在、許容されているのは、脳転移(単発もしくはごく少数の場合で一定の条件を満たした場合)、単発性の肺腫瘤で肺転移か原発性肺癌か鑑別できない場合、診断目的の局所再発の切除、放射線や抗癌剤などに抵抗性のリンパ節再発や局所再発(局所コントロール目的)などです。

しかし、今でも症例を選んで(一つの臓器の転移で比較的侵襲が少なく切除可能な場合)手術を行なっている施設もあります。やはり外科的切除を行なった上で全身療法を行なう方が治癒(長期生存)を目指せるという考え方からです。しかし、学会でもときどき腫瘍内科医の激しい反論を浴びます。再発に手術などとんでもない!ということだそうです。

今回はこの論争に加わるつもりはありません。しかし、私たちもいろいろな理由で転移巣の切除を行なうこともあります。

こんな患者さんを経験したことがあります。

その患者さんは、乳癌で乳房切除術を行なった2年後に胸骨傍リンパ節に再発しました。原発巣はホルモンレセプター陽性だったためアロマターゼ阻害剤を投与していましたが、その内服中の再発でした。自覚症状はありませんでした。

Hortobagyiのアルゴリズムと腫瘍内科医の考え方からすると、まずホルモン剤の変更で経過をみる、ということになります。しかし、私は外科的切除を選択しました。理由は術後のホルモン療法が全く効いていなかったことと、増殖スピードが速かったこと、原発巣のホルモンレセプター陽性率が低かったことなどです。

切除したリンパ節の病理結果は、ホルモンレセプター陰性となっていました。

つまり、ホルモン療法を続けていても効くはずはなかったのです。これは切除して病理検索しなければわからなかったはずです。術後は抗癌剤を投与し、さらに局所に放射線治療を追加して経過観察中です。

このようなケースが存在することを考えると、Hortobagyiのアルゴリズムを盲目的に信じて効果がないのにホルモン療法を変更投与し続けるのはどうかと思ってしまいます。今回のケースのように、ホルモンレセプターの陰性化が起きている可能性も考えるべきですし、確認するための外科的切除も考慮しても良いのではないかと思います。特に原発巣のホルモンレセプター陽性率が低かった場合や最初のホルモン療法にまったく無効だったケースには何らかの病理学的な検索を行なうか、化学療法への変更を考えるべきだと思います。

ガイドラインやアルゴリズム、エビデンス、これらは盲目的に従うべきものではなく、最前の治療方針を導くための重要な参考書です。原則的には守るべきものですが、法律ではないと私は思っています。
(ただし、標準的な治療をせずに、民間療法だけ行なうことを推奨するのとはまったく意味合いが異なります。)

2009年11月7日土曜日

検診受診率の話のつづき

昨日の公開シンポジウムの続きです。

乳がん検診を受けなきゃ、と思いながらなかなかきっかけがなくて受けない人が多いことが問題で、いかにこういう人たちの背中を押してあげるかが課題だと言うお話でした。

一方で、ネットを見ていると、いまだに”乳がん検診は無意味だ”という人たちが存在します。個人攻撃はしたくないので、こういう論調を広めようとしている人物のことには触れたくありませんが、受診が遅れて、悲しい結果になった患者さんたちをたくさん見ている私たちから見れば、早期発見が無意味だという考え方は容認できません。乳がん検診受診率が75%を超える欧米諸国で、乳癌死亡率が低下しているのはまぎれもない事実です。乳がん死亡率が減少しても全死亡率は変わらない、ということをその理論の根拠にしていますが、これは最終的な結論は出ていないはずです。また、1−2年に1度のマンモグラフィが生体に及ぼす影響も問題ないとされています。

とにかく、こういう説をまともに信じてしまっている人たちがけっこう存在していることに驚きます。いったん信じ込んでしまえば、私たちがいくら乳がん検診の効果を説いても考えを覆すのはかなり困難です。前にも書きましたが、一部マスコミ主導の乳がん検診キャンペーンが効果が証明されていない若年者にマンモグラフィを勧めるという誤った認識のもとで行なわれていることが、こういう乳がん検診罪悪論者の主張を助長させてしまうのではないかと危惧しています。

乳がん検診を受けるつもりがある人に対するアプローチだけではなく、このようなネットやマスコミの情報で乳がん検診に対する疑念を持っているために検診を受けたくないと思っている人たちに対する対策も必要だと思います。乳がん検診について正しい認識を広めること、このような誤った情報を垂れ流しにすることに対して、乳癌検診学会がきちんとデータを示して論破することが必要だと思います。

(なお、乳がん検診が不必要だと考えていて私のこのブログの内容に反論したい方は、ここではなく、診療ガイドラインを作成している日本乳癌学会、または乳癌検診学会にお問い合わせください。)

第19回乳癌検診学会総会 2日目 乳がん検診受診率アップのために何をすべきか?

今日は午前、午後にうちの技師の発表があったので症例報告の口演を聞きに行きました。発表は二人とも無難に終了し、やっと肩の荷が下りました。

他には午前中にマンモグラフィのfilm readingという読影試験を受けて、ランチョンセミナーは友人のK先生の講演を聞きに行きました。

午後は、以前お世話になったN先生の特別講演を聞いてから、公開シンポジウム「札幌市民の声ー日本人女性は何故、乳癌検診を受けないのかー」を聞いてきました。

平成19年度の全国の乳がん検診受診率は14.2%、北海道は18.3%、札幌は17.9%です。一方、乳癌死亡率が低下してきている欧米の乳がん検診受診率は軒並み75%以上…。やはり乳癌死亡率を低下させるためには50%以上の受診率が必要です(ちなみにこれだけ明らかな早期発見の重要性のデータがあるにも関わらず、いまだに乳がん検診は意味がないとか、被爆で乳癌が増えるなどと言う人たちがいることが信じられません)。

11/3から行なわれていたピンクリボンウィークのイベントで調査したアンケート結果によると、乳がん検診を受けない理由の1位は自分は癌にならないと思っていること、2位は検診費用が高いこと、3位は検査が怖いことだったそうです。他には、時間がないとか恥ずかしいなどの意見がありました。一方で、ではこれらの課題がクリアされたとしたら、果たして本当に検診を受けるのだろうか?という疑問も出されました。結局、受けるか受けないかは、時間があるとかお金がかかるとかだけではなく、受診者の検診に対する意識の問題ではないだろうかという意見です。私も自分の周りの女性たちとの話からもその通りだと感じています。病院の職員も、これだけ乳癌患者さんを目の当たりにしていて、検診を受けなきゃだめだという自覚を持ちながらも、実際はなかなか受けていないのが現状です。

検診受診のきっかけになるためには、パネリストからも意見が出されましたが、例えば友人に誘われるとか、知人が乳癌になってしまって勧められたなどの周りからの後押しが必要だろうと思われます。アメリカのように生命保険会社が積極的に加入者に働きかけて検診を義務化するとか、低所得者には毎回全額補助を出して、積極的に誘うなどの努力も必要だと思われます。企業検診を行なっているところもありますので、国や自治体が企業に補助を出して、就労者全員に検診を義務化するのも良いでしょう。いずれにしても、受けた方がよいと思っている人たちの背中を押してあげる工夫が必要だと感じました。

学会終了後は、発表した技師さんたちの慰労会&反省会と今後の学術活動についての議論を交わしました。現状に満足していては進歩もないし、後輩も育ちません。自分が常に向上心を持って仕事に取り組んでいる姿を見せることが、後輩の育成につながり、ひいては病院のレベルの向上、そして何より患者さんに対してプラスになるということを確認し、これからも学術活動に積極的に取り組んで欲しいというようなお話をしました。これはいつも思っていることではありますが、昨日のK先生のご講演で思いを強くしたことです。人に言うからには自分も現状で満足してはいけない、とあらためて思いました。

2009年11月5日木曜日

第19回乳癌検診学会総会 1日目 恩師の講演

今日から検診学会です。

午前中は知人の超音波検査関連の発表を聞いていました。
ランチョンセミナーは今ひとつの内容だったので省略…。

午後からは、恩師のK先生のご講演がありました。演題は、「乳腺外科医としてのランニングをほぼ終えて」という意味深なものでした。もしかしたらそろそろ現役を引退されるのかな…と思いながら聞いていました。

内容は、K先生が東大医学部に入学されて、学生紛争のまっただ中で卒業、インターンを過ごされてから、G病院で乳腺外科医を志すにいたるまでのお話が中心でした。ご自分が医療や医学、患者さん、生と死にどのように対峙して来られたか、どう考えながら医師として過ごして来られたか、など含蓄深いお話でした。

研修中に実際に目の当たりにしたK先生の患者さんに対する思いやりと、どんなに疲れていても手を抜かない診療姿勢は、このような様々な経験をして、患者さんや病気に対する深い思いを感じて来たからこそ長い間やり通せているのだと改めて感じました。また、乳癌に対する飽くなき探究心、上に立つ医師が後輩に見せるべき姿勢など、私にとってとても耳が痛いお話を聞くことができ、自分を振り返る良い機会にもなりました。

お話の中では、まだ正式に引退表明はされていません。お話ししているお姿を拝見する限りはまだまだ現役でご活躍できるのではないかと感じました。でも探究心豊富なK先生ですから、何か新たなものにチャレンジしようとなさっているのかもしれません。これからもどんな形でも良いので乳腺医療に関わりを持ち続けて私たちをご指導いただきたいと思っています。

明日も朝から学会に参加してきます。

2009年11月3日火曜日

第19回乳癌検診学会総会 in Sapporo

2009.11.5-11.6に札幌で乳癌検診学会総会が行なわれます。

今回は、乳癌の予防についての教育講演やシンポジウムがあるのが特徴です。尊敬するK先生の特別講演も楽しみです!

超音波検診についてのパネルディスカッションも聞きにいくつもりですが、まだ臨床試験中なので、昨年と大きく変わった話は期待できないかもしれません。マンモグラフィ検診については、もう出尽くした感があって、ここ数年あまり面白い話題はありません。

私のところの施設からは超音波技師が2題演題を出します。私は今回はお手伝いだけでした。仕上がり具合は微妙なので、なんとか無事に終わると良いのですが…。この学会には最近は毎年、技師さんたちが演題を出しています。自分たちの仕事を振り返ってこれからに生かすためにとても貴重な機会になっています。

なお今回の学会に関連して、2009.11.7に「自分と家族を守るために学んで知ろう乳癌の話」という市民公開講座があります。14:00-16:30、場所は共済ホール(札幌市中央区北4西1)6Fです。往復はがきでの申し込みが必要みたいですので当日の参加は難しいかもしれませんが、興味ある方は直接問い合わせてみてください(http://www.kyosaihall.jp/event/img/091107.pdf)。

2009年11月2日月曜日

看護学校の試験問題づくり

この前、乳癌についての講義をしたので、試験問題を作らなくてはなりません。

いつも過去に作成した試験問題を参考にして作るのですが、先日PCが完全に壊れてファイルが消えてしまったため、今回は一から作り直しです。

再試の問題を作るのも大変なので、基本的には赤点を取らないような問題を私はつくります。学生たちも(私の時代も同じでしたが…)過去問をゲットしていて、だいたいの傾向は把握しています。ですから、実際、再試になる学生はほとんどいません。

しかし…今回は私が過去問をなくしてしまったんです!!

全員に点数を取らせる問題づくりは実はなかなか難しいんです。易しいと思って作っても全然できない学生が必ず数人いるんです。そういう子は講義中に、”ここは必ず出す!”って言ってもとんちんかんな答えを書くんです!

う〜ん…。わかりやすくて役に立つ問題をこれから頑張って考えます!